No.11
「どーも、金森捜査官」
転移して訪れたのは父さんだった。
警察署である。例の資料室に来ていた。
「お疲れ様、ちゃんと言えたか?」
心配そうに言う彼に、
「大丈夫だよ」
笑顔を作って見せた、それでも。
「ッッ、今は、泣いていいですか?父さん...」
ヤバい、我慢しようと思ったのに。
無理して作った笑顔が崩れ、惨めな泣き顔へと変わっていく。
「ああ」
ただ一言、その一言でどれだけ俺は救われただろうか。初めて泣いた。餓鬼みたいに父さんに縋り着いてわんわん泣いた。
「落ち着いたか?」
まだヒックと震える体は本当に母親に叱られた後の子供みたいだった。
「おい、無理すんなよ。蛍は今日から俺の正式な部下だ。それも、裏口だけどな」
ニィっと笑って部屋を案内された。
そうそう、契約は受けて貰えなかった。
▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒
「......ねぇ、金森捜査官。俺と取引しない?」
「......条件次第だ」
「俺は《JACK》を抜け、警察になる。
奴等に復讐するには内側に入った方が都合がいいからな。俺だけが罪を負う。彼奴らを人殺しにはしたくない。......彼奴らなら俺の事をきっと恨んでくれる。」
”きっと恨んでくれる”と最後の希望のように話す彼は何処か寂しそうだった。
「見返りは?」
俺が聞くと、
「俺が《JACK》の頭として捕まる。」
真剣な顔で言った。
「率直に言うと、断る!」
そう言った俺の反応を予測できていなかったのか目を丸くして驚いていた。
「え..は?何で?」
「それで、お前は幸せになれんのか?」
「え?何で俺が幸せにならないといけないんだ?」
当たり前だと言った顔でこちらを見てくる彼は自己犠牲の塊、そう言うに相応しい。
「俺は、お前が幸せになるという条件でしか聞かねぇ!」
そう言うとあからさまに困惑した様子が分かった。
頭を抱え、どうすればいいのかと悩んでいる。
「どうしたら、いいんですか?」
本気でそう答えた彼は本当に分からない、理解出来ないという顔をしていた。本気で自分が幸せになることを考えたことが無いのだろうか。
「契約はしない、これは約束だ。
俺は君が言うことを飲んでやる但し、君が《JACK》であることは公表しない。何より君は上層部の被害者だ。俺が匿う理由等いくらでも作ることが出来る。」
「は......?でも、それじゃあ、金森さんは何も......」
「そこで、だ。俺は上層部の事が終わっても、君に警察として俺の元で働いて欲しい。
君を酷い目に合わせた警察の元で。
君は能力を行使しなくとも優秀だった、何より一緒に居たから誰よりも分かる。俺は君のその優秀な所も誰よりも優しい心を持っている所も含め君をスカウトしたいんだ、本当の直属の部下に。」
初めは俺の言ったことが理解出来ずに放心していたようだが徐々に飲み込んでいったようだった。
「いいん、ですか?俺なんかが復讐して裁かれずにそんな、平和に暮らしても」
「いいに決まってるさ、これで約束は成立した。君は裏口だな。」
「......俺が、こんな......」
「おい、もう、いいか。」
そう言った俺に目を丸くする宇月。
「お前ッ、苦しかったなぁ。ごめんな、気付いてやれなくて......ッ!」
俺は我慢できなくなっていた。
あの資料でいつも笑顔で隣にいた彼が同じ警察から卑劣な実験をさせられ感情が無くなり、能力を手にしそれから、どんな人生を歩んできたのか。
それは想像するだけで震えが止まらない程辛く苦しい物だったのだろう。まだ幼かった彼にとって警察の存在がどれほど憎かったか。
初めて出来た仲間からも罵声を浴びせられるのを恐れて本当の自分を隠し、今まで共に居た彼はどんな気持ちでいたのか。警察という元凶の隣にいて過去の面影を見てどれほど苦しんだのか。
自分を省みず偽りの仲間と憎き警察のことまで考えて。もっと、早く彼の心の奥底にあった孤独に気付いていれば。俺には当たり前だった両親、友達、仲間そんな物がが彼に負担を負わせていたのだ。彼は何を信じて生きてきたのだろうかと考えてもやはり復讐心だろう。俺はCLOWNと呼ばれ偽りの仲間から慕われる宇月凛月、過去に壮絶な実験を受け孤独な人生を歩んできた天崎凛月も
そして、これからは今度こそ彼に幸せを。
「宇月 凛月。君は俺の息子だ。」
そう言った俺にこの人は何を訳分からんことを言ってるんだと顔が訴えていた。
「え?でも金森さんは俺とあんまり歳変わりませんよね?」
彼は16歳で俺は25歳だもちろん全然年は合わないがいいだろう。
「いいんだ、年齢は関係ないだろう。
後で正式に役所に持っていくさ」
「ところで君も金森になる訳だが、下の名前は何がいい?」
少し悩んだ様子の彼は
「金森さ、父さんが選んでよ」
初めて父さんと呼ばれ心境が複雑だったが
「はは、そうだな。お前は今日から金森 蛍だ。」
明るく元気でも何処か儚げな君は、蛍みたいだった。明るく元気に飛び回っていてもその光は何処か儚げで消えてしまいそうな。
「父さん、お別れを言ってくる。」
覚悟を決めた顔で真っ直ぐに言った蛍は瞬間移動で彼らの元へ行った。
「頑張れ、蛍。」
▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒
「さて、蛍が行っている間に役所に出しといたぞ。養子の書類。その場で直ぐにOK貰えたから心配すんな」
そう言うと蛍はほっとした顔になっていた。
「荷物は父さんの家に運んどいたよ、一緒に住んでいい?」
「いいぞ、勿論だ。」
俺は同期のダチが上層部にいてソイツに裏口を色々手伝ってもらった。ソイツは最近なったばかりだったし能力者についてはまだ知らない。
「コレ、やるよ」
そう言って渡されたのは名札だった。
金森蛍捜査官と書かれてある。
「あ、りがとうゴザイマス」
緊張してカタコトになっている
「緊張しなくていい、ひとまず蛍はココだから。入るぞー」
俺は新しい道へ進む。
▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒
家に帰ると凛月の荷物は消えていた。
俺は、アイツのことを何も知らなかった。
「俺と皆は違う、何処か似ているようで丸っきり別のモノだ。」
CLOWNも俺達と同じ失敗作で同じように恨んでいるんだと思っていた。だって、アイツと初めて会った時にそう言ったから。
本当に意味がわからない。
「俺は、皆と過ごす時間が」
何故だ
「愛しくもあり、苦しくもあったよ」
何故?
「さようなら、俺の愛しい愛しい宿敵。」
.....行くな、
「”お前達はその場から動くことは出来ない”」
行くな!
「待て!CLOWN!」
アイツには届かない。
「......Fate cannot be changed.」
最後に言い残して去っていった。
あれは、この前英語の授業で習った英文だ。
”運命は変えられない”
アイツが何故殺したいと思う程奴等を憎んでいるのかは分からねぇ。実際、頭がイカれたのかと思った。それでも、
「アイツを止めねぇと!」
偽りの関係が砂上の楼閣であったことを彼が知るのはもう少し後のことだ。




