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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

狩人(イーター)

作者: 加藤 弓雅
掲載日:2020/08/14


 僕は、後ろ手に縛られて、大破した車の前で座らされていた。

 目の前の砂だらけの荒れ地には、二つの体が横たわる。

 つい一時間前までは、両親だと思っていた人達の亡骸。

 最後まで僕を守ろうとして、いまわの際に事実を明かし、生き延びろと言って果てた。

 二人が殺され、僕だけが生き残っていると云う事は、彼らの狙いは僕なのだろう。

 けれど、一体狙いは何か。

 考えてもわからない。


 どれだけ時間が経ったか、不意に、何かを強く打つ音と、くぐもったうめき声がした。

 少し離れたところから、もう一つ。

 そして、僕の後ろに誰かが近づく。

「動かないで、縄を切るから」

 ささやく声がした。

 縛っている縄に何かが当たる感覚。ややあって、両手が自由になった。

「遅れて済まない。二人には気の毒をした」

 振り返ると、後ろに土色の服を着た、オレンジの髪の少女がしゃがんでいた。

 まだ、かなり若い。

 僕よりも年下かも知れない。

「見える範囲の敵は無力化した。これから脱出する」

 見回すと、車の周りに二人と、少し離れた物陰に幾人か、横になった男が見える。 

「遮蔽物が少ない。付かず離れず付いて来て」

 立ち上がろうとした時、男の叫び声がした。

 少女は、舌打ちをして声の方へ飛び出す。

 相手は、叫ぶと同時に銃を撃つ。

 アサルトライフルのジャリッとした発射音が響く。

 少女は、人間業と思えない速さで相手に向かう。

 疾走(はし)るそばに土煙が立つが、標的を捉えられない。

 少女は相手の懐に飛び込むと、鳩尾に一撃を入れて投げ飛ばす。

 相手が動けない事を見極めると、一瞬で次の相手へと向かう。

 瞬く間に、4人を無力化した。

「移動するわ」

 急いで、彼女に追いついて、立ち上がろうとした瞬間に、何か長いものが目の前を横切って、少女の体に巻き付いた、

 少女の体に、スパークが飛び、悲鳴をあげてのけぞる。

「バイザーリーバーだ、お前らの所でも使ってるんだろ?」

 横合いから現れた男は、手にしたケーブルで再び少女を打つ。

 再びスパークが飛び、少女は力を失い、倒れる。

 思わず、駆け寄ろうとした僕の腕を、男達が両側から押さえる。

 少女に叩きのめされた男達が、のろのろと起き上がる。

「情けないぞ、小娘一人に」

 済みませんと、一人の男が頭を掻きながら少女に近寄り、

「礼をしたいんですが、良いですかい」

「どうせ潰すんだ、たっぷりと楽しめ」

「それじゃ、遠慮なく」

 三人の男達が、力の抜けた少女の体を無理矢理立たせる。

 一人が、少女の上衣に手を掛ける。

 声も上げられない少女の代わりに、上衣が高い音をたてて裂けた。

 僕は、このまま見ているだけなのか。

 また、大切な人を、目の前で。

 また?

”お前には、絶望をくれてやろう。それに、力もな”

 聞いた事のない、誰かの声がする。

 視界が、紅くなる。

 体が、総毛立つ。

 熱い、

 あつい、

 アツイ。

 奇妙な程、横長になった視界の両端で、僕の腕を掴みながら顔を強張らせる二人の男の体を、腕ごと打ち合わせた。

 そいつらは、ひとつの塊になって、身動きもせず目の前に転がる。

 横にいた、背中に無線機を背負った男が、拳銃を抜いて撃とうとする。

 僕は、右腕を横薙ぎに払う。

 男の肩から上が、何処かへ飛ぶ。

 右手に、嫌に粘つく感触を残して。

 男達が、少女の体を放り出して、銃を構えて引き金を引く。

 火線が僕の体に纏いつく。

 咄嗟に転がって避けるが、何発かが体を捉える。

 けれど、痛みも痺れもない。

 僕は、起き上がりざまに、足下にあったサッカーボールくらいの岩を掴み、投げつける。

 それは、一番先頭で銃を撃っていた男の体をくの字に曲げ、動かなくする。

 僕は、思いっきり地面を蹴って、少女を囲んでいる一団とは別の連中に向かって跳ぶ。

 一歩、二歩、三歩。

 おおよそ20mを4跳びで詰めて、両手で手前の二人の首を掴み、腕を内向きに振って、腹から地面に叩きつける。

 粘つく液体が飛び散るが、気にせずに更に後ろの二人を薙ぎ払う。

 動かなくなったのを見届けて、今度は少女の傍へ跳ぶ。

 悲鳴を上げながら、出鱈目に銃を撃つ男を、頭を掴んで放り投げて動かなくすると、もう一人は銃を放り出して走り出す。

 僕は、忘れ物の銃を投げつける。

 それは、男を立ったままで地面に縫い付けた。

"ぐああぶうう。"

 不意に、背中から酷い衝撃を受けて、僕は立っていられずに前のめりに倒れる。

「背中がお留守だぜ」

 親玉らしい男が、何本かの光るケーブルの束を握って立っていた。

「獣化していても効くんだな、喰らいな」

 男が、ケーブルを振り下ろす。

 僕の体に触れた途端、体に電撃が走り、意識が飛びそうになる。

「全く、滅茶苦茶にしてくれてよ」

 男は辺りを見回す。

「落とし前を付けてやりたい所だが、お前を殺す訳にはいかないんだ」

 男は、僕の体を蹴り飛ばして仰向けにする。

「見事な化け物だな」

 そして、僕の顔を見て顔を歪める。

「良い事を教えてやるよ。お前の姉もいずれ捕まる。そうしたら、お前ら二人で延々と子作りをさせられるのさ。必要な数が揃うまで延々とな」

 そして、男は空いた手で拳銃を抜き、少女に向ける。

「強化体とはいえ、今ならこれで充分だろう。アディオス」

 僕は、男が引き金に指をかけた瞬間に、全ての枷を無理矢理引きちぎる。

 痛みも、痺れも、全て。

 全身の力を使い、強引に跳ね起きると、男は咄嗟にケーブルで僕を打つ。

 スパークが飛び、衝撃が僕の意識を灼く。

 男は、拳銃を僕に向けると引き金を引く。

 相変わらず痛みは感じないが、至近距離からの衝撃が、僕の体を揺らす。

 僕は、僕の腕に巻き付き火花を散らしているケーブルを、無理矢理掴んで引く。

 男の体が、こちら向きによろめく。

 その頭めがけて、僕は自分の頭を打ち付けた。

 

 全てが終わったあと、しばらくは両膝をついて座り込んでいた。

 ようやく体の自由を取り戻すと、少女の傍へ近づく。

 少女は、歪んだ顔を僕に向ける。

「ごめんね、イーター、起こさせちゃったね」

 血と埃と、涙に濡れた顔。

「あなたを、殺さなきゃならなく、なっちゃった」

 この顔を、僕はどこかで見た事がある。

 いや、こんな事は今までなかった筈なのに。

 どこかで、どこで?

 泣いていた、彼女は。

 ごめんねって。

 ごめんねって。

不意に、僕の中で、渦巻いて総毛立っていた感覚が徐々に冷えていくのを感じる。

 つれて、膨らんで強張っていた体がゆっくりと柔らかさを取り戻してゆく。

「な、イーターが、消え、るの」

 オレンジの髪の少女は、汚れた顔を驚きで歪ませる。

 けれど、そこには、さっきまでの絶望はもうなかった。

「あなたが、ただ殺し尽くす獣でないなら」

 少女はゆっくりと、瞳をあげる。

「別の可能性もあるかもしれない。野放しには出来ないけれど」

 そう、それは、パンドラの箱の底に眠るもの。

 僕は、ぼろぼろの体を起こした彼女の手を取る。

「行こう」

 どこへ行けばいいのかは、判らない。

 けれど、此処とは違うどこかへ。


 歩き出した僕たちの背中で、首を飛ばされた兵士が背負っていた無線機が、空電混じりの通信を流す。

”……ポイント327の反応は現在消失、チャプター班の応答なし。残存各班は、周辺状況を確認しつつ、ポイント327へ移動せよ。各班、単独での会敵はこれを許さない。繰り返す、……”


挑戦という名の無謀(苦笑)

手がけたことのないジャンルで、見苦しい点があろうかと思います。

平にご容赦を。


多分、続きは無いです。

(8/14 23:40 ご指摘により、分かりずらい表現を修正しました。多謝)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画より拝読いたしました。 茂木さんへの返信を見て、あぁ確かに皆川作品の臭いを感じると思いました^^ 途端に絵が付いてこの作品のシーンが再現されましたね。うーん、漫画で見たいかも。
[良い点] 家紋武範様の「看板短編企画」からお伺いしました。 迫力あるアクションシーン。主人公と少女の心情の描写。 楽しませてもらいました。
[良い点]  セリフがARMSっぽくて素敵ですね。バトルものよいと思います。 [一言]  読ませて頂きありがとうございました
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