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明日なんて来ない  作者: クロット
3章 挑戦者たち
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第二十九話

国内でも有数の大病院。事故にあった聡はそこへと運び込まれた。全身のあらゆる感覚が無く、目しか動かす事ができないのに、何故か意識だけははっきりしていて周りの声が良く聞こえた。

飛び交う罵声や何かから纏めると、もうどう足掻いても助からない。むしろ今生きているのが不思議なくらいだ・・・との事らしい。


聡はとにかく死にたくなかった。これほど意識がはっきりしているのに、明確に死が迫ってくる・・・それは地獄だった。


そんな時、医者のいなくなった間を縫ってその男は現れた。

見慣れぬスーツ姿・・・まだ若いようなのに何人も殺してきたかのような底の見えない沈んだ目。

その男はじっと動けぬ聡を見ながらおもむろに語り出した。


「失礼しますよ・・・っと。俺は蛭川と言いましてね、まあ・・・お天道様には顔向け出来ないような事をやってます。・・・時間が無い、単刀直入に聞きましょう。あんた、まだ生きていたくないかい?どんな手を使っても、どんな未来が待っていようとも・・・!」

「・・・!・・・!!」


当然だ。答えるまでもなかった。何でもいいから生きていたい。

しかしその言葉は音にならない。だが、蛭川は何かを理解したように笑った。


「・・・決まりだな。あんた今『何がなんでも助けてくれ』・・・そんな目をしていますよ。」

そう言うと彼は部下を呼び・・・実に手際よく聡を病院から連れ去った。


真っ暗な箱の中に押し込まれ、聡は意識を失った。




目を覚ますと、聡は薄暗い部屋にいた。

手術室・・・だろうか?辺りにはおよそ何に使うか想像もつかない機械が置かれている。


(う、動ける・・・!そうだ・・・帰らなきゃ・・・!!)


右も左もわからぬ建物だが、意外と簡単に聡は外に出る事ができた。激しい太陽の光だが不思議と眩しさは感じない。

外に出て視覚に色を得た聡は初めて気付いた。己の体の変化に・・・。


「えっ!?」

その手は銀に染まっていた。まるで理解が追いつかない。ともかく、聡は自身の姿を確認出来るものを探した。

そして・・・ガラスに反射した自身の姿を見て聡は絶叫した。


「う、うわああああああっ!?」


そこには全身金属に覆われた・・・言うなれば銀色の人体模型が居た。


(な、何だこいつは・・・!?俺はどうなってしまったんだ?)


何度も確かめ、とうとう聡はそれが自身の姿だと認識した。

彼はしばらく混乱していたが、やがて我に返った。


「そうだ・・・家に帰らなきゃ。」

家に帰って眠りに付けば全て元通り。悪い夢に終わるだろう。聡は半ば自己暗示のようにそう考えた。

幸いなんとなく覚えのある場所だったので、彼は家へと戻る事ができた。途中行き交う人が困惑の目でこちらを見てきたが、気にとめなかった。

古くも新しくもないアパート。その203号室が彼の部屋だった。


ガチャガチャ、バキッ!

鍵が掛かっていたが、彼は容易くそれを開けた。


「・・・!!」

そこに広がっていたのはなんて事の無い空き部屋だった。だが、塗装の禿げも壁の凹みもある、ここは間違いなく自分の部屋だ。


「おばさん!ここの部屋って・・・!」

通りかかった掃除の女性に問う。彼女はその姿にびくっとなりながらも恐る恐る答えた。


「あ・・・そこの部屋のお兄さんは一年前に事故で・・・」

「・・・!!」

他人に言われ、ついに聡は認識した・・・これが間違いの無い現実であると。


それから聡は一つ一つ確かめた。

そこそこの会社にはもう籍は無かった。

人並みに素敵な彼女は既に他の男を作っていた。

居場所を失った彼はさまようしか出来なかった。最も、そんな所が残っていたとしてこんな姿では戻る事などできないのだが。


そして聡は次第に自分の肉体の変化を認識していった。

チンピラを殴れば一撃で失神させ、不審者の刃物も警官の銃弾も、ただただ弾くだけだった。

機械の体は腹も減らなければ痛みも感じない。

皆がそんな自分を奇異の目で見てくる。

聡は自分が化物になった事を理解した。実際、そう詰ってくる者もいた。

体を失い、居場所を失い、爪弾きにされ、化け物と呼ばれ・・・。


そして再び・・・あの男は彼の前に現れた。

「やれやれ、まさか本当にこうして動いているとは・・・1ヶ月経っても反応が無いからもう動く事は無いと思って施設ごと放棄したんだが・・・いや、こちらの話です。」

ブツブツ呟く蛭川を聡は睨み付けた。


(この男が・・・この男のせいで自分は・・・。)


すると蛭川はニヤリと笑った。

「ふふっ、無機質な機械の体になってもそのギラギラした目だけは変わりませんね。アンタ今いかにも『殺してやる』って目で見てますよ。・・・まあ、だからこそアンタを生かしたんだが・・・。」


いつの間に呼んだのか、二人の前に黒塗りの高級車が停車する。

「乗ってください。その体じゃ不便でしょう。・・・それから変な気は起こさない事だ。俺はいつでもアンタを終わらせる事ができる。無論・・・その逆もね。」



またも怪しげな施設にたどり着くと、蛭川は医者に命じ聡の体に人工の皮膚を付けさせた。いちおうこれで人並みに人間に見えるらしい。


そして蛭川は一つだけ条件を付けると聡を解放した。

それは「ワールドチャンピオンズファイトの選手となり、頂点を取る事」だった。


「こんな作り物の皮を纏った所で内に潜む化物を隠す事はできない。・・・桐生さん、アンタは恐らくそう思っているんじゃないですか。だったらなおさらワールドチャンピオンズファイトに出るべきだ。フフフ、いますよ・・・あそこにはとんでもない化物がうじゃうじゃとね。」

「化物が暮らすには化物の中・・・という訳か。」

そう言いながら無表情にこちらを見る聡に蛭川は小さく笑った。


「桐生さん・・・あそこに行きゃあ、アンタの望みもきっと叶いますよ。」

「・・・。」


(望みだと・・・この男に俺の望みが分かるはずなどない。俺の望みは・・・)


聡はじっと蛭川を見つめ続けた。




「思い出すのう、お前がいきなりワシのジムに来て「選手にしてくれ」なんて言い出したことを。ありゃあたまげたわい・・・まあ、その後腕を取って自分の体は機械でできているなんて言い出した時はもっとたまげたが・・・」

・・・佐々木は1人で楽しそうに語った。


「会長・・・。」

打って変わって神妙なトーンで、聡が小さく呟く。


「うん?」

「何で俺を選手にしてくれたんです?」

「何でってそりゃあ・・・」

「・・・いや、何でもない。」


聞くまでもなく聡には結論が出ていた。自分の強さを見たからだ。ボロジムのいい稼ぎ頭になると・・・たったそれだけの事だ。それ以上の理由は無い。

聡は静かに立ち上がると控え室を後にした。一人残った佐々木は不機嫌そうに眉を顰めた。


「何でえあいつは訳が分からんのう・・・あ、しまった奴に次の対戦相手の情報を伝えなきゃならんかった。何つったか・・・そう、御影!御影翠とか言ったか!まあ奴に限って負ける事は無いと思うが・・・。」

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