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真っ暗サンドバッグ
帰ってきて早々、君は私を殴る。
ギュッと固めた拳で私を殴る。
繰り返し繰り返し私を殴る。
涙を流しながら私を殴る。
飽きもせずに私を殴る。
苦しそうに私を殴る。
ひたすら私を殴る。
ずっと私を殴る。
今も私を殴る。
只私を殴る。
私を殴る。
殴る、殴る。
私は殴られるための存在じゃないのに。
嫌なことがあったから私を殴る。
辛いことがあったから私を殴る。
傷つけられたから私を殴る。
逃げ出したいから私を殴る。
君は私ほど強くはないから。
声を殺して、心も殺して。
可哀想な君。
私はただただその拳を受け止める。
疲れ果てて、眠る頃にまた君を支える。
いつか涙が滲みなくなる日を夢見て、私は今日も殴られ続ける。
君がいなくならないように。
支え続けられるように。
君が君を辞めてしまわないように。
ドアの開く音。
今日も君が帰ってきた。
まだ大丈夫だったと微かに安心しながら、私は君の拳を受け止める。
君は今日も私を殴る。
君を支えるマクラの話。
たまにはマクラを労ってみます。
お読みいただきありがとうございました。