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明日なんて来ない  作者: クロット
3章 挑戦者たち
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第三十五話

『さあ始まりました・・・いよいよチャンピオンチャレンジャートーナメントも決勝戦、レン・ウェンシア選手VS御影翠選手の一戦。解説の今井さん、今日の試合・・・どちらが有利と見ますか?』

『難しい質問ですね・・・。御影の力を10とするならレンの力は6・・・が、それはあくまでも一つの戦法あたりの数字だ。つまり実際は6×4の力があると見て間違いないでしょう。』

『つまりレン選手圧倒的有利と・・・?』

『ええ。・・・だが御影の数値はあくまで前の試合を見ての判断です。あの進化する怪物がそこからどれほどパワーアップしたか・・・試合の行方はそこにかかっているでしょうな。』

ごくりと、実況解説共に息を飲んだ。



開幕、レンは右腕で攻撃を仕掛けた。

右腕に宿すは神速の飛龍・・・超高速の連撃が翠に襲いかかる。


ばばばばばばっ!!

一瞬で、数十発の打撃が叩き込まれた。ぐらりと翠の体がよろける。


「おおっ!翠君!!」

セコンドから叫ぶ満田だが、遠藤と飛岩は表情を変えなかった。


「大丈夫、にーちゃんはほとんどダメージを受けちゃいませんよ。」

「しかしわかってはいたが、恐るべくはあのレンのスピードだ・・・並のファイターが両手で出す量を、片手で優に超えてやがる。」



倒れなかった翠に、再び超高速連撃が襲いかかる。


・・・が、今度は翠はそれを完全に見きった。全てを躱しきり余裕の表情を見せる。


「・・・!」

これにはさしものレンも舌を巻いた。どうやら彼は、これまでの相手とは違うようだ。


「良かろう・・・ならば次は左足を受けてみるといい。」

左足に宿すは予測不能の多頭竜の力。その足には至る所に暗器が仕込まれているのだ。

まず現れたのは数本の鞭。レンが左足を振るうと、連動してそれらが一斉に襲いかかる。


「ううっ・・・!さっきの右腕程のスピードは無いが、動きの読みやすいパンチと違って今度は何処から来るか予測不能だぞ・・・!」

遠藤の頬を汗が伝う。


しかし翠は今度は一発でそれを見切った。上から横から・・・迫る鞭を華麗に避ける。


「良いぞ翠!!練習の成果が出ている・・・!あれほどの戦法の変化に一発で対応するとは・・・。」

飛岩がグッと拳を握る。


「・・・む、ならば・・・!」

鞭が通じぬのに気づくと、レンは自ら飛びかかり踵落としを仕掛けた。するとその踵から、鋭い刃物が姿を現す!!


べきぃ!!


瞬間翠は、刃物の側面にパンチを放ちそれを叩き折った。体勢を崩し掛けたレンは後転して着地する。・・・ほぼ同時にラウンド終了の鐘が鳴った。



「良いぞ翠君!その調子だ!!」

満田会長は褒め称えたが、彼は何も知らなかった。


「にーちゃん・・・なぜ反撃しねえんだ。」

「えっ?」

顔を曇らせる遠藤に、満田はキョトンとした。


「さっきの踵落とし・・・にーちゃんならそのまま左足そのものを殴り付ける事も出来たはずだ。・・・わかってんだろ?追い詰められたレンが出すであろう『その先』を・・・!!」

「ああ、わかってるさ。」

「だったらどうして・・・!確かに練習は積んだが、いざ実戦になればどうなるか分からねえ。何せ奴は4つもの戦法を操るんだ。・・・奴が本気を出す前に倒しちまう作戦だったはずだぜ!?」

「勿論分かってる。・・・だが実際こうして奴と向き合って見ると、奴には4つの戦法を越えた『その先』よりも更にもっと底しれない何かがあるような気がしたんだ・・・。だからせめて、今の内にその4つだけはよく見ておこうと思ったんだ。」

「なんだと・・・?」

ラウンド開始の鐘と共に、翠はリングへ向かっていった。



「遠藤さん・・・俺はあんな翠初めて見ますよ。」

口を開く飛岩に、遠藤は振り向いた。


「いつだって自信過剰、野心丸出しの奴が・・・見ましたか?あの汗の量。沢山動いたからだけじゃない・・・奴もまた超一流だからこそ、超一流のレンから何かを感じ取ったんだ・・・。」

「に、にーちゃん・・・。」



続く第二ラウンド、翠はやはりレンの出方を見た。


「・・・ふむ。」

レンもまた、翠から並々ならぬ気配を感じ取っていた。


(こうなればもう、相手の力をいなして戦う左手の甲龍の力は彼には通じぬだろう。・・・ならばやはり、最強の右足の力を出すしかあるまい。)


右足に宿すは天をも操る神龍の力。

レンの右足は小刻みに震え出した。そしてそのまま、リングを思い切り踏みつける。


ズシン!!


・・・するとその凄まじい振動は地面を伝い、そのまま翠の足へと伝わった。

グラウンド・ショック・・・そう呼ばれる彼の必殺技だ。強烈な振動を受けると人は、足を固定されその場から動く事が出来なくなる。

翠は全身を襲う振動に・・・縛り付けられたように身動きが取れなくなった。


「・・・貰った!」

レンはそのまま動けぬ翠を振動する右足で蹴り付けた。硬直していた体が吹き飛ぶ。


『決まったー!!ダウンだー!!この試合先にダウンを奪ったのはやはりレン選手だー!!』

実況の声と呼応するように審判がカウントをとる。


「ワン!ツー!!」


レンは勝ちを確信していた。

地面越しでは無い、超振動の蹴りを直接打ち込んだのだ・・・頑強な野生動物ですら一時間は目を覚まさないだろう。


だが、翠は気を失ってはいなかった。

頭を振って、何度もロープによたれながら・・・かろうじてカウントナインで立ち上がる。


「危ない・・・あやうく様子見でやられちまう所だった。」

ニヤリ、翠は不敵に笑った。この姿にはレンも多少の動揺を見せた。


「・・・ならばもう一度受けてみろ・・・!!」

再び振動させた足で思い切り踏み込む・・・が、今度は翠はタイミング良くジャンプし振動を回避した。


そしてこれ程の大技だ。食らうと相手が数秒動けなくなる事から気付かれにくいが、外せばレンにも隙が多い。


「うおおおっ!!」

ジャンプから放つ翠の力強いパンチがレンに決まった。


「む・・・くっ。」

レンが顔を顰めながら何とか膝立ちになる。


「立つな!!もう立たないでくれ!!」

叫ぶ満田の思い虚しく、レンは数秒で立ち上がった。


(なんという事だ・・・この私が圧されてしまった。彼の放つ気圧に・・・。冷静になれば分かるはずだ、彼程の男なら同じ手は二度通じぬ事位・・・。これ以上彼に手の内を見せるのは危険だな。チャンピオンとの試合以外で使う気も必要も無かったが・・・本気で行かせてもらおう!)


レンは構えを取った。これまでの繰り出す手足の一本だけを前に出したわかりやすい構えとは違う・・・レンの本気の構えだ。


「・・・ふっ、いよいよ本番という訳だな。」

翠もまた、今度は自分からも仕掛けるべく拳を構えた。

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