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明日なんて来ない  作者: クロット
2章 栄光への道
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第十三話

『レディース&ジェントルメーン!今日も朝から参りましょうこのワールドチャンピオンズファイト。第一戦は連勝中のこの男・・・ランキング170位、波風轟選手対不死身のゾンビファイター、ランキング165位大倉翔太選手だー!!!』


一人ハイテンションの実況とは裏腹に、まばらな客は欠伸をしたり本を読んだり退屈そうだ。


時刻はまだ朝の八時半、低ランカーの戦いなどこんなものだろう。



「いいか轟、色々思う事はあるかもしれんが今は試合に集中しろ。相手はこのランク帯を彷徨いてるひよっこさ。いつも通りを出せばお前の敵じゃなかろうて。」

リングに登る轟に厳八が伝える。轟はにやっと微笑みを返した。


「安心しろよ。このラウンドで仕留めてきてやるからよ・・・。」


カァァン!試合開始の鐘が鳴る。

と、同時に轟が高速で肘をぶち込んだ。

一気に対戦相手、大倉の体が吹っ飛ぶ。


『おっとこれはダウンだー!波風、いきなり強打を打ち込んだー!!』

「ダウンだ、離れて!・・・ワン!ツー!」

審判がカウントを取る。轟は拍子抜けだという顔でコーナーへ戻った。


「なんでえ、そんなに強く打ち込んじゃいねえってのに・・・。大したことねえな、その辺のルンペンのがまだ強いぜ。」


「エーイト!ナーィ・・・」

ナインカウントギリギリ、大倉は立ち上がった。


「はっ、まだやろうってのか。変わった趣味の野郎だな。・・・だったら今度こそおねんねさせてやるぜ・・・!」

轟は素早く距離を詰めると、今度は腹に突き刺さるような蹴りを打ち込んだ。大倉がくの字になって倒れる。


「あーっと、またもダウンだー!!」

再び審判が駆け寄りカウントを取る。


轟はゆっくりと背を向けた。

「けっ、終わりだぜ・・・これで。」


しかし彼の読みとは裏腹に、審判のカウントはまたもナインで止まった。


『おっと、立った!大倉選手またもギリギリで立ちました!!』


けろりとした顔で大倉は服をはたく。


「野郎・・・舐めやがって・・・」

苛立ちながら轟は大振りの攻撃を仕掛けた。

しかし、大倉は身を屈めそれを避けると今度は轟の肩にパンチを放った。ぼすっ、と鈍い音が響く。


「・・・むっ、そんな屁みたいなパンチが効くかよ!パンチってのはこうやって打つんだ・・・!!」

またも轟の大振り。今度は僅かに大倉の肩を掠めた。するとどうだ、大倉はわざとらしくよろめきまたも倒れてしまった。実況がマイクで叫ぶ。

『おっと、大倉再びダウンか!?』


「・・・!なんだてめえ、今のはまるで効いちゃいねえだろうが。何だってそうやってフラフラしやがるんだ。寝不足なら今すぐ寝かしてやるぜ!?」

「ダウンだ!コーナーへ下がって!!」

不満気な轟を審判が諌めた。



・・・九秒後、またも大倉は立ち上がった。激怒した轟は一気に攻め立てようとしたが、ラウンド終了の鐘が彼を留めた。


「・・・汚ねえ。ドミノ並べみてえにいちいち倒れやがるからいつまで経っても仕留めきれねえ。」

コーナーで、轟がイライラしながら水分を補給する。


「一種のヒットアンドアウェイって奴だな。別に一ラウンドに何度ダウンしても問題はねえからよ、しっかり九秒休んでチンタラ攻めて来やがんのさ。・・・なあに、実力自体はお前のがずっと上だ。すぐ倒れるのをうまーく倒れない様に並べるのがドミノの腕の見せ所ってやつよ。倒すのは最後だけでいいんだ。・・・まあ、のんびり始末してやれや。」

ぽん、と厳八は轟の肩を叩き彼を続くラウンドに送り出した。


次のラウンド、やはり大倉は倒れては休み倒れては休みを繰り返した。

そしてその間にぽこぽこと小さく打ち込まれる打撃が轟を最大限にイラつかせた。


「こんの、くそったれめが!!チョロチョロしやがって!!」

ぶおんぶおんと轟の大振りは大きな音を立て空を切る。大倉はすいすいとそれを躱した。


「落ち着け轟!!焦んな!コンパクトに行け、怒ったら負けだ!!」

しかし、厳八のアドバイスは届かない。


がすっ!またも大倉は掠っただけで倒れてしまった。

「野郎・・・、また・・・!」


憎らしそうに大倉を睨む轟の間に審判が入る。

「ダウンだ、さあ離れて!」



次の瞬間、倒れている大倉がぼそりと言った挑発の一言が、轟を爆発させた。


「・・・へへ、そんな屁みたいなパンチが効くかよ。」

「んだと・・・この野郎・・・!!」


烈火のごとく噴火した轟は審判を押しのけると、倒れている大倉に馬乗りになりその顔面をタコ殴りにした。


『ああーっと!これはいけません!!ダウンしている相手への攻撃は反則です!!』

だが轟は殴るのを止めない。

「やめろ波風!これ以上続けるようなら反則を取るぞ!!」


「死ね!このくそったれめが!!」

「うげっ!ぎふっ!!ぎゃああ・・・!」

血塗れの大倉が悲鳴をあげる。厳八は頭を抱えた。


「ああっ・・・轟、なんて事を・・・!!」


実況が、審判が、厳八が止めるのも聞かず轟は大倉を滅茶苦茶に殴り付けた。




・・・反則負けを宣告された二人はいつもの橋の下へと戻っていた。

轟もまた不機嫌であったがそれ以上に厳八は苛立っていた。


「馬鹿野郎!なんだ今日の試合は!!わしらがやってるのは殺し合いじゃねえんだぞ!?」

「だけどよオッサン!あのままじゃいつまで経っても決着は付かなかったぜ!!」

反論する轟だったが、厳八は更に倍の怒鳴り声を浴びせた。


「こんの大馬鹿野郎!!あれだってルールの穴を突いた立派な戦略だ!例え持久戦に持ち込まれてもお前さんにはムーンサルトもある。どうやったって今日の試合負ける事は無かったんだぜ!」

「けっ・・・」

観念したように轟はそっぽを向き足元の石ころを蹴飛ばした。


「・・・。」

厳八も彼の気持ちは分からんでもない、それ以上追求する事は無かった。

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