第七十五話
レンとの決勝・・・それに備え、日々己の体に襲い来る激痛と戦い続けていた轟の前に・・・その男は突然現れた。
「てめえは・・・翠に負けた前のチャンピオンじゃねえか・・・!?」
「・・・あらら、いや確かに間違っちゃいねえけど・・・もうちょいマシな呼び方はねえもんかね。」
こちらを睨む轟にチャンピオンはおどけた笑みを浮かべた。
しかし轟は警戒心を緩めない。
「その男が一体何の用だってんだ・・・。」
「へへっ・・・決まってんじゃねえか。チャンピオンチャレンジャートーナメント決勝をな、この場でやろうってんだ。・・・レンの奴なら先に張り倒して来たからよ。」
そう言うとチャンピオンは上着を投げ捨て、構えた。
「・・・なるほどな、ヤク中の外道ファイターは偉大なるチャンピオン様直々に葬ってやろうって魂胆か。良いぜ、受けて立ってやる・・・。」
轟も応じつつ懐の薬に手を伸ばした。慌ててそばに居た蛭川がそれを静止する。
「待ってください、波風さん・・・あんただってもう気付いているはずだ。もうあんたの体に余計な試合を行っている余裕なんて無い事くらい・・・。」
「関係ねえな・・・邪魔になる奴は片っ端からぶちのめすだけだ。例え体が砕けちろうが脳が腐りおちようが、俺は翠の野郎と決着を付けるまでくたばりはしない。」
轟は警告を振り払うように注射器を腕に突き刺した。それを見てチャンピオンはニヤリとする。
「感謝するぜ・・・そうこなくちゃな。それから伝えておくとな、俺は別にファイトに薬を持ち込もうが大砲を持ち込もうが構いやしねえぜ。・・・むしろ褒め称えるくらいさ。何が何でも勝ちにこだわる気持ちは俺にもよーくわかる。」
「御託は良い、時間がねえんだ・・・とっとと始めよう。」
轟は冷めた目で構えを取った。
「おっと、すまねえな。・・・だったら最後に一つ、こんなのはどうだ?どーせリングも何もありゃしねえんだ。インターバルも審判も無し、どっちかがぶっ倒れるまでやるってのは・・・」
瞬間、轟はチャンピオンに殴りかかった。
「・・・乗ったぜ・・・!」
ごきっ!
轟のパンチはいきなりチャンピオンの側頭部に決まった。・・・トップランカー層をも一撃で葬り去る凶悪なパンチが。
(決まった・・・!そうだ波風さん、こうなれば出来るだけ早く切り上げるんだ。さもないとアンタの体は・・・)
蛭川が思考を巡らせたその時だ。
どごおっ!!
チャンピオンは轟の腹部に強烈なアッパーを放った。・・・まさしく相手の攻撃を受けつつも自身の最大の一撃を返すダブルソードカウンター。彼の必殺技は、薬漬けの狂気のパンチを前にしても変わらなかった・・・!チャンピオンはニヤリとする。
「どうしたよ・・・そんな死人のようなパンチじゃ御影はおろか俺も殺せないぜ・・・うぐっ!?」
ばきいっ!
轟も怯まない。握り合わせた拳でハンマーのようにチャンピオンを上から叩き付けた。
どがっ!!
またしてもチャンピオンがそこにカウンターで蹴りを放つ。
気付けば、2人の戦いはカウンターの応酬になっていた。防御など存在しない、本能そのものの死闘。
しかしその威力は・・・限界を遥かに突き抜けている。
薬により人間を超えた力の轟のパンチと、
それを利用してのチャンピオンのダブルソードカウンターと・・・!
腕組みをする蛭川の額を脂汗が伝う。
(ああ・・・駄目だ波風さん、このままでは・・・!!)
薬の効果を長く使えば使うほどその副作用も増す。まして、これほどの極限の打ち合いをしていれば尚更だ。
どがっ!!ばきっ!!
ぐしゃっ!!ずんっ!!
ごっ!!べきぃっ!!
殺人現場かのように、多量の血が散らばっていく。
それでも、2人は倒れない。
「おおおおおっ!!」
いつの間にか・・・これまで死んだように試合に望んでいた轟の目は激しく燃え上がっていた。




