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35話 奴隷契約と過去の真実

「いかがでしょう?」


 ヨハンさんに話しかけられてはっとする。どうやら動きが止まっていたらしい。もう一度目の前を見つめるとガラスのような氷のようなものだけに覆われた黒髪の女性が目を伏せて立っているのが見えた。


「この人は…?」

「……そうですね~」


 軽くため息をついたヨハンさんが話した内容は簡単に言うとこうだった。

 たしかにこの女性はここにいるし見ての通り何かに覆われているが、それを壊すことも出来ずいつからここにいたかもわからないと言うものだった。普通に考えればありえないことだけど、何故か誰一人この女性のことがわからないということらしい。でもここにいる以上一応奴隷という扱いになっていて今までもいろんな人に売ってみようとしたがこの覆われたもののせいで売れなかったらしい。なのでこの覆われたものがどうにか出来た人に安く譲ってくれるそうだ。


「これは氷ですか?ガラスですか…?この女性は苦しくないんでしょうかね…」


 さっきから心臓の音がうるさくて気のせいだと思いながらも震える手をそっと伸ばし触れてみようとした。この女性は似ていたのだ。まだ学生だったころに交通事故で亡くなってしまった母親に…


「え…?」


 その手はそのガラスのようなものをすり抜け女性の右手に触れた。するとその瞬間目の前が眩しい光に溢れ何も見えなくなった。



▽▽▽▽▽



 目を開けると潮の香りが漂ってきているのに気がついた。大きな欠伸をして体を起こすと伸ばした手が何かにぶつかった。


「起きたな。もう少しで海につくぞ~」

「ほんと?」


 つい勢いよく立ち上がり頭をぶつける。それで今車の中だということに気がついた。


「まあ…そんなあわてなくても海は逃げないわよ?」


 お母さんがくすくすと笑う。すぐ横にいたおじいちゃんが優しく頭を撫でてくれた。そんな和やかな雰囲気の中お父さんが異変に気がついた。


「まずいな…」


 車の速度を少し落としながら前を見つめる。それに気がついたお母さんとおじいちゃんが同じく前を見た。みんなが見ているので僕を同じように前を向いた。そこにはふらふらとして今にもガードレールや岩壁にぶつかりそうになっている大きなトラックがこちらへ向かってきていた。


「今からUターンしても間に合わないぞっ」


 道は車が2台通って少しだけ余裕があるくらいの広さで大きく避けることが出来そうもないらしい。もしかしたらこのままトラックとぶつかってしまうんじゃないかと怖くなり体が震えた。それを見たおじいちゃんが僕をぎゅっと抱きしめてくれた。


「大丈夫じゃよ…きっと避けられる。」


 そういうおじいちゃんの手も少し震えていた。怖いのはきっと僕だけじゃない…

 速度を調節しながら何とかそのトラックの横を通り過ぎることにほっとしたのだろう。すれ違ったその先は緩やかなカーブをしていた。

 ブレーキは間に合わずそのままガードレールに差し掛かる。ものすごい大きな音と衝撃に体を打ち付けられるとその後には体が浮く感じがした。そしてそこで一回気を失ったみたいだ。


 次に目を覚ますと体が半分ほど水に浸っていた。周りは薄暗くてよく見えないが車の中にいた3人の顔はよく見えた。気のせいか3人の体が薄っすらと光っているように見える。


「お父さん…お母さん…おじいちゃん…ここどこ?」

「…車ごと海の中よ。でもちゃんと助かるから!」


 泣きながら叫ぶお母さんをお父さんがなだめている。おじいちゃんは優しく僕の頭を撫でるだけだ。少しすると車ががくんと揺れた。


「そろそろ時間です。」


 知らない人の声がした。するといっそうお母さんは悲しそうな顔をして顔を伏せた。


「元気でな…」


 お父さんがそう言うと車のドアが開いて一気に水が入ってきた。シートベルトに縛り付けられてた僕はそのまま水に飲まれ意識を失うことになった。その時最後に目にしたのはすーっと姿が消えていく3人の姿で…



▽▽▽▽▽



 記憶から抜けていた事故の顛末を思い出した。あの時は事故にあったことと父と母あと祖父この3人が見つからず死亡とみなされたんだ。それから祖母に育てられその祖母もなくなり1人暮らしをしていた。そんなときに気がついたらここにいたわけで…何で今思い出したんだろうか。


 目を開けると光は収まっていて目の前にあったガラスのようなものもなくなり、その中にいた女性が立っていた。閉じられた目がそっと開くと視線をゆっくりとこちらに向けた。


「……」

「……」

「…」


 その場にいた3人はそれぞれ意味は違うが驚いていた。少しの間沈黙が続くと痺れを切らしたかのように女性が口を開いた。


「ここは…どこ?」

「しゃしゃしゃしゃべった~~っ」


 ヨハンさんが驚いて尻餅をついた。女性はその様子を不思議そうに眺めた後考え込むようなポーズをとって視線を彷徨わせている。


「たしか…そう…それで……うん、思い出してきた。…解除されてるってことはもしかしなくてもそういうこと?」


 1人でぶつぶつと言っていた女性がこちらに視線を向けてきた。見慣れた顔にドキリとして声はでない。


「ねえ、私何かに覆われてたでしょう?解除したのはあなた?」

「解除…かどうかわからないけど……なんかガラスみたいなのは俺が触ったら光って消えた。」

耕也(こうや)さん?」

「……違います。」


 それは父の名前だ…


「じゃあ祐介(ゆうすけ)さんかしら…?」

「いえ…」


 それは祖父の名前…


「…え?うそじゃあ…そんな……っ」


 女性は両手で口を押さえ目を潤ませて震えていた。信じられないというようにたまに頭を横に振っている。ポチは会話をしたいのをぐっとこらえまずは奴隷契約を済ませることを優先した。こうしないとゆっくりと話は出来そうにないからだ。


「ヨハンさん…彼女との契約はどうなりますか?」


 みたところ奴隷用の首輪もついていない。でもこの店にいる以上売り物には間違いないのだ。


「あ…ああそうだな…首輪をつけて安く譲るか…首輪がいやなら高くなるがその解除費込みで売ることも出来るな。どっちにしてもこのことは王に報告になってしまうが…」

「私はどちらになってもかまいませんので外へ出してもらいたいです…」


 丁寧に頭を下げ女性がお願いしてきた。


「いくらなんですかヨハンさん…」

「金貨10枚。首輪なしで買い取るならこの女性の身元保証も込みでさらに白金貨2枚だな…」


 あまりの高さに驚いてしまった。もちろん払えないことはないのだが、それは店のお金である。


「首輪って後で解除することは出来ますか?」

「ええ、こちらにお金と契約奴隷を連れてきていただければ可能です。」

「では首輪をつけた状態で金貨10枚で購入します…」


 頭を下げていた女性が「それでいいのよ」と言うかのように微笑んでいた。


 契約を済ませるとポチと女性は無言で店までの帰り道を進む。ポチの命令でいいというまで口を開くなと言われているのだ。

 店につくとまだ店を開けている時間でみんな忙しそうなのでまずは部屋に戻り奴隷契約をした女性と会話をすることにする。


「もう話していいよ。」


 会話を許可すると女性は目を潤ませて口を開いた。


「よー…ちゃん?」

「うん…母さん。」


 よーちゃんというのは母さんが俺を呼んでたときの懐かしい呼び方だ。懐かしさに涙が出そうになった。


「なんでよーちゃんがここに…っ約束が違うじゃないっ」

「約束…?それが何かわからないけど俺からみたらなんで母さんがここに…しかも当時の姿のままいるのかってことなんだけど…」

「あー…よく見たらこの顔カートじゃない…」

「カートって誰だ?」


 母さんはいったん深呼吸するといろんなことを語りだした。その話によると父母祖父は事故にあったとき、自分たちのことじゃなく俺を助けてくれと願ったらしい。そしたらなんか声がして交換条件を飲んでくれたら助けてくれると言うので、藁にも縋る気持ちで飛びついたんだそうな。その結果、俺は助かり交換条件として3人はこの世界へやってきたということだ。ここにきた目的は知らないがすでに達成されているらい…でも帰還は不可能だったためここで生活するしかなかった。

 約束というのは俺が普通に生きていけることだったようで、ここで会ってしまったことは普通のことではないから母さんは怒っていたらしい。そしてカートというのは父と母の間に生まれたこの世界での子供でどうやら僕の弟のようだ。


「弟…はまあいいとしてなんで母さんは年を取っていないんだ?」


 自分自身がすでにこんなところにいるので母さん達がここにいることにはそれほど疑問に思わなかった。むしろ生きていてくれたことに喜びすら感じている。だけど年を取っていないことだけが不自然だ。


「なんでなのかしらね…わからないけど年取らなかったのよ。でもカートは成長しちゃっていずれ追い越されるんじゃないかと不安なのよね。」


 母さん頬に手を当て首をかしげる。どうやら母さんにもその理由はわからないらしい。俺は軽くため息を吐き出し会話を続けた。


「普通の世界じゃないから仕方ないのかな…それにしても弟の体か……本人はどこいっちゃったんだろう。」

「そのうち戻ってくるんじゃない?あーでもそうしたらよーちゃんはどうなっちゃうんだろう…まあ私達にどうにかできる問題じゃないのだろうけど困るわよね。」


 すっかり母さんはこんな不思議な世界の住人になっていたようで、あきらめモードに入ってしまった。


「ところで父さんとじいちゃんは?そもそも母さんはなんであんなことに?」

「うーん…祐介さんはここでの目的を果たした後寿命だったのか亡くなりました。耕也さんは…わからないわ。たぶんカートと一緒に行動しているはずなんだけど…知らないわよね?」


 ポチはこの世界に来た時のことを思い出してみるが、すでに夜で回りには誰もいなかった。そもそもなんであんな場所に転がっていたのかも不明だ。


「そう…よーちゃんがこの世界に来た時にはすでに一人だったのね。まあそのうち向こうから会いに来てくれるでしょう。じゃあ次はよーちゃんのことも教えて頂戴っ」

「まって母さん。あの氷なのかガラスなのかわからないやつに入ってた話まだ聞いてないよっ」

「あー…それね。あれは自己封印なんだけど、まあちょっといろいろあって耕也さんとカートを逃がすためにこっちに意識を向けてもらってね、そのためにやったんだけどまあ失敗失敗?家族にしか封印解けないように設定してたんだけど…耕也さん迎えにこれなかったのね残念。」


 そのおかげでよーちゃんに会えたんだけどね?と微笑んだ。ポチは逃げなければいけないようなことをしたことのほうが気になったが、それは後で聞くことにして自分の事情も話すことにした。


「ふぅ~ん…錬金術ね血は争えないってことか…で奴隷購入と。でも名前がポチとかないわ~」

「そうなんだけど…母さん職業何?」


《カンテイノシヨウヲオススメシマス》


「あー見てもいい?」

「いいわよ~」



   名前:神流結花(かんなゆか)

   性別:女

   年齢:32

   職業:契約魔法術師


  レベル:65

   体力:125807/125807

   魔力:103400/219004


    力:3012

   速さ:4106

   知力:8731

    運:30

物理防御力:1048

魔法防御力:1892


固有スキル:千里眼

   称号:異世界の住人



 母さんは強かった……


「ふふふ~んどうだ~」

「…職業ひとつ?」

「ええ、これひとつで十分すぎるわ~」

「錬金術ないか~じゃあやっぱりまた探さないとな。」

「ああ、錬金術使えるわよ。」


 いやいやいや…母さん職業違うだろう。

 いったい何を言ってるんだという顔を向けると母さんは得意げな顔をして胸を張った。


「よーちゃんちゃんと私の職業鑑定してないでしょう。」

「でも契約魔法術師は錬金術師じゃないよ?」

「いいからいいから。」


 自信ありげに母さんがいうので俺は今度は職業を鑑定してみることにした。



***** 契約魔法術師 *****


体力上昇 魔力上昇 職業契約3 契約解除 契約魔法3 



 ……職業契約、もしかしてこれのことか?



 職業契約…現在確認されている職業から使用したいスキルを契約して使うことが出来る。

      レベル1:選択可能職後衛職。契約個数上限5。

      レベル2:選択可能職前衛職。契約個数上限15。

      レベル3:選択可能職特殊職。契約個数上限30。



 うわーー…なんていうかうらやましい!

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