No.2
「あの、大里くん。これ、落としたよ」
紙を拾い、大里くんに宇月くんが手渡す。
普段、接点のない2人が喋っている所を見たのは初めてだった。大里くんは、紙に小さい字で書かれた文章を見ると、すぐさま
「あ、ありがと。サンキュー!」
と、階段を降りていく宇月くんに言った。
「あれ?あいつ、もう帰んのかよ。早くないか!」
大里くんの周りにいた男子が言った。
「ああ、宇月くんは帰宅部だから。」
と、大里くんがフォローし、
「それより、ゴメン!俺、バイト入っちまったみてーでさ、カラオケ行けなくなったわ」
と周りにいた男子たちに謝った。
「いいんだよ、気にすんな。今度行こーな!
でも、最近バイト詰めすぎじゃねぇか?無理すんなよ」
「おお、あんがと、それじゃ、行ってくるわ!」
そう言って大里くんは階段を降りていった。
「そういやぁ、誰か大里のLINEとか家知ってる奴いねぇか?」
と、男子の1人が言った。
「いや、あいつそういうのは言わないよな、何か事情でもあんのかな」
「確かに、聞いたことねぇよな。」
と、男子たちがざわつき始めた。
確かに、付き合いもいいし、人気者の彼でも改めて思うとあまり知らないことの方が多い。
「ま、明日の朝に聞いてみっか!」
ということで話は終わったものの、やはり気になっていた。
「おい、これ見ろよ、《JACK》だ!」
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「ただいま戻りましたよっと!おーい、凛月ー?」
市内にある超高層マンションの最上階。
高校からはタクシーで30分程の距離にある。
1LDKの家は二人暮し。
黒と白で統一された家具。
壁に飾られた絵も全て彼の趣味だ。
「何?今シャワー浴びてた。」
ガララという音と共に美青年が風呂場から出てくる。整った顔、白い肌、程よく筋肉がついた体。長くなっていた前髪を上でちょんまげにして括った艶やかな黒髪、真っ白のバスローブ。
これは、別人のようにも見えるが宇月 凛月だ。
「君ねぇ、何で呼び出し方がアナログなの?
LINEでいいじゃん、折角スマホ買ったのにさ」
と、誠矢が言う。
「いや、俺達の場合もしもの場合見られたら困るからな。俺が高校で頑張って目立たないようにしてお前との接点を無くしているんだぞ?もしものために。」
「むむ.....」
唸っている誠矢に告げる。
「今夜、仕事が入った。」
そう、彼が言った瞬間に誠矢の顔つきが変わる。
「ハイハイ、【CLOWN】サマ。今回はどのようなご要件で?」
膝まづき試すような目でクラウンを見る。
「久々に暴れるぞ、今回もヨロシクな。【カタハ】」
それに答えるかのように目で示す。
「OK。何処に行くんだ?」
「もうお前のスマホに位置は送ってある。」
「ああ、分かった。」
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「え!マジかよ、今日だったのかよ!帰ってLiveで見ないと」
「でもさ、何で《JACK》って宝石やらを盗んでんだ?」
「いや、それはやっぱ金になるからじゃねぇか?ほら、売ったら儲かるっしょ!」
「そうかぁ?ま、どっちにしろこのご時世で盗み働いてて捕まってないんだろ?と考えると
やっぱりスゲーよな《JACK》は!いわゆる怪盗ってやつ!」
「そうだけど、そうだ!今から俺らで犯行予告されてるホテルに行かねぇか??見れるかもしんねぇしさ!」
「ああ、いいぜ!ってことで、LINEで待ち合わせな!」
男子たちがぞろぞろと階段を降りていった。
怪盗集団《JACK》。人呼んで、《黒羽》。
近年稀に見る怪盗で、警察も手をこまねいているのが実態だ。現代のセキリュティ、それは、とてつもなく進化しており決してくぐり抜ける事は出来ない。が......彼らはいとも簡単にくぐり抜け毎度毎度宝石を掻っ攫っていく。主に大阪を中心として盗みを働いており未だ正体も掴めていない。ただ、彼らが支持されている理由は他にある。きな臭い話をよく耳にする人物から盗んでいくのだ。しかも、その盗んだ宝石を金にし、寄附しているというのだ。そうして、彼らは支持されている。が、そんな綺麗事では済まされない。
所詮、盗人。泥棒だ。警察側からしても、いくら寄附して国に貢献しているからといって、その金は奪った宝石から出た金。決して許されることでは無いのだから。
「”おい、時間だぞ。幸樹”」
「ハイハイわかりましたよっ」
「”お前の存在は最大機密なんだぞ!自覚しろ!”」
「へいへい、じゃ、今から向かうから」
「”おい、話はまだ終わってな、ブツ」
「五月蝿いな、毎日毎日。いいや、久々の仕事だ。」
俺は慶斗。《JACK》対策本部の捜査官で、警察の最大機密。