34話 奴隷
エレノア達の宿が再開され10日ほど経ったころ、ポチの店は困ったことになっていた。ちなみに宿のほうは臨時に雇った人ががんばってくれたらしく今は安定して宿の経営が行われているそうだ。それよりも問題はポチの店のほうで人手が足りなくなったことによる混雑が発生していた。採取、販売、錬金ともにどこかを補おうとするとどこかが足りなくなる状態になり現在ほぼ休みがない状態になっていた。
「ポチ…人増やして…」
机に伏せた状態でエルザがそんなことを言い出した。もちろんそれは誰もが思っていたことで、ポチもわかってはいる。
「それはわかるんだけど…そもそもなんでこんなに薬が売れるっていうか冒険者が多いのかよくわからないんだけど…」
いつもポチたちが通っているダンジョンは人をあまり見かけない。ポチたちが上層で狩りをしているせいなのかとおもったのだけどそもそも出入り口で遭遇する人が少ないのだ。それなのにこの街は冒険者で溢れている。その上錬金術や薬師などが少ないのか薬が出回っていない。ポチの店が繁盛してしまうのもしかたのないことだ。
「あれ、知らなかったっけ…この街ダンジョンもう1つあるのよ?それに鉱山のところにもあるし、森の中にも1つあるわね。」
「は…?」
今なんて言った…?聞き間違い…じゃない?
ダンジョンのことを口にしたアルタの顔をポチはマジマジと見つめる。なんでじっと見られているのかよくわかっていないアルタは首をかしげた。
「ごめんアルタもう一回。」
「ん?だからダンジョンはこの近辺には4つあるって話だけど…ちなみに普段行っているダンジョンは一番難易度の低い場所ね。」
初耳だ。これは…他のダンジョンもどんなところか見に行ってみないといけないじゃないかっ
「なんかね~この薬屋が出来てから階層の探索が進み始めてるとか…聞いたわよ?」
「え…?」
アルタとエルザの話によると薬があまり出回らないことにより、回復魔法持ちがいるパーティーが頑張っているらしいが魔力は無限ではないので、ずっと回復を行うことが出来ない…今までずっと少しづつ階層を攻略してやっとレアスの最下層までは攻略が終わったところらしい。他のダンジョンはまだ現在の最下層がわかっていないと言うことだ。
「古い記録ではその4つのダンジョンが全部5階層までだったって話なんだけど、今レアスは7階まであるでしょ?だから他のダンジョンも階層が増えているかもしれないって…ここ数年かな再度調べ始めたの。」
「再度って…しばらく調べてなかったってこと?」
「そうよ?数十年ほど前に冒険者ってほとんどいなくなって…あれ?この話もポチもしかして初めて聞いた?」
「まあそのへんのところ詳しく知りたかったら古い文献とか見てみるといいわよ。」
話が終わるとアルタとエルザはお風呂へ行くと部屋を出て行った。「古い文献を見てみるといい」と言っていた、もちろんポチはそれは気になる話だから見たいとは思っている。でもそのためにも今の店の状態を改善しないと動くことも出来そうにないのだ。
▽▽▽▽▽
一晩店の改善について考えた結果、
・まずは人員を増やす
・人員を増やすまで店の営業時間を減らす
(↑主に冒険者が買いに来るのは朝だから。)
・販売個数の限定
(↑ポチが人員増やしに走るから採取が減るため)
というわけでまずは営業時間を減らしてみることにした。店のドアに『しばらくの間販売時間は昼前まで』という張り紙を貼り付けると従業員のみんなに1日の仕事の流れを伝えた。
まずアルタエルザフィリアは昼前はダンジョンへ、採取したものを店に置き昼休憩後短時間でいいので森へ行く。これにはフィリアは同行しない。シルメリアとアストロン、それとルーナは店で販売をしてもらう。気が向いたときだけでいいのでアンジュにもお願いしておいた。商品の補充くらいならアンジュにも出来るだろう。昼に店を閉めた後アストロンとルーナが売り上げ集計などをする。シルメリアは昼休憩後アルタ達が持ち帰った物で調合をお願いする。作られた薬は手のあいた人に片付けてもらおう。 みんなの行動はこんなところだ。この間に俺は商人ギルドへ行って話しをした後状況によって動くことになる。何も問題がなければその後森へ採取に行くつもりだ。
「出来るだけ早く人員を増やして休日を作ろう。」
一応今も3日に一度店自体は休業という形は取っているのだが、その休日にも採取に出ないとポーションなどが足りなくなる。つまり実質休みがないということだ。
軽くため息をポチはすると商人ギルドへと足を向ける。
「商人ギルドへようこそ。今日のご用件はなんでしょうか?」
ギルドの扉をくぐると早速声をかけられた。冒険者ギルドと違って商人ギルドの中には人はそれほどいない。商談なとの話をするのが主なようで、用のある人は大体別室で話をしているということらしい。
「…なるほど。ではそちらの店で直接素材の買取も行ったほうがよいのではないでしょうか?」
「買取ですか?」
「はい、多少売り上げは下がるかも知れませんがギルドカードを確認したところ、売り上げ、従業員への支払いなどを行った後も十分に余裕がありそうです。」
ふむ…そうかじゃあたとえばポーション1個を材料2個分で交換とかすればちゃんと店としてはプラスになる。全部を交換出来るようにするとお金が発生しなくなるから交換で渡せる薬を一部にすれば問題なさそうだ。
「そうですね…では、販売員を1人と錬金術が使える人を1人募集依頼出すことにします。」
「販売員は大丈夫ですが錬金術…こっちはあまり期待できないですね。」
「えっそうなんですか?」
「はい、昔錬金術師狩りが行われたのはご存知だと思いますが、そのせいでめっきり減ってしまって今錬金術が使える人はいても店を持っているか隠している人が多いと思いますよ?後はまだ10歳になってなくて知らないとか…」
錬金術師狩り…?なんかずいぶんと物騒な言葉だ。
「あー奴隷とかいかがでしょう?」
「奴隷ですか?」
「はい、奴隷でしたら職業も隠せないので公開されているはずです。もしかしたら錬金術師がいるかもしれません。それに契約が行われるので詐欺などの危険もないですからね。」
ひとまず依頼はだしてもらいお礼を言いギルドを出るとそのまま西の方へ歩き始める。サフィール商会という店の前で足を止める。以前門のところで助けた女の人を送り届けた場所で奴隷を扱っている店だ。
買うかどうかは別として錬金術師がいるかの確認だけはしておきたいしね。メイン職で錬金術師がいてよさそうな人だったら少し考えてみてもいい。
店の扉をくぐるとそこは狭くすぐカウンターがあるだけだった。
「いらっしゃいませ。本日は奴隷の購入でよろしかったですか?」
「あ、いえ…ちょっと従業員が足りなくてよさそうな人いないかなー…と。」
「なるほど…では詳しい話はこちらでうかがいますどうぞ。」
カウンターのところで会話した男の人はどうやら受付担当の人だったようだ。商談のための部屋だと思われる場所に案内されるとすぐにどこかへいってしまう。少しすると扉が開きこの間あったヨハンさんと奴隷の女性が一緒に入ってきた。
「サフィール商会へようこそ…おや君はもしかしなくてもこの間助けてくれた…」
「ポチです。」
「そうそうポチ君だったね。今日は奴隷を買いに来てくれたのかな?」
「ちょっと人手不足でして…いい人材がいましたら考えてみようかと思いまして。」
「なるほど…ではどういった人材がよろしいですかね?」
「そうですね…」
錬金術師のことは言わないほうがいいかな…「錬金術師狩り」ってのが気になるし。
「では子供や年を取りすぎていない女性でお願いします。うちの従業員が女性ばかりですしそれなりに体力もいると思いますのでその辺で一度見てみたいです。」
「それだと…10人ほどいますね。では連れて来ますのでお待ちください。」
ヨハンさんが立ち上がると奴隷の女性はついて…いかずその場でじっとこちらを睨むように見つめている。
「「……」」
「えーと…首痣にならなかった?」
「……」
無言がきつい…視線もきつい…ヨハンさん早く戻ってきてっ!
「…ぐぅ」
……ね、寝てるーーっ立ったまま寝てるよこの人!!ヨハンさーーんっ
それから5分ほどするとヨハンさんが戻ってきた。うたた寝をしていた奴隷の女性はヨハンさんが戻るとあわてて姿勢を正していた。
部屋の中に入ってきた女性達は首からプレートを提げそこに名前と年齢と職業が記入されていた。年齢は幅広く下は16歳で上は35歳まで、職業も思ったよりも色々種類がありそうだ。
商人…使用人…料理人、薬師と召喚術師を同時に持っている人とかもいる。剣術…棒術…ん?他にも色々職業があるけど1人気になる人がいた。
名前:リシャーナ
性別:女
年齢:32
職業:精霊術師(巫女)
状態:種族隠蔽
鑑定をしてみると状態が種族隠蔽となっている。
「ヨハンさん、この人なんですけどもう少し詳しく教えていただけますか?」
「あーやはり気になりますか。私もこのリシャーナについては詳しくないんですが、この巫女という職業が特殊ですね。めったに見ない職な上にスキルなどの情報が公開されていませんし、どうやら記憶もないようなので本人から聞き出すことも出来ないんです。」
ヨハンさんの話によると元は他の奴隷商のとこにいたらしいんだけど、そこの管理している人が亡くなってヨハンさんのところで買い取った奴隷だそうだ。そのときからすでに記憶がないらしく本人から情報をもらえないので鑑定で手に入る程度の情報しかわからないそうだ。
うん…職業も珍しいけどそれよりもやっぱり似てるんだよねアンジュに。帰ったらアンジュに知り合いかどうか聞いてみよう。
「うーん…あのヨハンさん一応他の女性も見せてもらってもいいですか?」
「それはかまいませんが後は若すぎる子や特殊な奴隷しかいませんよ?」
紹介された中に錬金術師がいなかったんだからしかたないよね。もしかするとまだ可能性はあるし、見るだけはタダだからね!
案内されるままついていった先にいたのは親を亡くし孤児院にいかず、犯罪を犯した子供達や腕や足をなくして普通に働けなくなった女性達だった。
「いかがですかな?」
うん…やっぱりこの中にも錬金術師という職をもった人はいない。何でここまでいないんだろうか…不思議だ。
「後1人だけいるんですが…こちらはさらに特殊でして…そもそも奴隷として契約できるかどうかわからない状態ですけど。」
どうやら顔に出ていたらしく最後の特殊な奴隷を見せてくれるらしい。
「契約出来るかわからない奴隷…?」
「見ればわかります。」
今まで見ていた奴隷達の部屋は外からでも見れるように鉄格子状の扉だった。でも最後に案内された部屋は重たそうな金属で出来た扉の前だ。しかも開けて中に入るとさらに同じような扉がもう1つあるという厳重さだ。
「ではどうぞ。」
扉の中へ入るように勧められポチは中に入ってみる。するとそこには氷のようなガラスのようなものに覆われた物が1つあり、その中央あたりに1人の女性がいた。黒い髪の毛をした女性でその顔を見たポチはただボーゼンと立ち尽くすしかなかった。




