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明日なんて来ない  作者: クロット
3章 挑戦者たち
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第三十二話

風麗浮葉流。

全国に数十の道場を構える国内でも有数の武道流派だ。


その中の一つ、都内のとある道場の庭園。

そこでは数十名の門弟がずらりと並んでいた。

その視線の先に、海外から招いた一人の男を捉えながら・・・。



「・・・ふううう・・・」

髪を後ろで束ねた道着姿の男が精神を集中させる。

彼の前方20メートルほど先には人の頭程の大きさの石が机の上に置かれていた。


「はあっ!」

男は気合いと共に拳を勢い良く突き出した。するとほぼ同時に、石は粉々に砕け散った。


パチパチパチパチ!!

少しの沈黙の後、大きな拍手が辺りから響く。


「やや、流石はレン先生だ・・・。して今のは何という技なんです?」

門弟の真ん中に居た黒帯を締めた男が前に出る。


「・・・空砲拳。原理は見た目程難しくはない。拳を握り締める時にここに少し穴を開けるのだ。・・・すると拳を放つ瞬間、ここから押し出された空気が砲弾の様に発射される。」


髪を結んだ男は人差し指と中指の間に空間を作り、そこを指さした。黒帯の男は説明の通りに握りを真似、近くの植物へ試しに撃ち放ってみた。


ひゅっ・・・!

風を切る鋭利な音はしたが、植物は揺れるだけで何も起こらなかった。男は照れるように頭を掻いた。


「いやはや・・・なんとも情けない。」

「いや、筋は良い。鍛錬を積めば数年程で身につけられるだろう・・・。」



暫くして、レン先生・・・そう呼ばれた男は道場から去っていった。門弟達の気持ち良く揃った感謝の声が響く。


「師範代、凄かったですね!!流石は世界2位、レン・ウェンシアって所ですか!」

頭を丸めた若い門弟が先程の黒帯の男に駆け寄る。男は小さくうなづいた。


「ああ・・・。」

「それにしても師範代も流石だ!何てったってあれほどの奥義をあのレンに数年でマスターできるってお墨付きを貰うんですから!」

興奮する門弟だが、黒帯は寂しげにその坊主頭をポンと叩いた。


「何が流石なもんか・・・レンの数ある異名の一つ、『100の奥義を持つ男』って知ってんだろ?」

「ええ、そりゃあまあ・・・」

「ふん、じゃあこれも知ってるか?・・・ああ見えて奴はまだ24歳なんだぜ・・・。」

「え・・・?あっ・・・!」

門弟はハッとなり顔を上げた。


「つまり奴は・・・単純計算でも年に4つはあのレベルの奥義を会得してるんだぜ。・・・たまんねえよな、ああやって悪意無くナチュラルに才能の差を知らされると・・・。」

男は自分の黒帯を、愛おしそうに握りしめた。



一方そのレン・ウェンシア。どれほど沢山の者に認められ讃えられようとも、彼もまた満足してはいなかった。

そう、どれほど力を得ようとも・・・所詮は2位なのだ。・・・頂点では無い。




・・・5年ほど前。

中国某所、人里離れた山奥にその道場はあった。


「いよいよじゃな・・・レンよ。よくぞ厳しい鍛錬を乗り越えここまで辿り着いた。後は最後の試練、この儂を打ち破ってみい。さすれば正式にお主をこの龍天星拳法の継承者と認めよう。」

もうもうと髭を蓄えた老人が静かに立ち上がった。しかし、その前に座すレンは正座のままだ。


「お言葉ですが師よ・・・その権利、辞退させていただきます。」

「ほう?」

老人のもしゃもしゃの眉がピクリと動く。


「貴方の事だ・・・話さずとも全て見抜いているでしょう。だが敢えて言わせてもらいます。・・・私はこの龍天星拳法を誰も知りえぬ田舎の秘拳で終わらせたくはない・・・。」

ぎろりと、レンは座ったまま強烈な眼差しを向けた。


「・・・ワールドチャンピオンズファイト。知らぬ者はいない世界最強の男を決める場だ。・・・その舞台で私は龍天の最強たるやを示したい。」

ついにレンは立ち上がった。


「勿論、龍天星拳法の『戦うは安し、戦わぬは強し』という心得は十分に存じております。しかしそれでも私は許せない・・・真の最強を知らぬ男が我が物顔で頂点の座に君臨していることを・・・。たとえ破門され正統流派から外されることになろうとも・・・私は龍天の名を世界に轟かせたい。」

そう言うとレンは老人にくるりと背を向けた。


「お別れです師よ・・・いや、もはやそう呼ぶ権利すらないか・・・ともかく、大変にお世話になりました。」

ぺこりと小さく一礼するとレンは歩き出そうとした。


「待てい。」

鋭い一言にレンの足が止まる。


「知っての通り龍天星拳法は門外不出の拳法・・・あくまでも持ち出すと言うのならこの場で始末してくれよう。」

老人は凄まじい殺気を放つと、その姿からは想像できないスピードでレンに襲い掛かった。



どれほどの時が経ったろうか。

気付けばレンは血にまみれ倒れていた。一方的に師の攻撃を受け続けたのだ。・・・ただの一撃もやり返さず。


「どういうつもりだレンよ・・・例え全てを敵に回そうとも己の道を行く、その覚悟があったのではないのか!?」

老人は問いかけた。レンは這いずりながら何とか老人の方を向き叫ぶ。

「言ったはずです、龍天は最強の拳であると・・・ならばそれを破門され、今や一介の我流拳士と成り下がった私に龍天を汚す権利は無い!」

「・・・!!」

老人は彼の意志に竦んだ。


(なんと・・・今やお主はとうにこの儂を超える力を持つ。所詮どれほど綺麗事を並べようとも拳法などは力と力のやり取り・・・とあれば、より強い者がその意を通すのが道理。儂を倒させる事で、もはやこの龍天の行く末をお主の好きにさせる気でいた。・・・だが、だがこの今のお主の力を示すために力を振るわぬその矛盾を孕んだ姿は・・・正しく『戦うは安し、戦わぬは強し』の心得そのもの!間違いなく龍天の拳士の姿だわい。)


老人は感服し、大きく息を吸うとゆっくり言った。

「良かろう、これでお主は破門じゃ。その邪拳、好きに振るうが良い。」

「・・・!ありがとうございます・・・!」

レンはその身に受けた龍天星拳法を噛み締めた。



・・・そこからはあっという間だった。

単身ワールドチャンピオンズファイトに乗り込んだレンは全戦全勝・・・勝ちに勝ちを重ね、ものの一年足らずでチャンピオンチャレンジャートーナメントに優勝。チャンピオンへの挑戦権を得た。

相手が弱いわけじゃ無い。ただ龍天星拳法を使う以上負けるはずは無いのだ。だからレンは特に喜ぶ事もしなかった。


だが迎えたチャンピオン戦、彼の自信は砕け散った。



『試合終了ー!!1ラウンド18秒・・・勝ちました、チャンピオンやはり強し!!レン選手の快進撃もここで止まったー!!』


気が付くとレンは地に寝そべっていた。何が起こったのかわからなかった。

たった一撃・・・龍天星拳法を出すまでも無く、レンは敗れたのだ。



それからレンはどうしたらいいのか分からなくなった。


なんて事はない、また次の年に龍天星拳法で挑めば良いだけだ。何も龍天星拳法を使って敗れた訳では無い。龍天の拳は最強の拳、例え相手があのチャンピオンだろうと放つ事ができれば通じぬはずは無い・・・それはわかっていた。

しかしあの圧倒的な力を前にして、もしかすると龍天星拳法すら彼には勝てないのではないか・・・その恐怖にレンは苛まれたのだ。

己が最強と信じる龍天に敗北は許されない。だから彼は、自ら龍天星拳法を封印した。その力はチャンピオンになってからいくらでも世に示せば良い。まずはどんな手を使ってでもあのチャンピオンを倒すのだ。


龍天星拳法の代わりに、レンは古今東西あらゆる武術をマスターした。

しかし・・・どんな技術や奥義を身につけ、何度挑もうとも・・・チャンピオンに勝つ事はできなかった。


強くなればなるほどに・・・その差は広まっていくような気がした。


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