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明日なんて来ない  作者: クロット
3章 挑戦者たち
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第二十八話

桐生聡は誇りを持っていた。

親から授かった大きく、頑丈な肉体に。


彼の両親は幼くして亡くなったが、彼はまるで寂しくなかった。その肉体から両親が常に共にあると感じられたからだ。


やがて彼は成長した。そこそこの知能を持ち、そこそこの大学を出て、そこそこの会社に入り、病に伏す事もなく、人並みに素敵な彼女も得た。

そんなそれなりの生活に彼は満足していた。幸せだった。全ては親から授かったこの体のおかげと感謝していた。


だが、そんな幸せは砕け散る事となる。

24歳の夏、彼の乗るバイクは信号無視のトラックに跳ねられた。

その立派な肉体は、ぐちゃぐちゃになった。

誰もがもう助からないと、そう思っていた。


だが彼は死ななかった。

そして桐生聡は・・・化物になった。




「聡、おい聡!!」

自身を呼ぶ声に、桐生聡は我に返った。周囲には割れんばかりの大歓声。ここはワールドチャンピオンズファイトの会場だった。見ると正面には対戦相手がいる。


「もう始まるぞ・・・大丈夫か?」

彼のセコンド、佐々木晴夫が聡の肩を揺らす。


「ええ・・・少し夢を見ていました。昔の・・・」

そうとだけ呟くと聡は前に出た。残った佐々木はキョトンとする。


「夢・・・夢だと?あいつは多くを語らんから良く分からん・・・」

彼は不思議そうに首を傾げた。


カァァン!試合開始の鐘が鳴った。



こうしてリングに立つと、二人の選手の間には親子程の身長差がある。

決して対戦相手の柴田安彦が小さいのではない。聡があまりに大きすぎるのだ。


『さあ始まりました今宵の一戦、まずは体格差だけ見れば桐生選手有利といった所か・・・おや、今井さん・・・どうしました?』

実況のテンションと対照的に、解説のビスマルク今井は退屈げにため息をついた。


『どうもこうもありませんよ・・・結果の分かりきってる試合ほど論ずるにつまらぬ物はありません。』

『えっ、それはどういう・・・おおっと!?』


瞬間、柴田が間合いを詰め、聡の腹に猛烈に何度も拳を打ち放った。


だが、聡は微動だにしない。真顔で抵抗もせずその攻撃を受け続ける。



・・・そして10数発打ち込んだところで柴田が悲鳴を上げた。

「ぎゃあああっ!」

彼は拳を押さえながら顔を歪ませた。聡は特に何かした訳では無い。


「・・・所詮お前も人間だったか・・・。」

呟くと聡は片手で軽々と柴田の顔面を掴み持ち上げた。柴田は苦しそうに手足をばたつかせる。


そしてそのまま聡は勢い良く柴田を地面に叩きつける。巨漢の聡の最大高度から一気に打ち付けられるのだ、その高さ実に3メートル。脳に致命的なダメージが入るだろう。

一撃で、柴田は失神した。


『あーっと、審判止めに入りました!!試合終了です!!チャンピオンチャレンジャートーナメント第二回戦・・・勝ったのは・・・ランク3位、桐生聡選手だーっ!!』

『だから言ったんです・・・。桐生聡、彼は正真正銘の化物だ・・・。』


そんな解説の言葉を背に受けながら、聡は控え室に戻っていった。


(そのとおり・・・俺は化物さ。この強者犇めくワールドチャンピオンズファイトにすら・・・俺を超える化物なんて居やしない・・・。)



・・・控え室。

置かれた椅子に聡のセコンド佐々木がどっしり腰を下ろす。


「ふうーっ、しかしヒヤヒヤしたのう。どうもお前試合開始前に身が入っとらんかったようじゃから。」


聡は何も答えない。すると彼はおもむろに自分の左手を取り外し始めた。機械仕掛けの関節が顕になる。


「何度見てもどきっとするわい。最近の科学ってもんはどーもワシにはわからん。・・・思い出すのう、お前が初めてワシのジムに来た日の事を・・・」


その言葉に、聡もまた過去を思い返していた・・・


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