番わず願う
「よう。邪魔するよ」
「いらっしゃい…ってあんたか」
「そんな蛇険にすんなよ。一杯だけだ」
「美人な嫁さんが家にいるんだろ。さっさと帰んな」
「そう言いつつも酒を出してくれるとこは優しいよなぁ」
「あんまほざいてると首絞めるよ」
「おいおい、洒落にならねえよ。怖いからやめてくれ」
「…わざわざこんな場末の飲み屋で飲むこたないだろうに」
「気分だ…気分。外はなんやかんや騒がしいからな」
「ああ…妊娠したんだってね。めでたいじゃないか…」
「…そうだな」
「…なんだよ?その顔は?」
「いや…そういう顔もするんだなって思ってな」
「絞めるよ」
「やーめろって。別に茶化しにきた訳じゃねえんだからよ」
「とっとと帰りな。今日はどうせ客なんて来ないんだからもう閉めるよ」
「やたらツンケンしてんのは、やっぱ引き摺ってるからじゃねえか…っておい、マジで尻尾伸ばしてくるな。やめろ」
「茶化しにきた訳じゃねえとか言いながら、茶化してんだよ。とっとと帰れ」
「違うって!あの場にお前がいなかったからよ。気になったんだよ。店も遠くはないんだ。なんで行かないんだ?」
「…別に…昔の女が…祝いに行く理由なんて…ないだろ」
「あいつは…ってかこの街の奴らは、昔の事なんぞ気にしねえと思うけどな」
「あたしが気にするんだよ」
「さいで」
「まぁでも!すっきりしたさ!あんな若い娘捕まえてさ!あたしなんかじゃ手も足も出ないって思えるもんな!」
「ぶふっ!」
「…なんだい?」
「いや…ははは。ラミアに足はねえだろって思ってな」