第三十三話
桐生聡に勝利し、チャンピオンチャレンジャートーナメント決勝へと駒を進めた翠に、満田ジム会長満田源三郎は祝の宴を開いていた。
「おめでとう!おめでとう翠君!!はっはっは!!」
ばしばしと上機嫌で自分の肩を叩いてくる満田に、翠は不機嫌そうだ。
「いよいよ次の試合に勝てばチャンピオンへの挑戦権が得られる。いやーめでたい限りじゃ!!全く!!」
しかしここで、低い声が入る。
「問題は次の試合の相手・・・レン・ウェンシアじゃないんですかね。」
「うっ!それは・・・」
途端満田の顔が青ざめる。ピシャリと言ったのは元ランク12位、遠藤隆騎だ。彼は薄ら笑いを浮かべながら翠の肩を組んだ。
「ようようにーちゃん、こんな席窮屈で仕方ないって顔してんぜ。・・・どうだい、出ないか?」
「ああ・・・。」
「そう来なくちゃな。なあに、祝の席なんて優勝したら・・・いや、チャンピオンになったらいくらでも開いてもらえばいいのさ。」
そう言うと遠藤はそのまま翠を連れエレベーターに乗り込んだ。
「お、おい翠君・・・!」
満田の何か言いたげな顔がドアで途切れる。
・・・ちーん!エレベーターが止まったのは練習場の階だ。
「ここは・・・?」
翠がきょろきょろとする。
「なんだい、本当に外に出るとでも思ってたのか?・・・知りたいだろ、会長を一発で青ざめさせたレンの正体を・・・。」
翠が頷くのも待たず、遠藤は練習中の選手を何人か呼び集めた。
「レン・ウェンシア・・・多数の異名を持つ男だが・・・まあ今一番はあれだろう、『4つの龍を宿す男』」
「4つ・・・だと?」
眉を顰める翠に遠藤はニヤリとすると、リングの一つを指差した。
「上がんなにーちゃん。口で説明するよりこっちのがわかりやすいや。・・・よし、さっき言ったとおりお前らも上がんな。」
遠藤の指示に従い翠はリングへ上がった。するとどうだ、先程呼び集められた選手達がぞろぞろとリングへ上がってくる。
たちまち・・・翠を中心に置き、それを囲むように4人の選手がリングの角に立った。
「よし、じゃあにーちゃん。そうだな・・・手始めに正面の奴と戦いな。ランク60位くらいの実力者だが・・・まあ、にーちゃんとまともにやり合えば三分持たねえだろうな。失神させない程度に打ち合ってくれ。」
遠藤の声に従い、金髪の男が前に出る。翠が小さく頭を下げた。
「・・・宜しく頼む。」
「ああ、こちらこそ・・・な!」
瞬間金髪の男は襲い掛かった。練習とは思えぬ、まるで本当の試合かのような勢いだ。それもそのはず・・・何年もこのジムで頑張って来たのに、突然ジムに現れた坊やがとんでもないスピードで自分を追い抜いていったのだ、妬まないはずはない。
しかし翠も流石はトップランカーを相手取る手練。難無く初撃を躱すと華麗な足さばきで相手を翻弄した。
(・・・む、チャラ付いた奴かと思えば流石は60位という所か。光る物はある。)
冷静に様子を見ながら翠が反撃に出ようとした瞬間、遠藤が叫んだ。
「よし、次!」
すると今相手をしていた金髪は下がり、今度は右にいた色黒の男が前に出た。
間髪入れずに翠に襲い掛かる。フェイントを多用しながら拳で迫る。
「・・・く、うおっ・・・」
どうした事か、今度の色黒も先程の金髪と動きのキレは大差無いのに、翠は見るからに苦戦しているようだった。パンチを避ける動きがやけに苦しそうだ。
「よし、次だ!」
遠藤が叫ぶと、今度は左にいた細身の男が出てきた。彼もまた、すぐに攻撃を仕掛ける。蹴り技主体のファイターだ。
「・・・う、くそっ!」
ごっ!!ついにその攻撃は翠の頬を捉えた。ぐらりと数歩よろける。
「へへへ、どうだいにーちゃん。」
笑いながら遠藤はリングに飛び込んだ。
「やりづらかったろう?取るに足らない相手なのに、まるで違うタイプを順番に相手取るとな。・・・これがレン・ウェンシアだ。奴は両手両足一つ一つで全く違う戦い方を操る。つまり、一人で四人分の戦い方ができるって訳だな。」
「なんだと・・・?」
翠が頬をさすりながら問う。腫れてはいないようだ。
「それも一つずつが今みたいな半端な強さじゃない。現に、奴は過去3回のトーナメントを右手一本で勝ち抜いてきている。・・・どうだい、少しはビビってきたかな?」
遠藤はニヤニヤと翠の反応を見る。しかし、彼は少しも動じなかった。
「それだけ勝ち進んでもチャンピオンにはなれなかったんだろう?だったら所詮その程度の相手だ。チャンピオンになる為には負ける訳にはいかねえな・・・。」
「へっ、全くこいつ・・・ナマ言いやがって・・・!」
ぽかりと、遠藤は翠の頭をこずいた。




