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明日なんて来ない  作者: クロット
6章 明日なんて来ない
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第八十三話

『へっ、いいか・・・・・・』

・・・ああ、聞こえてるよオッサン。


夢幻のようにぼんやりとした意識の中、轟は頭の中で思い起こされる言葉に答えた。



・・・呆然と立つ轟に、翠はトドメを仕掛けるべく駆け寄った。


『この技を打つ前に、お前は一旦ボコボコのズタズタにされるんだ。』

・・・そうだったな。まずは相手を油断させなきゃな。


翠のラッシュが、猛然と轟を追い詰めていく。


『我慢だ、我慢だぞ轟。だがここぞ・・・ここぞというタイミングを見極めれば、それは最強の必殺技になる。』

へへ・・・タイミングが難しいんだよな。・・・わかってる。わかってるさ。大丈夫、任せとけよ・・・


遂に、翠がフィニッシュのアッパーを仕掛ける。だが轟は・・・仰け反りそれを避けながら、そのまま後ろに回転した。


ムーンサルトを・・・最強の必殺技を放ったのだ。




一年ほど前・・・それは翠のチャンピオンとのタイトルマッチの前日だった。

決戦を目前に控えた翠は、川の土手に来ていた。


「・・・。」

別に轟や厳八に会うつもりは無かった。

ただ、緊張か焦燥か・・・つい何となく原点ともいえるこの場所に来てしまっていた。


・・・やがて彼が背を向け、立ち去ろうとしたその時だった。


「おめえ・・・翠じゃねえか。」

「オヤジ・・・。」

そこには買い物帰りか、袋を下げた厳八がいた。



積もる話もあったが、当然話は明日の事となった。


「すまねえな翠・・・正直今更おめえにアドバイス出来ることはねえ。」

「良いんだ・・・出来ることは全てやった。」

項垂れる厳八を慰める様に、翠は穏やかに言った。


「・・・そうだ、代わりと言っちゃなんだが・・・轟も試合の申し込みで暫く帰っちゃ来ねえし、ちょっくらわしとトレーニングしてかねえか?」

「トレーニング・・・?アドバイスは無いんじゃ・・・」

「ああ、だからチャンピオン戦に対してじゃなくてな・・・。わしから出来るのはムーンサルトの指導だけよ。・・・勿論、その攻略法もな。」

ニヤリと、厳八は轟ばりの不敵な笑みを浮かべた。翠も興味深く目を煌めかせる。


「・・・!そんな物があるのか!?」

「・・・うっ、それはだな・・・未完成というか・・・八割というか。すまねえな、へっぽこコーチでよ。でもお前と2人でなら完成させられる気がするんだ。・・・いやでも明日は大事なチャンピオン戦だし・・・ええと・・・」

厳八は困ったようにまごつく。翠はそれを見て・・・静かに笑った。


「・・・ふっ。いいよ、やろう。チャンピオンを倒して・・・轟と戦うその日の為にな・・・!」


それは翠の厳八との最後の記憶だった。




・・・轟が放ったムーンサルトに対して、翠は身構えた。轟も当然それに気づく。

相手は最強の天才・・・どれほど最高のタイミングでこちらが攻撃を放っても、恐らく何らかの手は打ってくるはずだ。


(良いぜ・・・こっちにはツインムーンサルトもムーンサルトドロップもある。お前が何をしてこようが・・・必ず俺が勝つ・・・!!)


「はああああっ!!」

迷い無く、轟はその右足を振り抜いた。


その瞬間・・・彼の予想通り、翠は行動を起こした。


そのまま地を蹴り、垂直に・・・大きく飛び上がったのだ。轟の右足のムーンサルトが空を切る。


(なるほどな・・・土壇場で高く飛び上がればムーンサルトを躱せるって訳か。なかなか考えたじゃねえか・・・だが俺にはまだ左のツインムーンサルトがあるぜ。落ちてきた所を貰う・・・!)

轟は回転速度を緩め、翠の落下を狙った。


すると翠は・・・空中で身を翻し轟に背を向け、そのまま後転した。


「うおおおおおっ!!」


・・・つまり、轟のムーンサルトの逆回転だ。

それこそが、翠が厳八と完成させた・・・ムーンサルト破りの必殺技であった。


一連の動きを見た轟は・・・敗北を悟った。

(なるほどな・・・これなら俺が何をしようが更に上からそれを叩き潰せるって事か。・・・正にムーンサルトを破る為の逆回転・・・ムーンサルトリバースって訳だな。・・・参ったぜ、俺の負けだ。やっぱりお前は最強で最高だった。最後の相手がお前でよかったよ・・・翠。)


二つのムーンサルトはぶつかり合い・・・やがて一つが落ちた。


戦いはここに決したのだ。

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