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明日なんて来ない  作者: クロット
3章 挑戦者たち
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第二十五話

再開された試合、今度は一方的にダルベスが攻撃し続けていた。


翠が攻めに転じられぬのも無理はない。相手の攻撃力を鑑みれば、一撃でも直撃すればアウトなのだ。

避けて躱して・・・それでも回避しきれない時は先程のように最大まで威力を殺す。

それでも翠の体にはじわじわと痣が増えていった。



カァァン!ラウンド終了の鐘が鳴る。


これで五ラウンド。既に翠は15分もの間ダルベスの猛攻に耐え続けている。


満田は心配そうに彼の肩を掴む。

「翠君・・・もう辞めた方が・・・。」

しかし翠は無視をした。


「・・・ふむ。」

そんな様子を見ながら飛岩は思考を凝らした。


翠は何も、なんの策もなしにこの無謀な戦いを続けている訳では無いのだろう。

空振りだ。それは相当に体力を浪費する。

ましてあのダルベスの巨漢だ、一度の空振りで普通のパンチの4、5倍の体力を消耗するに違いない。

一方翠は、傷付いてはいるもののさほど疲労しているようには見えない。守りを使いこなすファイターは持久戦にも強い・・・基本中の基本だ。


つまり翠は、相手の体力切れを狙っているのだろう。確かにそれならば、勝機はあるかもしれない。飛岩は一人納得していた。


・・・しかし次の瞬間、彼は信じられないものを見た。


「ほーらほらどいたどいた!!ダルベス様のディナータイムだよ!」

屈強な男達がセコンドをかき分け、リングへと駆け上がり、ダルベスの元へ運び込んだのは・・・特大の鳥の丸焼きだった。あれは・・・ダチョウだろうか?


「ふふ、待っていた。私はもう腹ペコだ。」

がばっ!と片手でそれを掴み取ると、ダルベスは物凄い勢いでそれに食いついた。


がぶっ!バリッ!もしゃもしゃバクバク・・・

インターバルの、ほんの僅かな間。実に30秒にも満たない間にダルベスはそれを平らげた。


『なんとダルベス選手鳥の丸焼きを頬張っています!これは凄い・・・見ているこちらまでお腹が空いてきます!!』

「な、なんと・・・!」

満田を筆頭に、会場の皆が目を点にしていた。


『確かに体力が減ったなら補給すれば良い、単純な話ですが・・・これは前代未聞ですよ。』

百戦錬磨の解説の今井でさえ、それには目を見張った。



カァァン!再びラウンドの幕が開く。

呆気に取られながらリングに上がる翠の前に、骨だけになった丸焼きを携えたダルベスが立ちふさがる。



「満腹には程遠いが・・・これでまたしばらくは戦える。さて・・・」

ダルベスは骨を振り上げると、硬直する翠に勢い良く叩き付けた。

べきりっ!!辺りに骨の破片が飛び散る。

響くその音で折れたのは・・・本当に鳥の骨だけであろうか。


「がっ・・・!!」

「ジャパンにはこんな言葉があるそうだな・・・肉を切らせて骨を立つ。・・・それはこういう事かね?」

ダルベスはそう言うと、骨の残骸を投げ捨てた。


翠はがくりと膝から崩れ落ちた。



「ファイブ!!シッークス!」

審判がカウントを取る中、飛岩は客席を飛び出し、リングサイドまで来ていた。

まさかあんな方法で体力を補給するとは・・・

傍から見ていた飛岩ですら度肝を抜かれたのだ。当の翠のショックは計り知れないだろう。


「おい、翠!まだやれるだろう!?それともこのまま無謀な挑戦で終わるつもりか!?」


すると翠は、ゆっくり飛岩の方を見た。

「・・・うるせえな、言っただろう?最高の練習方を見つけたって。・・・今ので掴んださ、タイミングを完璧にな。」

そう言いながら、彼はまたもゆらりと立ち上がった。しかし当然先程のようなゆとりは無い。

目はぼんやり虚ろ、足元もおぼつかない。


(なんだと?さっかから練習練習と・・・奴の作戦はダルベスのスタミナを奪う事にあるんじゃないのか?)

半死人のような翠を見ながら、飛岩は息を飲んだ。



「・・・やはり君を倒すには、この拳で直接打ち抜くしかないようだな。」

ダルベスは容赦なく拳を振り上げた。強烈な一撃がフラフラの翠に入る。直撃だ。


決まった。誰もがそう思った。だがしかし・・・

翠は倒れなかった。


『これは・・・!いや、御影選手倒れません!少しよろけただけ・・・?』

実況のマイクも些か困惑気味になる。


「うごおおおおっ!!」

ダルベスは再び殴り付けた。ハンマーのような腕を叩き付け、振り回し、何度も翠にぶつける 。・・・が、彼は倒れない。


会場の皆が呆気に取られる中、ダルベスの顔だけは歪んでいった。・・・彼だけは何が起こっているのか理解していた。


(何だ・・・この手応えは。先程の彼を私は水と形容したが・・・これではまるでビニール袋だ。殴っても殴っても、羽のようにフワフワと・・・。)


皆と同様に困惑に苛まれながらも、飛岩は思考を必死に巡らせた。

(ラウンド開始間際・・・さっきあいつは立ち上がりながら何て言ったんだ?・・・練習法を見つけただと・・・?)


次の瞬間、飛岩は全てを理解した。

(わかった・・・何もかも・・・!奴の目的はあくまでもチャンピオン・・・それまでの相手は全て過程に過ぎない。

つまり、奴にとってダルベスは良い練習相手に過ぎないという訳だ。)

考えてみれば確かにそうかもしれない、実戦に勝る練習法などは無い。普通はそんな考えは起こさないというだけで・・・。


(そして今回奴がダルベス相手に決めたトレーニングメニュー・・・それがあの見切りか。まるでビニール袋の様にフワフワと攻撃を受け流す・・・。奴は避けきれぬ攻撃に見切りを使っていたんじゃない、見切りのタイミングを掴めぬ攻撃だけ避けていたんだ。・・・そして今、そのタイミングを完璧に掴んだ。もはや翠はダルベスの攻撃に致命傷を受けることは無い。)


こうなればもう、必死にその拳を振るうダルベスは滑稽にしか見えなかった。


「ぜぇ、ぜぇ・・・フゥー・・・」

ダルベスは膝を押さえながら、大きく肩で息をした。彼の体力はもう限界だ。翠はその姿に気付くと小さく微笑んだ。


「・・・良いだろう、受けの練習はもう十分だ。だったら今度は俺のもう一つの特訓に付き合ってもらおうか・・・。」

翠は構えながら深く息を吸った。


今回ダルベス相手に立てたもう一つの練習メニュー、それはその鋼鉄のような肉体を破る攻撃力を会得する事だ。

勿論、試合中にいきなりそんな力が宿るはずは無い。つまり翠には元々それを成せるだけの素質はあったのだ。


そして今回、ある程度打ちのめされる事によって全身から無駄な力が抜ける事で・・・その力は発揮された。


ごおおん!

稲妻の様な音と共に、その一撃はダルベスに打ち込まれた。

観客達や、満田・・・飛岩までもがその結果に漠然とする。

しばらくして、審判は翠の右手を掲げた。


「勝者・・・御影選手っ!!」

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