第五十話
「ナイン・・・テン!!!!」
審判の宣言と共に試合終了の鐘が鳴り響く。
見事にテンカウント。チャンピオンは起き上がらなかった。
・・・しかし彼もまた最強と言われた男。1分とかからず意識を取り戻した。
「へへ・・・まいった・・・負けたよ。まさかあそこであんな必殺技を隠し持っていたとはな。」
そう言うと彼は握手の様に翠の右手を自身の右手で握りしめた。
「・・・チャンピオン。」
「なーに言ってやがる、そいつは今日からお前の肩書きだぜ。・・・そら見なよ、チャンピオン・・・!」
すると彼は握った翠の手を高く掲げた。皆に見えるように・・・新たなチャンピオンの誕生を祝うように・・・!
瞬間、会場が拍手と歓声に包まれる。
「やったな・・・ボーイ。」
「お前ならまさかとは思ったが・・・。」
「アサギ・・・君に先を越されてしまうとはね。」
客席のダルベス、聡、レンも拍手と共に翠を讃えた。
「遂にやりやがったな・・・にーちゃん!」
リング際で拳を振る遠藤。その横で、飛岩も拍手をしていた。しかしその目に宿るのは賛辞の意だけでは無い。
(流石だな・・・翠。・・・来年は、来年こそはこの俺が・・・!)
彼の胸では決意の炎が燃え盛っていた。
「おめでとう、翠君!!それからチャンピオン、良い試合だった!!・・・本当に!!」
満田が2人の肩に手を乗せながら涙を流し始める。
「だから俺はもうチャンピオンじゃ・・・まあいいか。」
彼は困ったように顔を掻きながら笑った。
そんな中、翠はきょろきょろと辺りを見回した。しかし、目的の人物は見付からない。
(轟・・・行ったのか。・・・親父。これは親父に捧げるベルトだぜ・・・。)
会場の熱は、まだ暫くは冷めそうに無かった。
病院、手術室の前。
大急ぎで戻ってきた轟は、手術中のランプが消えるのを今か今かと待ち望んでいた。
チクタクと、静かな廊下に時計の音だけが響く。
(オッサン・・・翠は勝ったぜ。次はあんたの番だろ・・・なあ・・・。)
ぶつん。手術中のランプが消える。
「・・・!!」
慌てて立ち上がった轟の前に医者が現れた。
緊張した表情で医者を凝視する。
・・・しかし彼は・・・無念そうに首を横に振った。
「手を尽くしましたが・・・残念ながら・・・。」
「・・・っ!!」
轟はへなへなと、再びゆっくり座り込んだ。
そして俯き、何も答えなかった。




