No.10
「信じられるわけ......無いじゃないか......」
「だろうね」
彼は冷凍庫からチューペットを取り出し割って片方を差し出した。
「甘い、な」
「もちろん、リンゴだからな」
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「......ねぇ、金森捜査官。俺と取引しない?」
彼は言った。
悪魔のように微笑んだ。
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「皆、しゅーごー!」
CLOWNはその日メンバーに呼びかけた。
「どうした、CLOWN。こんな朝っぱらに呼び出して。」
それぞれが《JACK》のアジトにやって来た。
「俺はこれから方針を変える。」
「どうするんだ?」
「俺は、皆に恨まれてでも奴等に復讐がしたい。」
「おい、何言ってんだ?俺達は全員復讐の為に......」
「俺はこれ以上皆の手は汚させたくないんだ。」
「聞けよ!話を、だ・か・ら!俺らはお前と同じくらい恨んでるんだぜ?彼奴らを。何故一緒に戦おうとしてくれない?」
その一言が頭に来た。
"同じくらい恨んでる"......俺は人の記憶を改変させる事が出来る。かつて幸樹にしたようにお前にも話したことがあるんだぜ?カタハ。
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高校一年生、まだ《JACK》を結成した当時。
俺は初めて盗んだ時、言ったんだ。
「なぁ、カタハ。俺が”最高傑作”って言ったら信じるか?」
そういった。
「は?何言ってんだ、お前がそんなわけないだろ?”最高傑作”は俺達失敗作の仇だ。」
「そう、か。分かった。お前は此処で俺と話していない。ただ、宝石を盗んで警備員が来たことに気付いた。......ッそうだろ?」
俺は記憶を消した。
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それからも、何人もの失敗作と対峙してきたが皆反応は同じだった。恨むべき存在、アイツが出来てしまったから俺達は奴等の実験体にさせられて......
”同じくらい恨んでる”だと?......はは、笑わせるな。
奴等に痛みを感じなくなってしまう程残酷な実験を行われること369回。壊れた体、細胞に至るまでの、能、そして体内の器官。君は”最高傑作”だ!と実験をこなしていく度喜んでいく奴等の顔。まだ若干12歳だった俺は心ですら壊れていて欲しかった。
だが、心までは壊れてくれなかった。
金欲しさに自分達の息子を売った両親、俺が壊れていく様を見ながら喜ぶ奴等の目、そして。
施設でも逃げ出した後でさえも化物を見るような目で見られて来た俺を!!自分を抑え、誰に言っても信じてもらえなかった人間への不信感も!!!唯一信じることの出来た皆に”恨むべき存在”と評された本来の自分を!!!
さらけ出すのが、、怖くて。
俺は誰よりも奴等を恨んでいる。
皆はたった1回で実験を許されたんだろう?
奴等に喜ばれはしなくとも施設では能力者として見てくれていたんだろう?センセイ達にコントロールを教えて貰えたんだろう?例えそれが自身のプライドや精神に傷が出来たとしてもそれからも生きる場所を与えられたんだろう?前例が居たからそこ与えられたモノは沢山あったんだろ?
なぁ?そうだったんだろ?俺とは真逆だ。
俺は初めての能力者でしかも人を殺せる人間兵器。施設に入ってからもコントロールは自分で身に付けた。教えてくれなかったから。誰も人を殺す事の出来た俺に近付こうともしなかったから。
これから実験を受けるため過ごしに来た同世代の子達にもまるで宇宙人を見たような目で見られたのも。全てが奴等への憎しみと繋がっていく。
お前らは能力者となってからも信じられる人が居た。施設のセンセイや孤児院のセンセイ。
そして、施設から逃走を手助けした俺。
俺は、信じられる奴が現れるまでもう16年も費やしている。俺は何処までもお前達が羨ましかった。本来の自分を押し付け逃走を手助けした救世主気取りの俺はお前らの信頼を得た。
お前らは俺に話したよな、酷い実験を1回されて、能力を手にしたと。失敗作だと罵られそれから施設に入ってセンセイに教えて貰ってコントロール出来るようになったけど失敗作と自分を罵った無責任な奴等を許せなくて飛び出して来たと。
”最高傑作”は奴等とどうせ同じ。
きっとチヤホヤされて持て囃されながら自分の苦しい実験も知らずに生きてるんだと。
そんな”最高傑作”も憎たらしいと。
多分、奴等は失敗作である皆に俺の事は詳しくは言っていない。今でも分かるように俺が最早実験を受けずに能力を手にし、逃走せずセンセイにも他の人にもチヤホヤされて生かされているような口振りだった。奴等が俺を制御出来なくなった時に俺を殺させる為だったのだろう。
皆に真実を言っても信じて貰えないと思った。
それでも、心の奥底で羨ましい、そして俺の犠牲も知らずに復讐心に駆られる、駆られる事が出来る皆に憎いとも思った。こんな感情はあの実験の時に失ってしまったら良かったんだ。
金森捜査官という真実を知ってしまった人が現れ俺と契約を交わしてから涙を流して慰めてくれた人が出来てしまって、爆発してしまいそうだったんだ。
はは、笑わせるな。俺はお前らが何も知らずに生きている事ですら憎いというのに。お前達と同じくらいしか恨んでいるわけが無いだろう。
真実も知らず信頼しているはずの俺に憎いとぶつけた皆。何も知らずに単純に奴等を恨む事が出来た皆。そして、俺を初めて信頼してくれた皆。
それが例え真実を知らないままでいいからもっと長く続いて欲しいと思っていた。この生まれて初めて手にする幸福な時間を。それでも。
自分を抑え、皆から得た信頼は所詮偽りのモノだった。
今、皆が言った”同じくらい恨んでる”。
真実も知らず口に出来た言葉なのだろうな。
俺は、もう、本当にお前らの手を汚して欲しくは無かったんだ。せめて、犠牲となってしまった皆だけでも真実など知らないままのうのうと普通の生活を手に入れて欲しかったのだ。
俺の事なんか忘れて、心の奥底で皆でさえも恨んでしまっている奴のことなど忘れて、俺の分まで幸せになってくれよ。そう思っていた。でも、今の一言で今まで抑えていた自分が出てしまう。
「は?」
ヤメロ、ヤめテくレ。
「何言ってんだ?皆」
これ以上、お前らを傷付けたくは無かったのに。
「おい、どうした...?CLOWN」
ハジメテ信じることが出来た皆。
「俺は、《JACK》を出る。」
偽りの信頼を得ていた皆。
「こんな生ぬるいことをしていたら駄目だ。」
幸せな時間は終わりを迎える。
「俺は警察になって潜入し奴等を殺す」
もう、お別れの時間が来てしまった。
「......殺、す?」
どこか純粋で
「ああ」
特別で
「何で殺すんだ、”そこまでしなくても......?”」
そう思えていたことが羨ましくも思えていたんだ。
「”そこまでしなくても”と言えるのか、
”そこまで”だったんだな、皆」
そして、
「俺と皆は違う、何処か似ているようで丸っきり別のモノだ。」
俺が
「どういうこと、だよ。」
誰よりも
「俺は、皆と過ごす時間が」
誰よりも
「愛しくもあり、苦しくもあったよ」
誰よりも
「さようなら、俺の愛しい愛しい宿敵。」
誰よりも
「待て!CLOWN!」
嗚呼、憎んでいた皆。
「”お前達はその場から動くことは出来ない”」
終わりはこんなにも
「......Fate cannot be changed.」
早く訪れてしまったね。
”運命は変えられない”




