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明日なんて来ない  作者: クロット
5章 消えかけた炎
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第五十五話

リングの外へ落ちればダウン扱い、当然審判のカウントは進む。

あれほどの一撃を受けたのだ、もはや立ち上がる事は無い。誰しもがそう思っていた。


しかし轟はリングへ戻ってきた。ゾンビのようにふらつきながらも・・・。


『なんと、波風選手立ちました!!不死身です!・・・それにしても今井さん、今のは御影選手がタイトルマッチで見せた宙返りしつつ蹴り上げる必殺技ですよね?』

『実はですね、元々このムーンサルトは彼の技なんですよ。昔は良く試合で見せてくれたものです。・・・しかしその練度もタイミングもチャンピオンのものとは比べ物になりませんな。これではただ苦し紛れに打っただけ、躱されて当然ですよ。』


リングへと戻り虚ろな目でこちらを見る轟に、飛岩は薄らと笑みを浮かべていた。


「どうしたよ飛岩・・・渾身の一撃で仕留め損なったってのに嬉しそうじゃねえか・・・。」

「ふふふ・・・まあな。そう言うお前こそ、試合前はあんな事を言っていた割に随分と執念深く立ち上がってくるんだな。」

「・・・けっ、まあその気だったんだが・・・気が変わったんでね・・・!」

「ふっ・・・。」

2人は何故か共に不気味に微笑んでいた。


気付けば、冷めきって光を失っていた轟の瞳は・・・メラメラと燃え上がっていた。


(そうだ・・・別に俺が負けるのは構いはしねえ。もう慣れたもんだしな。だが、何でかな・・・あのムーンサルトは・・・オッサンと2人で手に入れたあの最強の必殺技だけは・・・誰にも負ける訳にはいかねえんだ!!)

(理由は何でもいい、よく立ち上がったぞ・・・轟。このままではあまりに不完全燃焼、俺がライバルと認めた男とこの程度で決着が付くはずはないんだ・・・!)

飛岩も再びがっちりと構えた。


すると轟は、ゆっくりと接近していき・・・こう呟いた。


「へへへ・・・飛岩、次もムーンサルトで行くぜ。・・・ただし、今度の月は2度登る。避けようが逃げようが・・・絶対にだ。」


『おおっーと!?これは波風選手、意味深な必殺技予告かー?』

『むう・・・これは・・・。』


うおぉぉぉぉお!!

半ばショーの様な試合運びに解説の今井は不満げだったが、観客達は大盛り上がりだった。

八百長とさえ揶揄していた試合に・・・必死に食らいついていく轟の姿に・・・いつの間にか引き込まれていたのだ。


(面白い・・・何度でも叩き潰してやる・・・!!)

飛岩は再度ムーンサルトを迎撃すべく、そのタイミングを待った。


刹那、轟の右足が地を蹴り・・・ふわりと浮き上がる。そしてそのまま体を反らせ顎先を狙う。

だが所詮来る事さえ分かっていればそれはただの大振り、飛岩は難無くそれを左に躱した。


(貰った・・・!今度こそ沈め轟・・・!!)

剥き出しになった背中へ拳を打ち放つ。

しかし次の瞬間・・・飛岩は何故か顎に強烈な衝撃を受け吹っ飛んだ。




「いいか轟、お前のムーンサルトだがな・・・あれはまだ完成じゃねえ。」


・・・翠のタイトルマッチの数日前に、厳八は突然言った。・・・そう、それは正に彼が倒れるほんの少し前の出来事だった。


「あん?未完成ってのはどーゆー事よ。最近はあんま使っちゃいねえが、俺のムーンサルトは完璧だろ?」

そう言うと轟は華麗にくるりと後転して見せた。


「いや、まあそうなんだが・・・未完成というより進化じゃな。お前のムーンサルトはそこからもう一段階パワーアップできる。」

「ほー・・・ああ、わかったぜ。そのまま何度も回り続けて何回も何回も相手を蹴り付けろってんだろ?・・・そりゃあ流石に無理だぜオッサン。」

轟はニヤニヤしながら腕をくるくる回す。


「ち、違うわい!!馬鹿にしやがってこの野郎・・・げほっげほっ、いいか見とけ・・・わしが実演してやる。」

「いいよ・・・病気のご老体がそんな派手な動き出来るわけ・・・」

しかし厳八は轟を無視して勢い良く飛び上がった。


・・・結果は不発。無様に足をばたつかせながら彼は真っ逆さまに落っこちた。


「あ痛っ!!」


だが、轟は・・・彼が伝えたかったものの正体をそこに見た。

「・・・!なるほど、そういう事か。確かにそれなら・・・俺のムーンサルトは進化する・・・いや。」

思わず胸が高鳴るのを轟は慌てて抑えた。この時彼はファイトを辞めるつもりだったから・・・。


「無理だな。空中でそこまで複雑な動きはできねえよ。」

顔を背け呟くが・・・しかし厳八は目を煌めかせ轟の肩を掴んだ。


「無理じゃねえさ!!お前さんの身体能力ならできる!!そしてこの技さえあればチャンピオンにだってなれるとも・・・たとえわしがいなくなっても・・・。」

「・・・あん?何か言ったか?」

小さく付け加えたその言葉を轟は聞き逃した。


「いいや、何でもねえさ・・・へへへへ。」




・・・そして轟は、この土壇場でその技を放ったのだ。ぶっつけ本番・・・それも相手は自分をはるかに上回る猛者。だが彼には確信があった。必ず決まると・・・厳八が残したこの技が負けるはずは無いと・・・!


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