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紅葉と桜

作者: みなと

 今年も桜の咲く季節がやってきた。

 僕はこの季節が嫌いだ。


 なんでかって?

 僕の名前が紅葉(もみじ)ってのもあるがそれだけじゃない。


「兄様、今日からまた一緒の学校に通えますね」


 この従妹の(さくら)がいるからだ。

 一つ下の桜は今年、新入生として僕の通う高校に入学してきた。

 桜は見目麗しく品行方正、勉強もでき運動だってできる。

 まぁ、有り体に言えば完璧美少女だ。

 中学の頃から散々モテて告白を何回されたか数えきれない。


 そんな桜はなぜか僕を兄様と呼び慕ってくれている。

 大して取り柄のない僕をだ。


「そうだな。できれば僕は別々に登校したいんだけど」

「兄様、それは無理ですよ。だって桜たちは一緒に住んでるんですから」


 そうなんだよ。僕がわざわざ知り合いのいない離れた高校に進学して一人暮らしを始めたのに、今年から桜が一緒に住むことになった。

 一人暮らしには広い部屋だと思ってたけど、これを予定していたらしい。

 大丈夫か、僕らの両親は。


「でも桜と一緒に登校するとなぁ」

「そうですね。それはわかっておりますが、そのような人たちは気にしなければいいのです。何より桜が兄様と一緒に登校したいのです」


 桜の言う通り無視してればいいことだが、そういうわけにもいかない。

 どうやっても耳に入ってくる。

 中学までは桜と比べられて惨めな思いをしていた。


 僕のあだ名、落ち葉くんだったからな。

 紅葉から蔑称考えて呼ばれてたんだよ。


 桜は綺麗で散るのが悲しまれるが、紅葉は散り際が綺麗と言われてるから、そこをあえて蔑称に使ったんだ。

 うまいこと考えるよな。


 花見も紅葉狩りもどちらもいいと言われてるが、僕らは比べれば差がはっきりとわかる。

 凡人で取り柄のない僕、紅葉と、才色兼備文武両道でなんだってできる従妹、桜。

 これだけ聞いても十分僕らのスペックの違いがわかってもらえるはずだ。


 桜と一緒に居るとそういう目で見られるだろうから嫌なんだよ。

 だからと言って桜が嫌いなわけじゃない。

 むしろ好きな方だ。

 こんな慕ってくれてるのに嫌うわけがない。


 それでも僕には劣等感がある。

 子供の頃からずっと桜と比べられ、自分でも比べて、僕は自分の惨めさを痛感する。


 僕は桜と比べると何もできない。

 落ち葉くんってのは僕にぴったりなあだ名だよな。

 桜は綺麗に舞い散って皆を魅了するなら、僕はただ地面に落ちてるだけの落ち葉。

 誰かを魅了できるわけじゃないから紅葉ですらない。


「桜の気持ちはありがたいけど、僕は無視できないみたいだ」

「兄様は優しいですね。あのような人達の戯言に耳を貸してあげるなんて、桜の兄様は本当にお優しいです」

「なんか勘違いしてるね。僕は別に優しくはないんだけど」

「桜は勘違いなどしておりませんよ。事実兄様はあの醜い豚共の汚らしい言葉にも、耳を傾けております。これが優しくなければ一体何が優しいのでしょう?」

「まず醜い豚共ってところからおかしいよ。僕以外の人、みんな豚って思ってたのか?」

「いえ、汚らしい家畜風情です」

「余計酷くなってない!?」

「なってませんよ。あの者共を敬称するのにぴったりではありませんか」

「どこが!? まず人間として扱ってない時点でぴったりじゃないんだけど!?」

「兄様を人間として扱わないというのに、なぜ豚共は人間として扱わなければいけないのでしょうか」


 あー、なるほどね。

 僕が落ち葉くんって呼ばれてることに、桜は怒ってくれてるんだな。


 でも名前をいじったあだ名とただの罵倒では全然違うよな?

 僕のために怒ってくれるのは嬉しいけど、怒りの度合いが強すぎると思うんだけど。

 そこまで慕ってもらえるようなことした覚えないんだけどなぁ。


「落ち葉くんも頑張れよって言ってくれてるんだよ。みんなが応援してくれてるって思えばいい」

「そのようには全く感じられません」


 その通り、僕も桜と同じ考えだ。

 僕が自分でそう思って頑張ろうとしてるだけで、実際にはそんなことはない。

 馬鹿にしたように嘲り、悲しい奴だなといった目を向けてくる。


 僕が君達に何をしたって言うんだ。

 いや、何もしてない、できないからこそ、桜と比べられて落ち葉くんって呼ばれるんだ。


「それでも僕はこの評価が正しいと思ってるんだけど。桜が僕を過大評価しすぎなんじゃないか?」

「兄様を過大評価したことなど一度もありません。桜は桜が見たままの兄様を慕っております」

「じゃあ美化されてるとか?」


 何言ってんだ。

 自分で言うことじゃない。


「そんなことはありません。桜だけが兄様の良い所を知っているのです」

「僕の良い所? 特に取り柄とかもないんだけど」

「ありますよ。まずお優しいところです。あのような家畜風情の妄言に耳を傾けるなど兄様以外にできる人はいません」


 ついに妄言とまで言っちゃったよ。

 それに僕以外にだってできる。

 桜だって聞いてるからそれだけ酷い扱いをするんだ。


「他には?」

「他には当然ながら見た目のかっこよさです。見る人全てを魅了することでしょう」


 僕、桜以外にかっこいいって言われたことないんだけど……。

 見る人全て魅了するなら落ち葉くんなんて呼ばれないよな?


「……他には?」

「兄様は気遣い上手です。今だって桜のためにさりげなく車道側を歩いてくれています」


 それは僕言われて気づいたよ。

 多分車道側を歩かされてたって方が正しいと思う。


 わかってたことだけど、桜の中で僕が何故か美化されている。

 どうしてこうなったんだ。

 慕ってくれる理由が僕に幻想を抱いてただけだった。

 虚しすぎる。


「ところで兄様、今年もお花見はしないということでいいですか?」

「そうだね。桜には悪いけど、あんまり桜は見たくないかな」

「いえ、気にしないでください。桜は兄様のしたいようにしたいので」


 やっぱり僕よりも桜の方が優しいよな。

 今年の花見はなし。紅葉狩りはもっとなしだろうな。




 × × ×




 月日が経ち、季節が秋になる。

 少し寒くなり、紅葉(こうよう)が美しく咲いている季節だ。


「兄様、誕生日おめでとうございます!」

「ありがと、桜」

「今日の予定は桜がしっかりと考えておりますので」

「それなんだけど、ちょっと行きたいところがあるんだけどいいかな?」

「兄様の誕生日なんですから気になさらず言ってください。兄様の行きたいところが桜の行きたいところです」

「そっか、ありがと。じゃあ行こうか」

「はい!」


 家を出て、目的地に向かう。


「ところでこれはどこに向かってるんですか?」

「んー、着いてからのお楽しみ」


 そんな会話をしていると目的地に着いた。

 そこで桜は僕の方を見ながら驚きの声で聞いてくる。


「ここ、ですか?」

「そうだよ」

「本当に、ここでいいんですか?」

「うん」

「どうして、ですか?」

「なんとなく、かな」

「そう、ですか」


 桜は僕から目線を外し、ある物に目を向ける。

 僕もそれに目を向ける。


 目線の先には赤く彩られた紅葉(もみじ)たち。

 美しく咲き、そして散っている。

 地面にも大量の落ち葉が散りばめられている。


「聞いてもいいのですか?」

「何を?」


 顔を動かさず紅葉を見たまま問いかけてくるので、僕もそのまま答える。


「……もう紅葉は嫌いではないのですか?」


 少しの迷いがあったが、それでも聞きたいらしい。


「ねぇ、桜。木々にくっついてる紅葉、今まさに風に飛ばされ散っている紅葉、地面に落ちて踏まれたりもしてる落ち葉。僕は今どれなんだろうね」


 その答えを聞くと、桜は紅葉から目線を外し、僕の方を見てくる。

 その瞳には戸惑いと驚きが含まれているように感じた。


「みんなが見に来る紅葉って地面に落ちてるようなのじゃなくて、木々にくっついて風景を赤く綺麗に染めてくれるものだよね」

「……そうですね」


 桜はなんて言えばいいのか困ってるみたいだ。


「僕はみんなに見てもらえるような紅葉になるべきだよな。落ち葉くんじゃなく」


 その言葉でまたしても桜の顔が驚愕の色を示す。

 僕が自分のことをやっぱり落ち葉くんって卑下すると思ってたんだろうな。

 まぁ今でもそう思ってはいるけど、それでもなろうと思ったんだ。

 桜と並んでも見劣りしない紅葉に。


「今までごめんな。桜は紅葉も桜も見たかったのにな」

「……そんなことは」

「知ってるんだよ。桜がテレビとかで僕がいないときに見てることくらい」

「……っ!」


 知られていたことに驚いているらしい。

 知ったのは叔父さん叔母さんに言われたからなんだけど。

 桜が行きたそうにテレビを見ているということを。


「昔はみんなで行ってたもんな。いつからだっけ? 僕が嫌がり始めたのって」

「桜が小学二年生の時です」

「そんな前だったんだ。長い間ほんとごめん」

「兄様のせいではありません。醜い豚共が悪いんです。豚のくせに綺麗な紅葉に寄ってたかって枯らそうとするのが悪いんです」

「僕は綺麗じゃなかったから」

「そんなことありません! 兄様はいつも輝いてました」


 大げさだなぁ。

 そんなわけないのに桜にはそう見えるんだな。


「ねぇ、桜。来年は桜の誕生日に花見しようか」

「聞きましたからね。絶対ですからね。後で嫌なんて言わせませんから」

「いいよ、毎年しようよ。花見も紅葉狩りも」

「はい! 一緒に行きましょうね!」

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