悪役令嬢？どうぞ好きに言ってくださいな。私は私で好きにさせていただきますわ。
過去作のリベンジ
私、婚約破棄ならすぐにでも受け入れますわ。
「フォーアネーム・ルクスリエース！お前との婚約は破棄させてもらう！そして今ここで、俺の愛しいアドレット・ルクスリエースとの婚約を宣言する！さらに貴様の貴族籍を剥奪する！ざまをみろ、悪女め！」
学園の卒業パーティーの席で、いきなり私にそう突きつけるのはヘルヘーニル・エーヴィヒ公爵令息。…まあ、こうなることはわかっていましたが、それでもやっぱり長年付き合ってきた婚約者との離別とは悲しいものですわね。
はじめまして、ご機嫌よう。私、フォーアネーム・ルクスリエースと申しますわ。公爵令嬢ですの。公爵位序列一位のエーヴィヒ公爵家の正統な跡取り、ヘルヘーニル様の婚約者でしたわ。
「承知いたしました」
訝しげな表情をする私の妹とヘルヘーニル様。私が何か言ってくると思っていたのね。それはそうでしょうね。エーヴィヒ公爵家に嫁ぐことは王太子妃になることに次いで、もっとも名誉なことだもの。でも、残念ですが私、むしろこの時を待っていましたの。
「ま、待て、なんでそんなに落ち着いているんだ…？」
「婚約者として至らなかった私を捨て、燃えるような恋に落ちた妹と婚約するのでしょう？私が何も知らないと思って？」
今度はえっ、て表情。あれだけ白昼堂々と浮気していて気付かないほうがどうかしていてよ。
「そ、そうだ。わかっているならいい」
「お姉様、ごめんなさい！でも、この気持ちはもう抑えられないの！」
「あら、それはよかった。絶対ヘルヘーニル様の心を離しちゃダメよ？お姉様は二人のこれからを祝福しているわ」
「…すまない、どうやら俺はお前のことを誤解していたのかもしれない。こんな一方的なことを言っているのに祝福してくれるのか」
「ええ、もちろん」
淑女の鑑と謳われた笑顔を顔に貼り付けて歌うように告げる。
「私は今まで、エーヴィヒ公爵家に相応しい妻となるよう様々な教育を受けてきました。しかし一方で、ヘルヘーニル様と触れ合う時間は僅かで、ヘルヘーニル様の心に寄り添うことが出来ませんでした。それに比べて我が妹は、次女として自由に過ごしながらも美しく愛らしく育ち、ヘルヘーニル様の心に寄り添いヘルヘーニル様の孤独を癒しました。誰の目にも、妹の方がヘルヘーニル様にお似合いだと映ることでしょう。そして私はそんな妹に嫉妬し、嫌がらせを行ったのも事実。婚約破棄も、貴族籍の剥奪も甘んじてお受け致しますわ」
「…ああ、そうか」
実際にはそんなことはなくて、二人は浮気男と姉の婚約者と寝た女として白い目で見られているのですけれどね。そして嫌がらせの件は実は妹の自作自演なのですけれどね。まあ、本人がそれで納得しているのだからいいわよね。
「では、私は今日はこれで失礼致しますわ」
「…すまなかった。俺は勝手に、お前を人の心に寄り添えない悪女だと勘違いしていた。幸せになってくれ」
「お姉様、ごめんなさい…」
「それでは皆様、ご機嫌よう」
最後に綺麗にカーテシーを決め、学園を後にする。屋敷に帰るとすぐに、いつ婚約破棄されてもいいよう元々用意していた荷物を持って、恋人と連れ立って隣国のど田舎へ向かう。両親と兄に事情を説明？必要ない。私達一家は割と物凄くドライな関係だ。あったのは冷えた利害関係。まあ、私と妹は一悶着あったが、それだけだ。ああ、もちろん馬車は私が手配したもので、私の貯金で雇った。これで挨拶もせずに旅立つ不義理は許してほしい。…ということでやったぜ自由だラッキーふー！
「やりましたね、ネム！」
「ええ、やったわ、カイ！」
私とカイは馬車の中でハイタッチする。テンションあげあげですわ。彼はヘルヘーニル様の侍従で侯爵令息だったカイール・シェーン。次男で、爵位を継げないため公爵家の侍従をしていましたの。私の愛する人ですわ。
「これでネムも晴れて自由の身！俺達、やっと結婚できますね！」
「私達、これで幸せになれるわね！」
私とカイの懐には、それぞれがこの日のために幼い頃から貯めてきた貯蓄がある。私の貯蓄だけでも、平民として清く正しく慎ましやかに暮らしていくなら、十年は働かなくても暮らせる。カイの貯蓄も、新しい生活環境を整えるには充分過ぎるものだ。
「あのいけ好かない、ネムの妹…アドレット様と、ヘルヘーニル様は今頃勝手なことをしてと両家の両親と国王陛下からお叱りを受けているでしょうね」
「でも今更私のことを連れ戻そうとしても、私は足のつかないように動いているから無理ね」
「結局ヘルヘーニル様の婚約者はこの国で二番目…ネムの次に魔力の多いアドレット様となるでしょう」
「せいぜい短くとも幸せな結婚生活を送ってもらいたいものだわ」
クスクスと二人で笑い合う。ああ、本当に面白いほど上手くいきましたわ。
「公爵家の呪われし運命を、当たり前のように受け入れているこの国から逃げられるだけでも幸運ね」
「エーヴィヒ公爵家の呪われし祝福…嫁いだ女性は必ずエーヴィヒ公爵家憑きの悪魔に魔力と生気を吸い尽くされ、それにより短命となる。その代わりエーヴィヒ公爵家は栄え、国は繁栄する」
「あんな呪われた家に嫁ぐのが淑女としてもっとも名誉なことだなんて、狂ってるわ」
「ええ、ネムが目を覚ましてくれて本当によかった」
カイが私の手をそっと握る。
「カイが幼い頃に、その異常性を私に訴えて、私を守ると言ってくれたおかげよ。ありがとう」
「いえ、俺はただ言葉を尽くしただけですから。ネムの方こそ、ネムのモノをなんでも欲しがるアドレット様をヘルヘーニル様にあてがうなんて、流石です」
「うふふ。私は貴方だけの恋人だもの。愛してるわ、カイ」
「愛しています、ネム」
ー…
あれから十数年後。私達は三男五女の子供達に囲まれて、慎ましくも幸せに暮らしています。
「幸せね、カイ」
「幸せですね、ネム」
隣国では、エーヴィヒ公爵家のヘルヘーニル公爵の妻がつい先日亡くなったそうですわ。まだ若いというのに、気の毒なこと。
「パパー！ママー！」
「おやまあ、やんちゃだねぇ」
「みてみてー！泥団子！」
「あらあら、うふふ。」
ヘルヘーニル様の妻は、こんな可愛い盛りの子供達を残して逝ってしまったのね。可哀想に。…ああ、でもあの子のことだから、贅沢三昧をして短くても幸せな人生だったかもしれないですわね。
「パパラブラブー！」
「ママラブラブー！」
「ええ、パパとママはラブラブよ」
「俺にこんな素敵な家庭を持たせてくれてありがとうございます、ネム」
「私こそ、こんな素敵な家庭を持てて幸せだわ。ありがとう、カイ」
私は私で幸せになれましたし、妹も短くても幸せな人生を生きたでしょうし、大団円、ですわね。
『悪役令嬢ですが、幸せになってみせますわ！アンソロジーコミック』の第３弾が7月27日（月）発売です！
定価780円+税
ISBN 978-4-7580-3534-7
〇内容紹介
大人気アンソロジーついに第３弾！
『悪役令嬢ですが、幸せになってみせますわ！アンソロジーコミック』の第３弾が7月27日（月）発売!!
「小説家になろう」発の人気読み切りコミカライズアンソロジー、大好評につき第３弾!!
私の書いた短編、『嫌われている相手に嫁いだはずがいつのまにか溺愛されていました』が収録されています。
コミカライズしていただき書籍化していただけたのも全て皆様のおかげです。ありがとうございます。もしよければ是非手にとっていただけたらと思います。
