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明日なんて来ない  作者: クロット
5章 消えかけた炎
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第六十二話

満田ファイターズジム。


翠はこの日も当然過酷なトレーニングに励んでいた。

しかしそれも限界がある。実らぬ成果に翠は苛立ってきていた。


「これでは・・・駄目だな。」

がちゃん!と筋トレ器具を置きながら呟く。


その様子に満田会長は気がついた。

「翠君・・・。」

「基礎的なトレーニングは大事だが、やはりそれでは実戦の勘は養えない。このままじゃ次の防衛戦までに感覚が鈍ってしまいそうだ・・・。」

翠はイライラと首を振った。


「ふむ、君の言うのも最もじゃが・・・チャンピオンともなると練習試合の相手も一流の者を用意せねばならん。尽力するがそう上手くは・・・どうした?」


突然、マネージャーが2人に駆け寄ってくる。彼は紙切れを手にしていた。


「それが・・・翠君に・・・チャンピオンに練習試合の申し込みが・・・。」

「何?・・・それは今まさに願ったり叶ったりじゃが・・・余程の者でなければむしろ翠君のペースを乱すだけじゃぞ。」

しかしマネージャーは引かなかった。


「・・・その余程の相手なんです。申し込んで来た者のランクは・・・4位。」

「何じゃと・・・!?馬鹿な、そんな大物が何故このタイミングで・・・」

困惑し思考を巡らす満田だが、隣の翠は理由などはどうでもよかった。


「・・・そう来なくては。やはり勘を養うにはレンや聡級の・・・防衛戦の相手になりかねないレベルじゃなきゃな・・・!!」

彼の炎は一気に燃え上がっていた。




・・・数週間後。

満田源三郎所有、大競技場。

そこにはチャンピオンチャレンジャートーナメントクラスの観客が入っていた。


そう・・・全てはチャンピオンと4位の練習試合を見る為だ。練習試合とはいえ超大物同士、間違いない大激戦が繰り広げられるだろう・・・皆そう考えていた。



控え室。

翠はここで満田と作戦会議をしていた。

最もそれは作戦会議と呼べる代物では無かったが・・・


「翠君、本当にいいのか?全く相手についての事前情報無しで・・・」

「ああ、構わない。その方が実戦の勘はより養えるだろう。・・・少し外の空気を吸ってくる。」


ドアを開け外に出る翠。瞬間、彼は誰かとぶつかりそうになった。

短い髪、中性的な服装・・・そこにいたのは凍城麗香だった。


「わっ、ごめんなさい・・・間違えちゃったみたいで・・・。」

「・・・。」

翠は何も答えない。ただじっと彼女を見詰めていた。


「・・・とにかく、失礼しました。」

そう言うと麗香は足早に去っていった。


「誰か来たのかね、翠君?・・・ファンの子は大切にせなあかんぞ。」

物音だけを聞いていた満田が首を傾げ覗く。翠は相変わらず立ちつくしていた。


(今のは・・・。)



翠の控え室を離れ曲がり角を曲がった所で、麗香は立ち止まった。

(へえ・・・今のがチャンピオンか。・・・ふふっ。)




『さあ今宵の1戦・・・見てくださいこの練習試合とは思えぬ大観衆を!!』

『やはりチャンピオンの勇姿を一目見ようという方が多いんでしょうな、こんな事でも無ければ彼が表舞台に立つ事はありませんからね。』

サービスの良い満田は、わざわざいつもの実況と解説を招いていた。翠の為集まってくれたファンに少しでも試合を楽しんでもらおうという気構えだろう。


『さあいよいよ選手が入場して・・・おっと、先に現れたのはチャンピオンだー!』


無愛想に手だけ上げながら翠が入場してくる。すると・・・


うおおおおお!!!

『・・・凄まじい!彼が一目見えるやいなや大歓声です!!』

前のチャンピオンの人気も凄まじかったが・・・なんせ翠はそれを破った男だ。今や彼は一番人気のファイターとなっていた。


『対する相手は・・・来ました!ランキング4位、ワールドチャンピオンズファイトの数少ない女ファイターにしてその頂点、凍城麗香選手だー!!』


「何・・・!?」

現れた少女に翠は目を丸くした。

それは正しく、先ほど控え室で会ったあの少女だったからだ。


「・・・ふふっ、お手柔らかに頼むよ。」

にこりと、彼女は微笑んだ。



・・・さて、轟もまたそんな会場の片隅にいた。


「まさかこんな事になるとはな・・・」

呟く彼の手には試合の招待券が握られていた。


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