捨ててくれるな
重い、重い、重い。
腕が千切れそうだ。
腹がはち切れそうだ。
身体中がギシギシと軋んでは痛む。
まったく、泣き叫びたい気分だ。
だがお前は歩くのをやめない。
暑い、暑い、暑い。
日差しで焦げそうだ。
お前の汗で濡れそうだ。
身体の中で水筒がカランコロンと音を立てる。
音は涼しげなクセに、やたらと重い。
相変わらず、お前は俺を気にも留めずに、ひたすら歩き続ける。
お前はいつになっても、俺の言うことをきかない。
いい加減にしてくれ。
もう引退してもいいだろう。
もう直さなくていいだろう。
これじゃまるでフランケンシュタインの怪物じゃないか。
なんて醜い見た目だ。
チグハグなツギハギで延命されても苦しいだけなんだ。どんなに傷を塞ごうとしても、俺は壊れていくしかないんだ。俺自身が消え去って、俺の代わりばかりが増えていく。
お願いだ、乗っ取られる前にはやく捨ててくれ。
俺がいくら叫んでも、お前の耳には届かない。
お前の声は聞こえるのに。
いったいあと何歩歩くつもりなのか。
どこまで逃げるつもりなのか。
俺だってお前の心までは読めない。
もっとカッコいい、新しいやつを見つけてくればいい。
そしたらお前も、バカになんかされないのに。
まったく、お前は俺の言うことをきかない。
俺は楽になりたいんだ。
リュックサックなんだから、そりゃ丈夫にできているさ。
だがそれにも限度ってもんがある。
身体が引きちぎれるよりも苦しくてしょうがない日々が、俺にはもう、辛くて耐えられないんだ。
だから、
はやく俺を捨ててくれ。
捨てられないお前と捨てられたい俺の話
思い出に支えられる日々、思い出に縋る日々、それは悪いことでしょうか
大切だった物と別れるって辛いですよね
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