第五十三話
ワールドチャンピオンズファイトの会場。
この日も数々の猛者達の、激闘が繰り広げられた。
エールを送られながらリングを降りる飛岩もその中の一人だった。無論、試合に勝利して・・・。
「おめでとう、飛岩君!!とうとうやったな。これでランキング8位、ついにチャンピオンチャレンジャートーナメントへの出場権を得た訳じゃ。」
満田がタオルを掛けながら言う。飛岩は微笑みを浮かべながら黙って頭を下げた。
「しかしいざトーナメントに優勝し、翠君との決戦となった場合・・・儂はどちらを応援したらいいんじゃろうな?どちらもチャンピオンに出来たら一番良いのじゃが。」
滅茶苦茶を言う満田に飛岩は小さく笑った。
「ふふっ、その時は翠の奴を応援してやってください。力こそあるが奴にはまだ精神的に未熟な所が有りますからね。・・・最もそれでも勝つのは俺ですが・・・。」
「ほっほっほ、余裕じゃの飛岩君。しかし油断はいかんぞ。トーナメント開幕までの後3ヶ月少々、その順位を守り抜かねばならんのだから。」
すると飛岩は、何故か立ち止まってしまった。慌てて満田が振り返る。
「飛岩君・・・?」
「その事なんですが会長、俺にはどうしても戦わなければいけない相手がいます。」
「なんじゃと・・・?いや、確かに一つでもランクを上げておけばそれだけ挑戦を受ける可能性は減るかもしれんが・・・」
チャンピオンチャレンジャートーナメントに出れるギリギリのラインであるランク8、9辺りは挑戦を申し込まれやすいのだ。
しかし、飛岩の考えは違った。
「いえ、俺が戦いたいのはランクが下の相手です。それも、ずっと・・・。」
「なにい?・・・ああそうか、敢えて確実に勝てる相手と戦って、試合をしなければならない義務を消化しようというのじゃな?はは、君もなかなか戦略派ではないか。」
2試合に1度はランクが下の相手と試合をしなければならないので、確かにランク10台の猛者と戦うよりは確実かもしれない。
しかし飛岩の考えは、そうでもなかった。
「いいや違う・・・確実に勝てる保証はどこにもない。勿論、勝つつもりですが・・・!」
「なんと・・・!?して、君の対戦したい相手とは一体どこの誰なんじゃ!?」
「・・・ランク149位、波風轟・・・!」
飛岩は、力強く言った。
満田は驚いたように目を丸くする。
「波風・・・確か翠君の・・・。」
「ええ、そうです。あの川の橋の下で翠と共に鍛錬を積んだあの波風轟です。」
「し、しかし彼など大したファイターではないではないか。増してチャンピオンまであと1歩という所まで迫ったこのタイミングで何故・・・?」
あくまで困惑する満田だが、飛岩に迷いは無かった。
「今・・・だからです。仮にもしこのまま順当に翠を倒し、チャンピオンになったとしましょう・・・恐らく俺は納得できない。自分より強いかもしれない男を倒していないのに最強を名乗る事など・・・。」
「飛岩君・・・。」
満田は訳が分からなかった。何故飛岩や翠がここまで・・・いや、彼等ほどの者達がここまで評価する波風轟という男が一体何なのか・・・。
一度見た時は、何の変哲もない喧嘩の延長線上の不良ファイターだったはずだ。・・・それから特にランクを上げた訳でもない。
一流のファイターしか感じれぬ何かがあるというのか?ファイターでは無い満田には知り得ぬ何かが・・・。
「今一度よく考えてみてくれ・・・何をすべきかを・・・」
ただそう言うしか、満田にはできなかった。
数日後。
轟は思わぬ客を迎える事になる・・・。
「て、てめえは・・・!!」
飛岩はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「やれやれ、相変わらず風通しの良いジムだねえ。」
飛岩はきょろきょろと周囲を見渡した。
「何だってんだよ、てめえも喧嘩売りにでも来やがったのか?」
轟が睨み付ける。
「ふん、あながち間違ってはないかな。・・・そう、喧嘩を売りに来たのさ。大真面目にね。」
すると彼は轟の足元に封筒を放った。
「何だこれは?・・・うっ!」
破り開くそこには・・・対戦の申込書が入っていた。ランク8位、飛岩雅也との署名もしっかり入っている。
「通例通り郵便で送り付けてやっても良かったんだがな・・・あいにくここは住所不定なんでね。・・・書いてある通りだ、轟。俺と戦え・・・!」
「・・・!!」
真剣な眼差しを向ける飛岩に一瞬轟の目も煌めいたが、すぐにそれは消えた。
「やだね、冗談じゃねーや。」
「な、何!?・・・これはれっきとしたランク戦、勝てば一気にランクを100以上あげる事になるんだぞ?」
しかし轟は嘲るように笑った。
「へっ、誰がてめえの口車に乗るかっての。勝ち目の無い試合なんてするもんか。大勢の見てる前でボロゾーキンみたいにのされるのなんて俺は御免だね。」
「・・・っ!!」
瞬間、飛岩は轟の胸ぐらに掴みかかった。
「本気で言っているのか・・・。お前はどこまでっ・・・!」
「痛えな・・・離せよ。」
「・・・知っているぞ、お前翠にマネージャーになるよう勧められたんだろ。悔しくは無いのか?ここまで心配されるのは・・・」
「離せってんだよ!!」
轟は飛岩の頬を殴り付けた。強烈な一撃によろめく。
「・・・。」
「・・・う。」
彼の目の色が変わるのを感じ、轟はそっぽを向いた。
「・・・っ、けっ。わーったよ。良いぜ、出てやろうじゃねえか。公開リンチでもなんでも好きなだけやるといいぜ。八百長野郎と罵られても知らねえからな・・・。」
「・・・二言は無いな?」
飛岩が真剣に轟を見る。・・・轟も一瞬視線を合わせるとまたすぐ目を背けた。
「くどいぜ、用が済んだんならとっとと消えな!」
飛岩はそれを確認すると、ゆっくり背を向け去っていった。
その頬には・・・まだ鋭い痛みが残っている。
(今の一撃・・・確かに生きていた。奴はやはり、まだ死んではいない・・・!)
フッ・・・と、飛岩は目を瞑り微笑んだ。




