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明日なんて来ない  作者: クロット
4章 遥かなる頂点
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第四十七話

『ああっと!?これはチャンピオン凄まじい・・・カウンターなのでしょうか?ともかく、翠選手ダウンです!!6ラウンドにして遂に・・・この試合初のダウンが出ました!!』


「にーちゃん!!」

「翠!!」

叫ぶ遠藤と飛岩。


「ツー!スリー!!」

刻刻と審判のカウントは進んでいくが翠に起き上がる気配はない。



翠は夢を見ていた。

少し前の・・・


「ぐ、ぐぐぐ・・・」

轟が大きな石・・・というよりはもはや岩と言うべき物を持ち上げようと試みる。

川原は天然のトレーニング器具の宝庫。厳八はこの日ゴミから何から、とにかく重い物を持ち上げさせる事で轟達の筋力アップを図っていた。


「無理だよオッサン。流石にこりゃ上がんねえわ。」

「馬鹿もん!!簡単に諦めるんじゃないわ!!いいか、何もわしは単なる筋トレの為にこんな事をさせとる訳じゃない。・・・根性よ。相手と実力が拮抗し、ダウンの応酬へもつれ込んだら最後は根性勝負となるからな。お前らに諦めない心を養ってほしいんじゃ。」

力説する厳八だが、轟は鼻で笑った。


「ふん、へいへい根性ー根性ね。そんなもんで勝てたら苦労はねえっての。・・・ん?おい翠、何してんだ!?そりゃ無理だって・・・。」

見ると翠は、轟が先程上げられなかった岩を持ち上げようと挑戦している。


「・・・く、おおお・・・!」

気合を入れ足腰を踏ん張り腕先に力を込める。


すると岩は、ほんのわずかだが浮き上がった。


「・・・くっ!」

・・・すぐに限界を迎え翠はそれを投げ捨てる。


(くそ・・・たったあれだけしか上がらなかった。・・・オヤジ。)

無念そうな表情でちらりと厳八を見る。この程度では認めてはくれないだろう。


・・・だが、厳八は翠に飛び付き激しくその肩を揺さぶった。

「よくやった!!たいした根性じゃ。流石はわしの・・・ごほんごほん!いや、ともかくよくやったわい!!・・・なあ、翠・・・!」




「セブン!!エイト!!」

翠は審判の激しいカウントの声で目を覚ました。


「立つんじゃ、翠君!!」

満田会長の叫びに急いで身を起こす。


(そうだ、俺は今・・・。)

ぼんやりしていた意識ははっきりしていった。


ここで、ラウンド終了の鐘が鳴る。


ふらつく翠を遠藤達が支え何とかコーナーへ戻る。


「何なんだありゃあ・・・まさかあのチャンピオンもレンの様に奥の手を持っていたってのか・・・?」

「奥の手・・・違うな。・・・あれこそが彼の真の姿なんじゃ。」

遠藤の疑問には満田が答えた。


そう、彼は知っていたのだ。

それこそ正しく、彼が求めていたものなのだったから・・・。




今から20年程前。

当時40台だった満田は既に自身の会社の全権を息子に任せ、暇を持て余していた。

そんな時、同じような富豪仲間の一人が満田をワールドチャンピオンズファイトの世界へと誘ったのだった。


くだらない喧嘩の延長線上の殴り合いなど・・・

満田のそんな考えは一瞬で消え去る事となる。

そう、当時まだランク30程だったチャンピオンの試合を見た瞬間に・・・。

殴られたらその倍殴り返して勝つ。

当時の彼のファイトスタイルはそんな泥臭く野蛮なものであった。当然勝っても負けても傷だらけ。


だが、満田はそんな姿に一種の美しさすら感じた。

・・・そして瞬く間にのめり込んでいった。

彼の荒々しいファイトと、ワールドチャンピオンズファイトの世界にだ。


一人の男であり、好奇心に溢れた満田の心には『ファイトに出て、彼と試合をしたい』という思いが当然湧いた。しかしもう自身は年老いてそれはままならない。となれば誰かにそれを代行してもらうしかない。

満田はその財のほとんどを費やし、ジムを建て選手を育成し始めた。


・・・そんな頃だ。それほどまでに満田を湧かせた彼が、チャンピオンになると同時に変わってしまったのは。

何でも、そのタイトルをかけた試合で対戦相手を殺してしまったという。彼のライバルであり当時のチャンピオンだった男を・・・。


それ以来、彼のファイトスタイルは激変した。

荒々しく相手の戦術を強引にねじ伏せる獣のような攻撃的なファイトから、防御に身を置いた相手の戦術を合理的に攻略する機械のような計算的なファイトへと。間違っても相手を殺す事の無いように・・・。


有識者達は攻防揃ったその巧みな戦術こそチャンピオンのあるべき姿であるとそれを賞賛したが、満田はがっかりした。

満田が熱狂した彼は・・・チャンピオンとなると同時に消えてしまったのだ。


しかし満田は諦めなかった。選手の育成を辞めなかった。チャンピオンの中に、まだ昔の彼が残っていると信じていたからだ。


満田の目的は・・・チャンピオンを脅かし得る選手と戦わせる事で、もう一度当時の彼を呼び起こす事へと変わった。


・・・そして20年の時を経て今、翠がその目的を成し遂げたのだ。




「・・・そ、それじゃあ会長は端からワールドチャンピオンズファイトを制覇させる為じゃなく、チャンピオンの当て馬にする為に俺達をスカウトしたってんですか・・・?」

話を聞いた遠藤が恐る恐る尋ねると、満田は静かに頷いた。


「その通りじゃ・・・済まない。それについては一切弁明の余地はない。・・・そもそもチャンピオンが昔の荒々しさを取り戻したら誰も勝てはしない、そう思っていた・・・。だが、儂は・・・今の翠君を見てどうしたらいいか分からなくなっておる。」

そう言うと彼は深く項垂れた。


「現に儂は・・・あれほど熱望した全力のチャンピオンより、翠君の方を応援してしまっておる・・・。」

「会長・・・。」

すると飛岩は遠藤の肩をポンと叩いた。


「やめましょう遠藤さん。今の言葉だけで十分にわかる・・・この人は紛れも無く俺達のジムの会長ですよ。」

「ああ、そうだな・・・。」

遠藤も同意した。

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