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明日なんて来ない  作者: クロット
3章 挑戦者たち
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第二十二話

「御影、御影翠はいるかっ!?」

数名のマネージャーの男達がジムの中を駆け巡る。


「慌てふためいてどうしたんだ。俺はここにいるぜ。」

トレーニングを妨げられ、不機嫌そうに翠が返事をした。


「決まったんだ・・・君の一回戦目の対戦相手が。・・・ランキング5位、ワルバード・ダルベスに・・・。」

「ほう、ワルバード・・・外人か。それが何か問題なのか?いきなり2位とかと当たるよりはよっぽど良いだろう。」

けろりと言う翠。しかし男達は神妙そうな顔のままだ。


「・・・。取り敢えず見てもらうのが一番だろうな。来てくれ・・・以前行われたテレビのインタビューを録画してある。」


あまり気の進まぬ翠はマネージャー達に連れられ、満田ジムの特大映写室へと辿り着いた。


「何も殺される訳じゃない、勝ち進めばいずれ2位だの3位だのとも戦う事になるんだ。いちいち敵が強いからって辛気臭い面してても仕方無いんじゃないのか?」

翠はやはり不満そうだ。


「御影君、君の言う事ももっともかもしれないが・・・殺されるんだよ、実際。ダルベスの相手は・・・。」

意味深気なマネージャーの言葉を残して、ビデオはゆっくりとシアターに映し出された。


カチャカチャ、カチャカチャ。

妙な金属音がいきなり響く・・・ほんの少しして、スーツに身を包んだインタビュアーが現れた。


「あー、おほん。本日は試合の為はるばる日本にお越しいただいたワルバード・ダルベス選手にインタビュー、ひいてはその練習風景を見学させていただくこととなりました。」


カチャカチャ、カチャカチャ・・・。

その金属音はインタビュアーの言葉の間にも、一定のリズムで、小気味よく響いていた。


「ええ、それでは始めさせて頂きましょう。ダルベス選手、本日はよろしくお願いします。」

カメラがインタビュアーから視点を変える。

するとそこには、とてつもない大皿に盛られた山のような料理・・・フルコース、満漢全席・・・そんな言葉でも表しきれないようなとにかくとてつもない量の料理と、そしてそれに引けを取らない巨漢を誇る金髪の男が映し出された。


「・・・やあ、今日はよろしく頼む。ところで食事は続けていて構わないのだな?マネージャーにそのように伝えておいたのだが・・・。」

「ええ、ええ。勿論ですとも。・・・それにしても噂には聞いていましたが凄い量ですね・・・!」


カチャカチャ、金属音の正体はダルベスの駆るナイフの音だった。子供の頭程もある肉を豪快にぶった斬っては口に運ぶ。


「当然だ。食事・・・これほどわかり易く、シンプルで、太古から行われてきた最高のパワーアップ方法は無いからね。私は睡眠とトレーニングを除いて毎日十六時間、かかさず食事をし続けている。・・・逆に言えば、他の選手達は何故行わないか不思議だよ。」


ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ!

バケツのように注がれた牛乳を、一気に流し込む。


「聞けば肉体の為に食べ物を制限したり、栄養分を考えてメニューを選んだりする者も多いそうじゃないか。私に言わせればそんなのは勿体無いとしか言えないね。」


ばりばりばりっ!!

特大の蟹を、その強靭な歯で殻ごと噛み砕く。


「栄養のある物は、筋肉の源となり内側から私を強くする。栄養のない物は、脂肪となりそのまま外側から私を大きくする。・・・この世に無駄な食物など無いのだ。」


ずずずっ!!

塔のようなホールケーキが、吸い込まれる様に一口で飲み込まれた。



「ヘイミスターダルベス!イッツトレーニングタイム!!」

サングラスを掛けたトレーナーが、ダルベスに声をかける。


「オウケイ・・・!」

手を挙げて返事をすると、ダルベスはゆっくり立ち上がった。


大きい・・・!縦にも横にも。

決して筋肉質とは言えないが、その体からは何処か美しさが感じられた。恐らくその脂肪の内側には鋼のような筋肉が隠されているのだろう。それが美しさを醸し出しているのだ。


「こ、これは・・・!」

ダルベスに連れられインタビュアーが辿り着いたのは、最新鋭のトレーニング機器が並ぶ近代的ジム・・・では無く、ぽつんとサンドバッグが一つ置かれただけの、だだっ広い倉庫だった。


「ダルベス選手・・・これは?本当にここでトレーニングを?」

「イェア、勿論だとも。トレーニングと言っても、ほんの数秒・・・いや、一撃で終わりだがね。」

そう言うとダルベスはサンドバッグの前で立ち止まり、腰を落として構えをとった。


「ごおおおおおおっ!!」

気合いと共にその拳を打ち出す。

サンドバッグはひしゃげ、縮みこみ、そのまま倉庫の端の方へと吹っ飛んでいった。


ぽかん。インタビュアーは口を開け硬直する。


「ふぅ。・・・如何かね?これで私の一日のトレーニングは終わりだ。この一撃で私の肉体は戦闘用へとシェイプアップする。つまり必要無いのだ、これ以上動く事は・・・。いたずらにカロリーを消費するだけでな。」



・・・画面越しの翠もまた、言葉を失っていた。

ダルベスの強さを知るには、今見せられた衝撃映像さえあれば・・・その後のインタビュアーの言葉などまるで不要だった。


ぷつん。やがて映像が切られる。


「どうだったかい、御影君。問題はこの後だよ。この後彼と試合を行ったランキング13位の選手は・・・さっきのサンドバッグと同じ運命を辿った。・・・全身の骨を砕かれ即死さ。いくらリング上の殺人が罪にならないとはいえ、誰か止めてやれば良かったのに。」

マネージャーの一人が翠に語り掛けるが、翠は画面の方を向いたまま動かない。


「・・・我々は止めるぞ。会長も同意見だ。君が破壊されると分かっていて、リングに上げるわけにはいかないからね。」

「良いじゃねえか・・・。」

「・・・え?」

ぼそり。翠が呟いたその言葉を、マネージャー達は聞き逃した。


「面白い。・・・正直俺はこの間の試合でこのまま呆気なくチャンピオンになれちまうんじゃないかと思ってた。だがやはり、そう簡単にはいかないようだな。・・・むしろ俄然やる気になったよ。この位とんでもない相手を倒してこそチャンピオンに挑む権利を得られる訳だな。」

翠のその顔はちっとも萎縮してはいなかった。


「し、しかし御影君!!」

「どいてくれ。こうなったらもう誰にも止められはしない・・・!」


翠はマネージャー達をかき分けるとトレーニングフロアへと戻っていった。

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