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明日なんて来ない  作者: クロット
6章 明日なんて来ない
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第七十六話

・・・そして、永遠のように思われる戦いにも終わりの時が迫っていた。


(不味いな・・・薬が切れる・・・!)

轟は直感的にそれを感じ取っていた。


早く決着をつけるべく設けたルールが裏目に出た。これでは薬を補給する間も無い。


・・・いや、どのみち轟の体にそんなに時間をかける猶予は無かったのだが。


(3・・・2・・・)


あと放てるであろう攻撃の数を轟が頭の中でカウントする。


(1・・・、これで最後だ!この一撃で決める・・・!!)

彼は最大最後のパンチをチャンピオンの顔面に打ち放った。


めきっ・・・!!



(倒れろ・・・さあ、倒れやがれ・・・っ!)

しかし・・・轟の思いは虚しく、チャンピオンは倒れなかった。反撃を放つべく、彼のその腕が振り上げられる。


(馬鹿な・・・あれでも倒れねえなんて・・・!?駄目だ、もうどうする事も・・・!!)

「・・・っ!」

轟が敗北を感じた・・・その時だ。


ぴたり。何故かチャンピオンのパンチは止まった。


「・・・参ったぜ。俺の負けだよ。これ以上やってもしょうがねえ。」

大きく息を吐くと彼は拳を降ろした。轟は時が止まってしまったように目を見開いている。


(なんだと・・・?このまま続けてればてめえは・・・!)


しかしチャンピオンは、唖然としてこちらを見続ける轟にけろりと言った。

「なんて顔してんだよ。・・・本当だぜ、俺の負けさ。多分あのまま打ったとしてもお前は耐えただろう。そうしたらもう俺は動けなかった。」

ばさばさと、上着を拾い上げ土を払いながら彼は続けた。


「・・・それにな、見たくなった。このまま俺と壊れるまで打ち合うより、その先をよ・・・。もしお前が心まで薬に侵されたパワーだけの木偶ってんなら、御影とやっても意味は無い。ここで俺のファイター人生の幕引きの道ずれにしちまうのも悪くなかったかもしれねえが・・・今の試合のような熱さが残ってんなら・・・」

くるりと、轟の方を振り返って彼は言った。


「やれるぜ・・・あの若きチャンピオンともな。十分に・・・!」


・・・頑張れよと、そう付け加えて彼は去っていった。




・・・ぐしゃっ!

緊張の糸が途切れたのか、轟はその場に倒れてしまった。慌てて蛭川が駆け寄る。


「波風さん・・・!」

「・・・とんでもねえ奴だ、そして翠はあの野郎に勝ったんだ。・・・やっぱり、簡単にはいかねえよ・・・。」

轟は呟き、意識を失った。



・・・数日後、チャンピオンチャレンジャートーナメント決勝の舞台は騒然としていた。


『さあいよいよ決戦・・・という所ですが、これはどうした事でしょう?レン選手の姿がまだ見えておりません。・・・おまけにそれに対する波風選手は既にボロボロです。』


轟は何食わぬ顔でコーナーポストに寄りかかっている。その体にはチャンピオンとの戦いで受けた傷がまだ生々しく刻まれていた。



しばらくして、審判がレンの不戦敗を宣言。勝者として波風の手を上に掲げた。


当然ざわめく場内。・・・すぐにその声は上がった。


「波風ー!てめえまた何か汚ねえ手を使ったんだろう!!」

「そうだ、闇討ちをしたんだろ!?それで体が傷だらけなんだ!!」


瞬く間に会場はブーイングの嵐。年に1度の大1番を見られなかったのだ、彼らの怒りはいつに無く爆発していた。


その時、一際大きな声が辺りを黙らせる。

「うるせえよ!!」


叫びながら立ち上がったのは、偉大なる伝説の元チャンピオンだった。

彼もまた、轟同様に全身生々しい傷が残っている。


「うっ、チャンピオンだ・・・!」

「うおー!チャンピオンだ!!」

引退してなお彼の人気は衰えない。彼は悠然とリングへ上がっていき、轟の前に立った。


「へっ、色々言いたい事もあるだろうがよ・・・こいつは十分にタイトルマッチに挑む権利があるぜ。・・・なんせこいつは俺に勝ったんだ。レン共々ぶっ倒して、タイトル挑戦権を奪おうとした・・・この俺をな。」


驚くべき宣言に再びどよめく場内。


「波風がチャンピオンを倒したって・・・?」

「逆にあのチャンピオンが闇討ちをかけたってのか・・・?」

「なんだよそれ、見たかった!!」


そしてチャンピオンは轟に寄ると、耳打ちをした。


「なあに、構うことはねえよ。・・・それによ、奴等の鬱憤はすぐ晴らされる事になると思うぜ。・・・見な。」


彼がそっと客席の方を指差す。轟が振り返るとそこには・・・


「・・・翠・・・!」

リングからは米粒程の大きさだが、それは間違いない翠の姿だった。


やがて客達もそれに気づく。

「御影だ・・・。」

「何だと・・・!?」

「新旧チャンピオンそろい踏みって事か・・・?」


翠はただじっと轟の事を見つめていた。

轟もまた、彼に視線を返す。


言葉は交わさずとも、2人の意志ははっきりしていた。・・・決戦の時は近いと。

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