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明日なんて来ない  作者: クロット
5章 消えかけた炎
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第六十五話

ぼちゃり。轟が川へ石を放り投げる。麗香はそれを膝を抱きながら見ていた。


「本当はさ、誰かを好きになってもそれを伝える気は無かったんだ。でも駄目だね・・・この気持ちに気付いちゃったら・・・我慢出来なかった。」

「・・・はっ、別にいいじゃねえか・・・それでも。」

ぼちゃり。またも石は一度も跳ねず沈んだ。


「ううん、駄目なんだ・・・絶対に。」

「何だよ、いちいち謎めかせる奴だな。勿体付けずに言っちまえよ。」

そう言うと轟はまた手頃な石ころを拾い上げた。


「・・・うん、そうだね。これだけは・・・きちんと伝えなきゃね・・・」




・・・翌日。もうすぐ春も近いというのに厳しく襲いかかる寒さに、工事現場の男達は悲鳴をあげていた。


「・・・ふう、珍しいな・・・。轟ちゃん、今日はサボりかね?」

手の土を払いながら呟く男に、別の男が答える。


「体あっての物だねだからな・・・元気でサボってるだけならいいが・・・」




・・・当の轟は、橋の下のテントの中にいた。昼も回る頃だというのにまだ起きて来ない。



やがて日が沈み、深夜。

轟は変わらずテントにいたが、寝ている訳では無かった。

暗闇で目を開き、何も見えないはずの空間をぼうっと見つめていた。


(・・・何故だ。何故いつもこうなんだ。・・・俺か?俺が全ての原因で、俺といる奴は必ず不幸になる・・・。へっ、それで翠は出ていったのかもな。だったら・・・だったら俺の命くらいくれてやるぜ。だから、だから・・・!)




・・・前日の事だ。

「・・・実はね、私病気なんだ。重い、重い・・・。」

麗香はごく普通のトーンで言った。轟は構わず振りかぶった。


「へん、まーたそんな事言ってよ。俺の驚く顔見ようったってそうはいかねえぜ。」

「ううん、ほんとだよ。・・・勿論明日明後日という訳じゃないけど、死ぬんだ。1年以内には必ず・・・」

ぽとり。思わず轟は投げかけた石を落とした。


「やめろよ、面白くねえぜそう言う冗談はよ!」

声を荒げ麗香の方を見る。が、彼女は悲しそうに首を横に振った。


がしり、轟が麗香の両肩を掴む。


「おい、嘘だろ?からかってるんだろ?そうだと言ってくれよ・・・なあ。だって・・・こんなに元気そうに・・・。」

しかし麗香は俯くだけだった。



彼女があれほど死に固執した理由が、轟は今分かった。誰かに惚れたとしても、相手に思いをひた隠しにしようとした理由が・・・分かった。

自分に未来が無い事を知っていたからだ。

だから皆が楽しそうなファイトの中で、幸せなままに死のうとした。

だから相手を悲しませない為にその思いを隠そうとした。

全てを理解した轟は、がっくりと崩れ落ちた。


これでは・・・厳八の時と同じではないか。

だったら何故、自分にその思いを告げたのか・・・。

いっそ知らなければ・・・知らないままだったら・・・。

いや、知ったからこそ今ならまだできる事がある。

厳八の時は何も知らずに・・・何もできずに彼は死んでいった。


・・・今度はそうはさせない。



「それで・・・それでね轟。こんな事を頼むのは我が儘だし、無責任だと分かってるけど・・・できたらそれまでの間・・・一緒にいて欲しいんだ。」

麗香が申し訳なさそうに問い掛ける。


しかし轟は、ぷいっとそっぽを向いた。

「・・・嫌だね。卑怯な奴だよてめえは・・・そんな大事な事を隠して俺に近寄って来たんだからな。何が楽しくてもうちょいで死ぬやつに同情で付き合わなきゃいけねえんだ。俺に何の得があるんだよ、お断りだね。」

「・・・轟。」


ニヤリ、轟は邪悪な笑みを浮かべる。

「へん、ひでえ奴だろう。散々ファイトで世話になっておきながら、もう利用価値が無いと分かったらとっとと切り捨てちまう・・・俺はそういう男なのさ。・・・翠の所にでも行ったらどうだ。あいつはあれで結構お人好しだからよ、死ぬと分かったからってほっぽり出したりはしねえはずだぜ。最後まで一緒に居てくれるはずだ・・・俺と違ってな。」

「・・・。」


しかし麗香は何も答えず、縋るような目で轟を見た。・・・轟は口調を強める。


「・・・いつまでそうしてるつもりなんだ。分かったらとっとと何処へでも行っちまわねえか!てめえの陰気な面を見てると、こっちまでおかしくなっちまいそうなんだよ。早く消えやがれ・・・!!」


背を向けたまま、手を振り下ろし震え声で言い放つ。すると麗香はゆっくりと立ち上がった。


「・・・そうだよね。ごめん、轟。もう二度と来ないから・・・。少しでも一緒に過ごせて楽しかった。・・・さよなら。」

目に涙を貯めながら、麗香は走り去っていった。



・・・少しして、轟はゆっくりと振り返った。その頬には一筋の雫が伝っている。


「ああ・・・どうして、どうしてだ・・・。ううっ、うわああああああ!!!」


泣き叫びながら、彼はのたうち回った。

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