第七十七話
『さあ本日のメインイベントは・・・地の底から復活を狙う地獄の死者・・・ランキング57位、飛岩雅也選手VSそのリーチに際限無し、槍の使い手・・・ランキング50位、日村間太郎選手だーっ!』
コーチに見守られながら飛岩はリングに上がった。
轟に敗れランクを大きく落としてしまった飛岩は、今シーズンはチャンピオンチャレンジャートーナメントに参加出来なかった。だが、こうして地道に試合を行い着々とランクを上げてきていた。
「・・・。」
彼は残念でならなかった。自分と戦った時の轟には、間違いなくトップランカー級の力があった。薬の力になど手を染めなくとも必ずやいつか翠と戦う所まで来れたはずなのに・・・。
『おおっーと!?これはどういうことでしょう、日村選手得意の槍を持っておりません!!』
実況の声に飛岩も我に返る。見ると、相手は確かに妙だった。槍を手にしていないことだけではない、その目は赤く血走り、半開きの口からはしゅーしゅーと息が漏れている。
(・・・いや、集中だ。例え相手がどうであれ、こんな所で立ち止まっているわけにはいかない。)
飛岩は気合いを入れ直した。
だが、試合開始の瞬間・・・日村はいきなり牙を剥いた。・・・文字通りその歯で襲いかかったのだ。
「ぐうう・・・あああっ!!」
吠えながら凄まじい速さで突進してくる。飛岩はなんとかそれを屈んで避けた。
「何だ・・・!?」
『これは一体・・・?日村選手理性を失ったかのように猛突進!!いや、これはまさか・・・!』
何かに感づいた実況と同様に、飛岩もそれに心当たりがあった。
轟を筆頭に・・・ここ最近ランキングのあちこちで明らかに薬物を使用したかのような、人間離れした身体能力を発揮する選手が見られているという。
「がああっ!!」
日村は再び歯を剥き飛び掛る。飛岩はかろうじてその噛み付きをいなした。
(くっ、これが噂のドーピングファイターか・・・そしてこれが薬を使用したものの末路とでもいうのか・・・!)
その凄まじい猛攻に飛岩は少しずつ追い込まれていった。
・・・そして、とうとうバランスを崩した瞬間に日村が迫った。
(・・・っ!しまっ・・・!!)
だが、何故か突然日村はその動きをぴたりと止めた。
「ううう・・・ぎゃああああ!!」
突然悲鳴をあげたかと思うと、彼は吐血した。おびただしい量の赤が辺りに散らばる。
「ああ!ああっ!がああっっっ!!」
あまりの急な出来事に皆が固まる。・・・やがて、ドクター達がリングに駆け上がってくる。
『これはドクターストップです!!日村選手試合続行不可!1ラウンド僅か1分にして、飛岩選手の勝利となります!!』
ざわめく会場の中、飛岩は口を真一文字に結び冷や汗をかいていた。
こんな物は試合ではない、ただの獣との殺し合いだ。
そして何より、それが彼のよく知るファイターの行く末となりうる事が飛岩を動揺させた。
(轟・・・。)




