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明日なんて来ない  作者: クロット
1章 始動
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第一話

深夜の公園。

そこには目をぎらつかせながら各々危険な武器を携えた男が二、三十程集っていた。

そう、彼等はヤンキーだ。

そして獲物を囲う彼等の視線の先には二人の少年がいた・・・。


「ようようようゴウちゃんよう!そろそろ年貢の納めどきってやつだぜぇ?」

ニタニタと笑うリーダー格の男がバットを弄びながら言う。


「ほー、まさかたかだかこれっぽっちの人数で俺達をどうこうできるとおもってやがんのかい?」

ゴウと呼ばれた少年・・・波風轟(なみかぜごう)は不敵に笑った。


リーダー格の男は一瞬眉間にシワを寄せたが、またすぐに不快な笑みを浮かべる。

「へっ、ほざいてろ・・・今日はおつよーい用心棒を呼んであるんだ。・・・鬼道先輩!お願いします!!」


ぬっ・・・!

男の声に呼応する様に二メートルはあるかというような大男が現れた。

ごきり、ごきり。大男は無表情に骨を鳴らす。


「おおーぅ・・・。」

稀に見る巨漢に轟は思わず息を飲んだ。すかさず轟の隣に居た彼の仲間・・・御影翠(みかげあさぎ)が尋ねる。

「どうした轟・・・。ビビってるのか?・・・それなら俺がやってやるぞ。」


轟はムッとして返す。

「ふざけろ、鬼道先輩とやらは俺がやる。お前はしばらく雑魚掃除でもしてな。」

「そうか・・・それなら良い。何でもいいがとっととやろうぜ。」


翠はうんざりしていた。元を辿れば肩が触れた触れないの小競り合い、一度叩きのめせば済むはずだった。・・・だが彼等はこてんぱんにされる度に人数を増して何度も襲って来た。こんな事はもう最後にしてほしいものだ。



「そらいくぜ!!」

いきなり飛び出す轟。ヤンキー達が臨戦態勢に入る前にその膝は宙を舞い、鬼道先輩の顔面に突き刺さった。

いとも呆気なく、その巨漢は崩れ落ちた。


「え?は・・・?」


意表を付かれたヤンキー達は硬直した。それもそうだ、絶対の信頼を置いていた用心棒が一撃で倒されたのだから。

無論、轟達はそんな間など待ちはしない。鬼道先輩を仕留めた轟は次から次へと他のヤンキー達に襲いかかった。翠もそれに続く。


「ちょっ、ちょっと待って・・・!」

何が起こってるか理解の追い付かぬ者、慌てて反撃を試みる者、堪らず逃げ出す者。

全員残らず、ものの二分程で地に伏した。


「何だ、雑魚はくれるんじゃなかったのか?」

翠が冷ややかに笑う。轟は誤魔化すように頭を掻いた。

「へっ、まあそう思ったんだけどよ。こいつら弱過ぎるわな。」


・・・その時突然、拍手の音が響く。音の先を見ると、見慣れぬ小汚い中年の男。

「いやいや、見事。実に良い喧嘩だったぜ。だがちいとばかしテクニックって奴が足りねえわな。どうだい、この蛮田厳八(ばんだげんぱち)と一緒にてっぺん取ってみる気はねえか?」

厳八と名乗る男はにんまりと何本か欠けのある歯を見せた。


轟は怪訝そうに彼を一瞥し、溜息をついた。

「行こうぜ。暖かくなるとああゆうキチガイが出てきちまっていけねえ。」

「あ、ああ・・・」

轟はくるりと振り返り翠の肩を叩いた。翠もまた背を向けようとした。

しかし・・・


「・・・ワールドチャンピオンズファイト。」

ぼそりと、厳八が呟いたその言葉にぴたりと二人の足が止まる。


「男なら知らねえたあ言わねえわな。目潰し、武器の使用、何でもありの最強を決めるランキング制の戦い。おめえさん達ならそのチャンピオンにだってなれるぜ。」


「・・・はっ、笑わせんなよ。」

ちらり、轟は横目で厳八を見た。


「おい、よせ!」

翠の止めるのを聞かず轟は厳八の方へ向き直した。

「そんなもんならてめえの手を借りるまでもなく自分でだって一番になれるさ。」


「笑わせる?はっはっは、それはこちらのセリフだわい。」

厳八は声を出して笑った。

「オヌシのような青二才に取れるチャンピオンなら、このわしがとっくに取っとるわ。はっはっは!」


「野郎・・・言わせとけば。」

「おい、よせって言ってんだろ。」

しかし轟は翠を振り切り飛び出して行った。

こんな汚いオヤジになど負ける筈がない。


だが次の瞬間、轟は宙を舞った。厳八が足をかけ綺麗に転ばしたのだ。そしてすかさず前のめりになったその腹部に強烈な鉄拳を叩き込む。


「うぐぅ・・・」

堪らず倒れる轟。見かねた翠もすぐに向かっていった。だが彼もまた、難無く厳八に倒されてしまった。


「ふん、だらしないのう。」

「・・・まだまだっ!!」


二人は何度倒されても向かっていった。だがどうしても目の前の中年に攻撃を叩き込む事は出来なかった。


「はあ、はあ・・・ちくしょう・・・」

「ふう・・・タフさまで一流品と来りゃあ全く、大したもんじゃねえか。」

ゾンビのように立ち上がる二人に厳八は舌を巻いた。



「おおおおっ!」

轟が走り寄り、勢いよくアッパーを仕掛ける。


(全く、そんな直線的な攻撃など当たらんわ・・・)

厳八は軽く上体を仰け反らせそれを避けようとした。


だが、轟の拳は振り抜かれず厳八の胸のあたりでぴたりと止まった。

・・・フェイントだ。油断しきった厳八は見事に釣られてしまった。

瞬間、轟のつま先が厳八の隙だらけのみぞおちに突き刺さる。


「げぼっ・・・!!」

思わず戻しそうになる。

(わしとした事が・・・。しかしこれだけ打ち込まれて尚、冷静にこれ程のフェイントを仕掛けてくるとは・・・やはりこやつ、ただもんじゃねえ・・・!)

吹っ飛ばされながらも厳八の内心は満足であった。


どちゃり!厳八が地面に叩きつけられ立ち上がる気配が無いのを確認すると、轟は後ろで膝を付いていた翠に言った。

「・・・行こうぜ。」

一応勝利したというのにその表情はまるで満足気ではなかった。




明け方、二人はいつも寝床にしている寂れた公園のベンチにいた。


「・・・轟、あのオヤジの言ってた事、どう思う。」

翠が問い掛ける。


「あん?・・・何だまさかお前本気にしてんのか?あんなルンペンオヤジの戯言をよ。」

轟は嘲るように帽子を指で回した。


「確かに信じる方がおかしいさ。でもあのオヤジの動き・・・本物だった。」

あくまで翠の目は真剣だった。


「それでも俺は勝ったぜ。あんな奴、どうってこたねえよ。」

「・・・轟、お前ガキの頃からいつかはワールドチャンピオンズファイトに挑戦しようって言ってたじゃねえか。・・・今がそのチャンスなのかもしれないぞ。」

「・・・。けっ、下らねえこと言ってねえでとっとと寝ようぜ。」

そう言うと轟は帽子を顔に被せベンチに横になった。


「ああ・・・おやすみ。」


しかし翠はいつまでも眠りに付かなかった。

轟もまた、被せた帽子の下で虚ろに目を開いていた。




・・・また日は落ち深夜、二人は昨日の公園を訪れていた。


「あのオヤジはここを根城にしてるとは限らない、必ずしもまた現れる保証はないぞ・・・」

「昨日こてんぱんにのしちまったからな、もう二度と来ねえかもしれねえな・・・」

轟の不安を他所に、その両手は後ろから二人の肩をぐっと掴んだ。


「わっ!何だ!?」


「二人して今日は何の相談してやがんだ?」

驚き振り向くと、そこには小汚い厳八の笑顔があった。


「勘違いすんじゃねえぞ、別に俺達は・・・」

「へっ、何も言うんじゃねえ。よく来た・・・よく来たぜ本当に・・・。」

もがく轟を制して厳八はよりぐっとその手の力を強めた。

「ここまで来たらやるしかねえだろ。わしと一緒にてっぺん取ろうぜ・・・!!」


ニヤリと厳八は歯の抜けた笑みを見せた。

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