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異世界転生したいけど出来ないから自分が異世界から転生して来たことにした

作者: 三下太郎

 


 私、櫻井(さくらい) 香苗(かなえ)、何の特技も無いごく普通の中学二年生。でも、そんな私には大きな秘密があるのです。それは、私が異世界から転生してこの日本に生まれたということ!


 実は私は異世界にある王国のお姫様だったの。そう、私は異世界転生者なのです!


「香苗、また転生話を書いてるのか?」

「ちょっと勝手に見ないでよ! それに勝手に部屋に入ってくるな!」


 私の部屋に不法侵入してきた少年、彼は私の幼馴染で同じく中学二年生の岡島(おかじま) 侑斗(ゆうと)。机に向かってがりがりと転生ネタをノートに書き殴っていて気がつかなかった。


「何で? 前から入ってるじゃん」

「あんた自分がもう中学二年生だってことわかってる? 普通は女の子の部屋に勝手に入らないわよ!」

「お前の方こそ中二にもなってまだ()()()()()やってるのか?」

「へっへーん! 世の中には厨二病って言葉があるのよ! 知ってる? 中学二年生はどんなイタいことやってても許されるのよ!」

「……イタいことって自分で言っちゃうのかよ」

「だって楽しいんだもん! 自分が楽しいことやって何が悪いのよ! 誰にも迷惑かけてないもん」


 これは私の密かな楽しみ。幼稚園の頃から、転生者の私の設定を考えることが、私の趣味みたいなものなのだ。

 小さい頃の侑斗は興味津々に私の話を聞いてくれていたのに今は小馬鹿にしてくる始末。可愛くない。


 だから小さい頃は侑斗も私と一緒に転生してきた王子様設定だったけど、今は私のこと小馬鹿にしてくるから私の従者に格下げしてやった。転生前は私にこき使われていた設定だ。


「国民から愛される王女が従者をこき使う設定ってどうなんだ?」

「あ! また勝手に見た!」


 侑斗はノートを手に取りパラパラとめくって言った。奪い返そうと手を伸ばすがひょいと手を上に上げられてしまうと届かない。この一、二年で無駄に身長が伸びやがって。


「それにこの死因ランキングって何だよ」

「あ、それ? いいところに目をつけたわね! 私の異世界での死因は長年病死ということにしていたけど、もう少しドラマチックな方がいいんじゃないかと思って考えてみたのよ!」

「胸を張って言うことか?」


 呆れた眼差しで小馬鹿にしてくるけど、私の異世界話を聞いてくれるのは侑斗だけなのだ。親とかお姉ちゃんには恥ずかしくて話せないもん。


「まあ聞きなさいよ。今の第一位は、魔王にやられそうになった王子を庇って死ぬ」

「……魔王なんて今まで出てこなかったじゃん」

「どっかにいたのよ。それに魔王って悪い奴の象徴っぽいでしょ? それよ」

「この王子は? 俺じゃないんだろ?」

「あんたは私の従者に格下げだって言ったでしょ。これは隣国の王子よ。許嫁だった王子を庇って死んでしまった私はこの日本という異世界で王子と運命的な再会をするっていうのはどうよ?」

「俺に聞くなよ。と言うか、お前に庇われた王子も結局死んでるのかよ」

「あ、そっか」


 確かに折角庇った王子が死んでしまっているのは助け損だ。


坂木(さかき)くんとか王子様っぽくていいかと思ってたんだけどな〜」

「え、お前坂木くんのこと好きなの?」

「んー? いや、クラスの友達がかっこいいって言ってたからいいかなーって」

「なあ、お前の変な妄想に坂木くんを巻き込むなよ?」 

「失礼ね! 別に何もしないわよ」


 同じクラスの坂木 涼太(りょうた)くんは、女子に人気がある。高い身長に整った顔立ち。そしてなにより女子に優しい。クラスの中心的なグループに属していて、比較的派手めな女子から私のような日陰者まで密かに思いを寄せている生徒は多い。


「あーあ、残念」

「お前やっぱり好きなんじゃん」

「好きとかじゃなくてさ。普通の女子なら誰だって坂木くんみたいなタイプかっこいいって思うでしょ。てかあんたもそんな他人の好きとか嫌いとか気にするんだ? 何か意外」

「お前は他人じゃないだろ」

「あ、幼馴染か! あはははは!」



 ***



 俺、岡島 侑斗は異世界転生者だ。これでも前世では勇者をやっていた。そんな俺の周りには記憶のあるなし関わらず、同じく異世界から転生してきた人間が多い。まず、俺の父親は前世で俺が仕えていた国の王様だ。母親は王妃。同級生の坂木 涼太は姫つきの騎士。学年のマドンナは姫。そして、幼馴染の櫻井 香苗は世界を滅ぼした魔王だ。


 俺の前世の世界は魔王に滅ぼされてみんな死んだ。


 生まれ変わってまず驚いたのが、魔王(おまえ)も死んでんじゃねえか! と、いうことだった。


 最初は見張るつもりで仲良しごっこをしていたのに、香苗の馬鹿さ加減に度肝を抜かれた。自分が異世界転生したとか言い出したときは記憶が戻ったのかと疑ったがそんなことはなかった。


 自分が姫だと言う姿に、「いや、お前魔王や」と、ツッコミたくなる気持ちを抑えて暮らしてきた。


「侑斗」


 お前魔王のくせに可愛い顔で笑うなよ。


「侑斗」


 魔王のくせに馬鹿面晒してんなよ。


「侑斗」


 魔王のくせに。



 ああ、俺は何で勇者のくせに、魔王に惚れてんだよ。


「香苗」

「何ー?」

「ムカつく」

「はあ!? 何急に? 喧嘩売ってんの!? だったら買ってやるわよ!」

「はあ……」

「ため息!? もうあんたは従者からも格下げよ! 私の犬よ!」

「もうそれでいいよ」


 この馬鹿が魔王の記憶を取り戻さないように俺が一生そばに居て見ていてやろう。自分が異世界転生者だなんて絶対に思い出さないように。







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