狩人(イーター)
僕は、後ろ手に縛られて、大破した車の前で座らされていた。
目の前の砂だらけの荒れ地には、二つの体が横たわる。
つい一時間前までは、両親だと思っていた人達の亡骸。
最後まで僕を守ろうとして、いまわの際に事実を明かし、生き延びろと言って果てた。
二人が殺され、僕だけが生き残っていると云う事は、彼らの狙いは僕なのだろう。
けれど、一体狙いは何か。
考えてもわからない。
どれだけ時間が経ったか、不意に、何かを強く打つ音と、くぐもったうめき声がした。
少し離れたところから、もう一つ。
そして、僕の後ろに誰かが近づく。
「動かないで、縄を切るから」
ささやく声がした。
縛っている縄に何かが当たる感覚。ややあって、両手が自由になった。
「遅れて済まない。二人には気の毒をした」
振り返ると、後ろに土色の服を着た、オレンジの髪の少女がしゃがんでいた。
まだ、かなり若い。
僕よりも年下かも知れない。
「見える範囲の敵は無力化した。これから脱出する」
見回すと、車の周りに二人と、少し離れた物陰に幾人か、横になった男が見える。
「遮蔽物が少ない。付かず離れず付いて来て」
立ち上がろうとした時、男の叫び声がした。
少女は、舌打ちをして声の方へ飛び出す。
相手は、叫ぶと同時に銃を撃つ。
アサルトライフルのジャリッとした発射音が響く。
少女は、人間業と思えない速さで相手に向かう。
疾走るそばに土煙が立つが、標的を捉えられない。
少女は相手の懐に飛び込むと、鳩尾に一撃を入れて投げ飛ばす。
相手が動けない事を見極めると、一瞬で次の相手へと向かう。
瞬く間に、4人を無力化した。
「移動するわ」
急いで、彼女に追いついて、立ち上がろうとした瞬間に、何か長いものが目の前を横切って、少女の体に巻き付いた、
少女の体に、スパークが飛び、悲鳴をあげてのけぞる。
「バイザーリーバーだ、お前らの所でも使ってるんだろ?」
横合いから現れた男は、手にしたケーブルで再び少女を打つ。
再びスパークが飛び、少女は力を失い、倒れる。
思わず、駆け寄ろうとした僕の腕を、男達が両側から押さえる。
少女に叩きのめされた男達が、のろのろと起き上がる。
「情けないぞ、小娘一人に」
済みませんと、一人の男が頭を掻きながら少女に近寄り、
「礼をしたいんですが、良いですかい」
「どうせ潰すんだ、たっぷりと楽しめ」
「それじゃ、遠慮なく」
三人の男達が、力の抜けた少女の体を無理矢理立たせる。
一人が、少女の上衣に手を掛ける。
声も上げられない少女の代わりに、上衣が高い音をたてて裂けた。
僕は、このまま見ているだけなのか。
また、大切な人を、目の前で。
また?
”お前には、絶望をくれてやろう。それに、力もな”
聞いた事のない、誰かの声がする。
視界が、紅くなる。
体が、総毛立つ。
熱い、
あつい、
アツイ。
奇妙な程、横長になった視界の両端で、僕の腕を掴みながら顔を強張らせる二人の男の体を、腕ごと打ち合わせた。
そいつらは、ひとつの塊になって、身動きもせず目の前に転がる。
横にいた、背中に無線機を背負った男が、拳銃を抜いて撃とうとする。
僕は、右腕を横薙ぎに払う。
男の肩から上が、何処かへ飛ぶ。
右手に、嫌に粘つく感触を残して。
男達が、少女の体を放り出して、銃を構えて引き金を引く。
火線が僕の体に纏いつく。
咄嗟に転がって避けるが、何発かが体を捉える。
けれど、痛みも痺れもない。
僕は、起き上がりざまに、足下にあったサッカーボールくらいの岩を掴み、投げつける。
それは、一番先頭で銃を撃っていた男の体をくの字に曲げ、動かなくする。
僕は、思いっきり地面を蹴って、少女を囲んでいる一団とは別の連中に向かって跳ぶ。
一歩、二歩、三歩。
おおよそ20mを4跳びで詰めて、両手で手前の二人の首を掴み、腕を内向きに振って、腹から地面に叩きつける。
粘つく液体が飛び散るが、気にせずに更に後ろの二人を薙ぎ払う。
動かなくなったのを見届けて、今度は少女の傍へ跳ぶ。
悲鳴を上げながら、出鱈目に銃を撃つ男を、頭を掴んで放り投げて動かなくすると、もう一人は銃を放り出して走り出す。
僕は、忘れ物の銃を投げつける。
それは、男を立ったままで地面に縫い付けた。
"ぐああぶうう。"
不意に、背中から酷い衝撃を受けて、僕は立っていられずに前のめりに倒れる。
「背中がお留守だぜ」
親玉らしい男が、何本かの光るケーブルの束を握って立っていた。
「獣化していても効くんだな、喰らいな」
男が、ケーブルを振り下ろす。
僕の体に触れた途端、体に電撃が走り、意識が飛びそうになる。
「全く、滅茶苦茶にしてくれてよ」
男は辺りを見回す。
「落とし前を付けてやりたい所だが、お前を殺す訳にはいかないんだ」
男は、僕の体を蹴り飛ばして仰向けにする。
「見事な化け物だな」
そして、僕の顔を見て顔を歪める。
「良い事を教えてやるよ。お前の姉もいずれ捕まる。そうしたら、お前ら二人で延々と子作りをさせられるのさ。必要な数が揃うまで延々とな」
そして、男は空いた手で拳銃を抜き、少女に向ける。
「強化体とはいえ、今ならこれで充分だろう。アディオス」
僕は、男が引き金に指をかけた瞬間に、全ての枷を無理矢理引きちぎる。
痛みも、痺れも、全て。
全身の力を使い、強引に跳ね起きると、男は咄嗟にケーブルで僕を打つ。
スパークが飛び、衝撃が僕の意識を灼く。
男は、拳銃を僕に向けると引き金を引く。
相変わらず痛みは感じないが、至近距離からの衝撃が、僕の体を揺らす。
僕は、僕の腕に巻き付き火花を散らしているケーブルを、無理矢理掴んで引く。
男の体が、こちら向きによろめく。
その頭めがけて、僕は自分の頭を打ち付けた。
全てが終わったあと、しばらくは両膝をついて座り込んでいた。
ようやく体の自由を取り戻すと、少女の傍へ近づく。
少女は、歪んだ顔を僕に向ける。
「ごめんね、イーター、起こさせちゃったね」
血と埃と、涙に濡れた顔。
「あなたを、殺さなきゃならなく、なっちゃった」
この顔を、僕はどこかで見た事がある。
いや、こんな事は今までなかった筈なのに。
どこかで、どこで?
泣いていた、彼女は。
ごめんねって。
ごめんねって。
不意に、僕の中で、渦巻いて総毛立っていた感覚が徐々に冷えていくのを感じる。
つれて、膨らんで強張っていた体がゆっくりと柔らかさを取り戻してゆく。
「な、イーターが、消え、るの」
オレンジの髪の少女は、汚れた顔を驚きで歪ませる。
けれど、そこには、さっきまでの絶望はもうなかった。
「あなたが、ただ殺し尽くす獣でないなら」
少女はゆっくりと、瞳をあげる。
「別の可能性もあるかもしれない。野放しには出来ないけれど」
そう、それは、パンドラの箱の底に眠るもの。
僕は、ぼろぼろの体を起こした彼女の手を取る。
「行こう」
どこへ行けばいいのかは、判らない。
けれど、此処とは違うどこかへ。
歩き出した僕たちの背中で、首を飛ばされた兵士が背負っていた無線機が、空電混じりの通信を流す。
”……ポイント327の反応は現在消失、チャプター班の応答なし。残存各班は、周辺状況を確認しつつ、ポイント327へ移動せよ。各班、単独での会敵はこれを許さない。繰り返す、……”
挑戦という名の無謀(苦笑)
手がけたことのないジャンルで、見苦しい点があろうかと思います。
平にご容赦を。
多分、続きは無いです。
(8/14 23:40 ご指摘により、分かりずらい表現を修正しました。多謝)




