33話 異変
かなり間があいてしまいましたすみません。
サラマンダーが預かってきた手紙が無事にアンジュに渡るともう1つ手紙を持っていることに気がついた。
「サラマンダーその手紙は?」
「あ、そうでした…これはマスター宛です!」
どうやらポチにも手紙を預かってきたらしい。封をあけ中を確認する。その手紙の内容によるとやはり有翼人のことを秘密にして欲しいことが書かれており、それとどうやら魔力はあの岩山の上層付近は元から魔力が薄いらしく人工的に霧状に発生させて維持を図っていたそうで、その装置が人為的に破壊されたことによるものだったと書かれていた。修理が済むまでアンジュを預かってくれという内容だ。
もちろんそれはいいのだがこの様子だとしばらくかかりそうである。いつまでも内緒でアンジュをおいておくことは出来ないだろう。
「アンジュ。」
「あ、はい。」
「どうやらしばらくここにいることになりそうだから、みんなにも紹介していいかな?」
「みんな…ですか?」
「うん、ここの店の従業員ほとんどが一緒に住んでいるから、いつまでも内緒にできないよね。それにそのほうがアンジュも自由に動けるだろ?」
「それはそうですけど…有翼人のことだけ秘密に出来るかな…」
「それは言わなくていいよ。」
「一緒にお風呂とか入ってしまったらばれますよ?」
お風呂でばれる…?羽は消しているんだから大丈夫に思えるけど。
「羽は消えているんじゃなくて見えなくなっているだけなので、その…触るとわかりますし、体を洗ったりすると形が…」
「あーそうなんだ…ちょっと触ってみてもいい?」
「す、少しだけですよ?」
許可をもらえたので位置を確認して触らせてもらう。確かに見えないけど何かがあるのがわかる。
あーたしかにこれはわかっちゃうかもな…というかなんかふわふわしてる。
「~~~~~っ」
「…ん?」
「く…くすぐったいです…」
顔を赤らめフルフルとアンジュは耐えていた。ポチはあわてて触るのをやめアンジュに誤る。
「ごめん。触りすぎたかな。」
「い、いえ…羽触られるのがくすぐったいだなんて思いませんでした…」
うーん…これは困った。小さいアンジュは絶対風呂誘われるよな…やっぱり内緒にしておくか…いや、有翼人だと言ってしまったほうがいいのか…
すぐに答えが出そうにないので保留にしておき、食事の後いつものように調合した後仕事部屋でどうするか考えることにした。
コンコン
「どうぞ?」
1人でどうしたらいいのか考えているとシルメリアがやってきた。
「ポチ店長こっちにいたんですね。」
「あーうん、ちょっとね。それよりどうかしたのか?」
用事もなしにポチを訪ねてくることは基本ない。もちろんそれは他の人の場合もそうである。
「あ、うん。今日アストロンが仕事初めてだったからその報告ってとこかな。」
「あーなるほど。で…シルメリアから見てどうだったの?」
「えーと…仕事はちゃんとできるのよ?でも…」
ん?どうやら仕事は出来るみたいだけど何か他に問題があるようだ。
「なんて言えばいいのかな…彼男性であっているわよね?」
「本人がそういってたね。」
「男性のお客さんが妙にアストロンと会話したがっていたのよね。まあ見た目だけなら女の子に見えなくもないんだけど…ちょっと変じゃないかな?」
言われてみれば俺も何故か性別を確認して聞いてしまったな…なんでだろう?
「なんだろうね…まあちょっと気にかけて見るよ。」
アンジュのことも考えないといけないのにアストロンも様子見たほうがいいのか…これは1人じゃ無理かな~やっぱ誰かに相談して…ん?
「シルメリアまだ何かあるのかな?」
何故か少しだけ機嫌が悪そうなシルメリアが目の前に立っている。ポチは考えて見るが特にここの所シルメリアに何かしたとかいう記憶はない。
「仕事もいいけどそれ以外の話とかしませんか?」
「それ以外の話?」
「えーと…以前言っていた結婚とか…私わりとありだと思ってるんですが…ポチ……はどうですか?」
おっと…折角忘れられてたかと思ったのにここで持ち出しますかシルメリアさん…
ほんのり頬を染めながらちらちらとポチを見る姿はたしかに恋をしているかのように見える。だが、年頃特有の恋に恋しちゃってる感も否めない。それにポチ自身も自分がこの世界にいる理由や原因もわからず、さらにこのままここにいれるのかもわからない状態だ。気軽に返事を出来るわけもないのだ。
「シルメリア気持ちは嬉しく思うよ…でもねよく考えて。俺は確かにここに家を買って店を開いたけど、軌道に乗って他の人に店を任せたらもっとこの世界を歩いてみたいと思っているんだ。」
「ここを出て行ってしまうんですか?」
「いずれはね…他にも理由はあるんだけど、まあそんな俺について歩いて危険な目にあったりとかするかもしれない、それにシルメリアは王女様だろ?その辺のこともしっかりと考えてからもう一度同じことが言えるかどうか…」
「そう…ね。じっくりと考えてみます。」
シルメリアは軽く頭を下げ部屋を出て行った。気のせいか泣いていた気もする。少しもったいないことをしたかなと思いつつ、アンジュをどうするか再び考えることにする。
▽▽▽▽▽
「───というわけでアンジュだ。」
次の日の朝適当に理由をつけてアンジュを預かることになったことをみんなに伝えた。特に問題もなく紹介が出来てほっとしている。昨夜のことが原因なのはわかっているがシルメリアが元気ない。
「ルーナとスフィアに面倒見てもらうからみんなはいつも通りでお願い。」
「えー明日の休みとか一緒に出かけたりとか…だめ?」
「大勢で出歩くのは簡便してあげて。」
「じゃあ私と2人だけとか。」
「エルザと2人とか…余計だめじゃない。」
「アルタ…あとで覚えておきなさいよっ」
朝の食堂は大変にぎやかである。いろんな会話が飛び交っていて初めて体験するアンジュは少し萎縮してしまっている。アンジュの羽の問題はルーナとスフィアが一緒にお風呂に入ることにし、脱衣所の入り口も封鎖してもらうことで極力見られないように対応することになった。
「そうだソーマさん。そういえば今日でここ最後で宿復帰でしたっけ。」
「ああ4日後宿をあけるつもりだよ。」
「しばらく離れてましたけどお客さんとか大丈夫ですか?」
「こればかりはなんともいえないね…」
ふむ…折角宿が直ってもこのままだと誰もこないかもしれないな…何か少し手伝えないだろうか。
「えーとソーマさんたとえばですよ?この店を開けたときにしたようなサービスって出来たりしませんか?」
「あーたしか薬購入者に開店3日だけおまけつけてたやつかな?」
「そうそんな感じの。」
「うーん…なにぶん宿だからね、何が出来るか…」
宿で出来ること…寝泊りと食事か。
「宿代をその期間だけ安くするとか…あとは食事のサービスくらいしか思いつかないな…」
「ポチ君食事のサービスくらいなら出来そうだ。」
「あ、じゃあほらエレノアに教えたクレープとかどう?」
「ん?クレープがどうしたの?」
どうやらエレノアは話を聞いていなかったようだ。再開する宿のサービスについてさっきまで話していたことを教える。
「あーなるほど…いいかもしれませんね。1食は流石に厳しいから1品って所かしら?」
ポチのアイデアで進めるらしくソーマとエレノアがもう少し細かく内容を決めるらしく店が開店するまで部屋で話し合うそうだ。
2人が部屋にいってしまったことで各自今日の仕事の準備の行動に動き始める。今日はアルタとエルザがフィリアと一緒にダンジョンに行くことになっているので、2人にまかせてポチは森へ行くことにした。みんなが仕事をしている間アンジュは出入りが自由になったので適当に店を手伝ったり、スフィアやルーナが動ける範囲で外へ連れ出してくれるそうだ。
オリオニスの森へ向かうためポチは東門のところへやってきた。すると門を出たところでなにやらもめる声が聞こえてくる。
「だ…だから急がないと首輪がっ!!」
「それはわかるんだが…手続きはいるからな~」
首輪とか手続きとか何の話だろうか…
「ひ…っあぐっ」
首輪がどうとか言っていた女の人がその首輪を抑えながら苦しみ始めた。その苦しみ方から見てどうやら首輪が首に食い込んでいるのがわかった。
「大丈夫ですか?」
女性に近づいたポチはまず首輪を確認する。ひっぱって見るがびくともしない。
「この首輪がなんで絞まるのかわからないけど…」
ポチは首輪に触れると『練成』で首輪のサイズを広げひとまずそのまま維持を続けることにした。維持を続けながら門に立っていた衛兵に質問をする。先ほどから女性の方は意識を失っていて話を聞けないのだ。
「この人はなんでこんなことになっているんだ?」
「ああその人は奴隷だな。で、その首輪が目印なんだが、契約者から一定距離離れると首輪が締まってしまうんだ。まあ逃走防止ってヤツだな。」
「奴隷って…じゃあこの人は逃げてきたってこと?」
「あー違う違う…余所見かなんかしてたんだろうさっき契約者のほうだけ門くぐって言ったからな。」
じゃあ手続きって…この人が門をくぐるための手続きってことだったのか。それにしても奴隷とかいるんだな…
衛兵が手続きが済んだことを教えてくれたが女性は意識を失ったままだった。ポチは首輪のサイズを維持するために首輪に触れ続けているしかない。その様子に見かねた衛兵は女性を背負う。
「ちょっとこいつ届けてくるわ。」
「あーまたかわかった。」
首輪の維持はやめるわけにいかなかったのでポチもそのままついていくことになった。その間に気になっていたことを聞くことにした。
「あの…またって…?」
「ああ、こいつは今回初めてじゃないんだ。どうもよそ見が過ぎるのかよくこういったことを起こす。今まで生きていたのが不思議なくらいだ。」
東門から入ってわりと目的地は近かった。すぐ左手に進んで少しすると馬車が止まっている建物の前から人がこちらへ向かってくる。その人物がこちらに近づくと首輪の締まりが止まった。どうやら契約者のようだ。
「わざわざすまんね。」
「いえいえ、今回はちょっと危なくてこちらの方が助けてくれたんですよ。」
衛兵がポチのほうを見ると首輪を持っている手を眺めた。首輪のサイズがかなり違うことを驚きつつもまずは挨拶をしてくる。
「サフィール商会のヨハン・サフィールと申します。今回は私の奴隷を助けていただきありがとうございます。」
「あーポチです。ポチの薬屋さんって店をやっています。」
「おや、商人でしたか。でしたら人員にお困りになりましたらぜひ私の店で奴隷購入の検討にいらしてください。今回のお礼にお安くさせていただきます。」
もう問題がないことがわかったので首輪を元に戻したポチは衛兵とヨハンさんと別れるとオリオニスの森へ採取に向かった。今日はエルフの集落がかなり遠かったので顔を出すのをあきらめ、採取を終えると店に帰ることにした。
店に戻ったポチは今日アンジュがどうしていたのかを聞くと店の手伝いが出来たことが嬉しかったらしく楽しそうに話してくれた。
「ポチ様は森へ採取でしたよね。どうでした?」
今日採取に行ったときに門であった事を話すとアンジュの顔がゆがんだ。やはり奴隷と言うのはあまりよく思われてないようだ。
「奴隷ですか…」
「ああ、俺も初めて知ったんだけどねこの町に奴隷がいたの。」
まあ奴隷と言う存在自体初めて知ったんだけどね。
「私も話に聞いただけなので知らなかったんですけど…昔有翼人がよく奴隷になってたって。」
「あーじゃあもしかしてそのせいで有翼人が減って?」
「かもしれないです。」
なんとも言えない空気になってしまったので話は切り上げ店の様子を見に行くことにした。




