リアルで視てないシリーズ物
「自分はシリーズを通して、リアルで視たことがない」
1年間。
戦い続けること、勉強を続けること。僕達は生まれながらにして、それをしてこなければならない。
毎年、結果を残していく事はどれだけ大変か。
社会は嫌というほど教えてくれる。
「毎朝日曜日、8時30分。テレ○のチャンネルの○○キュアシリーズを全話、生で拝んでいない」
「DVDかBDを買うか、録画しろ。それだけの事じゃないか」
「そーじゃない。そー言ってんじゃない……まぁ、してないんだけど」
「グッズを買ってあげた方が制作会社は嬉しいんだぞ。お前、社会人だろ」
「いや、恥ずかしいじゃん。学生時代、大きな声で言えずに大人になったんだ。つーか、高いし」
「それでこそファンでしょ?」
リアル話は置いておき。
「毎週欠かさず、継続する。それは毎日欠かさず続ける事にも繫がるわけだ」
「ふんふん」
「どーやらそれができないことは努力をできないこと。努力をできないとは自分を磨けないことにも繋がっていく。いつの間にか視ている自分だけが衰えていき、新しく美少女達とテーマが変わっていくことは社会に通じるものがある」
「そんな深い話はやってねぇーよ」
いや、何が言いたいんだこの男達は。
その後悔の答えは、もうちょっと……。50代頃になってから判明する。
◇ ◇
「お前は神様か?」
『そうだね。なにかやってあげようか?』
「頼む。過去の自分に結婚をしろって、伝えて欲しいんだ」
『ほぉ、未来を変えたいのか。ガンで亡くなった事実は変わらないと思うが……』
全てが白く見える世界に連れて来られた時。自分が死んでいる事を自覚した男。そして、神様のような意識が目の前にいると感じ取れたとき。稚拙なお願いをした。
独身の最後は寂しいものだ。そして、ガンで亡くなった彼にも心残りができていた。
「俺はプリ○○○が見たかったんじゃない。一緒に何かをやり遂げる仲間や家族が欲しかったんだ」
『アニメで例えんなよ!!ステキな事だけど!!』
「あのアニメを父親と母親、そしてその子供と一緒に楽しんで視る。……そこから少しずつ家族で色んな事に挑戦すると思う」
『全然、そのビジョンが見えて来ないんだけど!』
「いくつになっても中学生とか高校生が好きだからって、選り好みはいけない。誰だって歳をとり、誰だって中学生であり高校生だったのを忘れてはならないと。アニメに年齢は関係ない!!」
『お前そんなんだから恋愛しなかったんだろ!一方通行で想い続けるだけで、苦労も痛みもしない感情でいたんだろう!』
そんなことで正直に変わるか、甚だ疑問であるが。
「……1人寂しく、病室で死んで気付いたんだよ」
『だから、アニメで気付くなよ!!何その悟った顔!腹立つんだけど!』
「もし、過去を変えられるなら!絶対に結婚をしろ!あの頃は気付けなかった事を、もっと早く伝えるんだ!40代から結婚を望んでも、出世を拒んで年収低くて絶望的で時間のムダだぞって!!」
『お、おう』
「よく考えろ!!ロリコンだったらなおのこと、息子や娘が連れて来る友達にも興奮しろって!!もう一度やってくる学生と触れ合える機会になるぞと!」
『お前、結婚すんじゃねぇーよ。絶対に他人の子供を家に連れて来れない呪いもあげる』
とはいえ、やってあげる。いい神様だ。
30代……もっと前、20代頃の自分に。
◇ ◇
「うーーっ……」
社会人の初任給は、初めて嵌ったアニメのシリーズを買う。だってそれが自分が働いて手にしてご褒美というものだ。
しかし、どーいうわけか。ブラック企業で疲弊した環境によって、脳内では将来の悪夢を見せられた。お前は寂しさをアニメで誤魔化してきたようだが、自分だけが歳をとる事で誤魔化しが効かなくなると。
「……結婚の相談。してみようかな」
およそ20年ほど早くそんな感情を持たされた。
そして、……。欲しい物も買ったけど、結婚相談所へ足を運んだのは20年以上も早かった……。
「どのようなご相談でしょうか」
優しい女性担当者に彼は答えた。
「一緒に○○キュアシリーズを視てくれる女性っているものですか?子供と一緒に視る家族に憧れてます」
「帰ってください。ここは女性と男性のリアルを見つめる場所です」
「……………」
やべぇ、この罵倒に惚れました。
「自分に新たなジャンルを開拓できた気がする」
「なんなんだよ!この男!!少しは年収上げてから来いってんだ!」
未来の自分から結婚するよう伝えられたのだが。どうやら自分は新たな女性への癖が見つかり、余計に酷くなった。
それでも30代で結婚し、子供にも恵まれたのは事実になった。
そして、些細な夢だって叶った。