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明日なんて来ない  作者: クロット
5章 消えかけた炎
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第六十話

ワールドチャンピオンズファイトの会場。


轟はこの日試合に臨んでいた。

対戦相手はリフィルド・フェルナンデス。ランク33位の強豪だ。


『さあ先日の飛岩戦がまだ記憶に新しい波風選手、フェルナンデス選手のスピードに翻弄されております!!』


「・・・くそっ!この程度、追いつけないスピードじゃねえってのに・・・!!」

ぶんぶんと轟の大振りの攻撃をフェルナンデスが自慢のスピードで翻弄する。


(くっ、ちょこまかと・・・そうだ、アレを試してみるか。)


ふと、轟の構えが僅かに変わる。フェルナンデスも流石にこのランク帯の猛者、その少しの変化に気付いて警戒する。


が、次の瞬間・・・彼は反応出来なかった。轟の繰り出したパンチに・・・。

びしゅっと音を立て・・・その強烈な一撃が決まる。


カンカンカンカンカン!


『試合終了です!!いやあ今井さん、最後の波風のパンチ・・・あれは凄かったですね。』

『その通りですね。それまで大振りのパンチを繰り出していたのは全て最後の1発の為でしょう。あそこまで一気に攻撃のペースを変えられたらいくらフェルナンデスでも反応できませんからね。・・・荒々しいと見せかけ実にテクニカル、あれもまた波風が大番狂わせ屋の異名を持つ所以でしょうかね。』




・・・その日の夜、轟はそれなりに疲労しているというのにいつまでも眠りに付かなかった。

麗香が来るのではないか・・・そう思ったからだ。

いつの間にか轟は彼女と会う事を心待ちにしていた。それもそうだ、彼女は会う度に的確に自分の欠点や何かを見つけ強くしてくれる。ファイターとしては願ってもない名コーチだ。


だが轟は、それとはまた別の感情が芽生えている事に・・・まだ気づいてはいなかった。


座り込みぼんやりと川の方を見る。

がさり。不意に斜め後ろに響いた物音に轟は慌ててそちらを見た。


・・・しかしそこには誰もいない。

そしてまた視線を川の方へ戻そうとしたその時だ。拳大の石礫が轟の頭上を飛び越え彼の斜め後ろに落ちる。

がさり。彼は今度は石が飛んできた方を見た。


「・・・麗香。」

「ふふ、引っかかったね。」

いつまで続ける気だったのか・・・彼女は沢山の石を抱えながら、にこりといつもの儚げな微笑みを浮かべた。



「へへっ、聞いてくれよ。今日お前に教わったパンチでランク33位の野郎をぶっ倒したぜ。」

「へえ・・・やるね。轟はワールドチャンピオンズファイトの選手なんだ。」

「ああ、まあ大して強くはねえけどな。・・・そういうお前は・・・?」

それは轟がずっと抱いてきた疑問だった。これ程正確なアドバイスをしてくるのだ、きっと彼女自身もかなりの実力を持つファイターなのではないか?


「うん、そうだよ。私もワールドチャンピオンズファイトの選手だね。」

麗香はけろりと言った。


「やっぱりそうか・・・いやあ、良かったぜ。実体が掴めてよ。俺はてっきり麗香はもう死んでる亡霊かなんかなんじゃないかと・・・。何せ真夜中にいつもニヤニヤしながら現れるだろ?」

「・・・そんないつもニヤニヤしてないよ。夜中に来るのは・・・轟はその時間しかいないでしょ?・・・ふふ。」

そう言いながらも麗香はまた笑った。


「あっ・・・そうか、俺のせいって訳ね。へへっ、別に朝早く来たって構わねえのに。」

昼過ぎに起き日雇いに出掛け、夜中に帰ってトレーニングに励む。それがここ最近の轟の試合のない日のスケジュールだった。


「・・・でも、もう死んでるってのはあながち間違いじゃないかも・・・」

ぼそりと、麗香が呟いた。轟はその小さな声を聞き取れなかった。


「ん?なんか言ったか?」

「ううん、何でもないよ。・・・それより轟はさ、何でワールドチャンピオンズファイトに出るの?」

「何で・・・?」

そう言われてみると、明確な答えはパッと出なかった。思わず轟は考え込む。


自分より強いヤツがいるのが気に入らない・・・?

まあ、それもあるが何かそれだけでは無い気がする。

厳八の遺言に従って・・・?

今やそれは違う、そんな呪いのような堅苦しい理由ではここまで続けられはしない。

翠との約束を果たす為・・・?

いや・・・もっとこう、単純明快な何かが・・・


「・・・わかった、わかったぜ。」

顔を上げると、轟は言った。


「簡単だよ、楽しいからさ。うっとおしいルールとロープに囲まれたこのリングでの・・・だがそれでいて奥深く、だからこそ生まれる・・・そこらの喧嘩とは違う・・・そう、この間の飛岩との死闘のような攻防が・・・どうしようもなく楽しくて・・・。俺はいつの間にかすっかりハマり込んじまってたんだ・・・。」

自分の世界に入り込むように熱く語る轟だが、麗香はそれをじっと頷いて聞いていた。


「そうか・・・君はファイトが好きなんだね。・・・羨ましいな。」


ふと、我に返った轟が麗香を見る。


「何だ?お前は違うのか?」

「うん・・・ある意味では大切には思ってるけど、楽しいとは全く別。・・・私がファイトに出る理由は・・・」

麗香は俯き・・・そして顔を上げ言った。



「・・・死ぬ為だよ。」

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