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30話 有翼人のお泊り

 なんでそんなところから入ってきたのかわからないが、ルーナを呼ぶと窓から入ってきた。流石にこれには部屋にいた全員が驚きルーナに視線が集まった。普段ぼんやりしているスフィアですら何でここから?見たいな顔をしていたので余程だろう。


「えーと…ルーナが管理してる家だから知っておいて貰おうと呼んだんだけど…」

「はい、こちらのお客様のことですね?」


 部屋に入ってきたルーナはすでに2人のことに気がついていたようで、視線はそちらを向いている。まあ気がつかないほうがおかしいのだが。


「レム…と?」

「アンジュです。」


 気のせいかこの家に来てからレムが不機嫌そうだ。ルーナに会ったアンジュはちゃんと挨拶しているのにレムはそっぽを向いている。


「スフィアのとこじゃないのかよ…」

「私の家で悪かったわね…相変わらず態度の悪い…」


 どうやらこの2人はあまり仲がよくなさそうだ。


「えーとルーナ。アンジュの体調が戻るまでみんなに内緒で滞在するからお願いできるかな?」

「それはいいですけど…今部屋が足りませんよ?」

「それなんだよね…まあ2人にこの部屋使ってもらって俺は仕事部屋にでもいるから、それでいいかな?」


 ちゃんとした部屋じゃないと休まらないだろうからということでポチは自分の部屋を差し出す。…がどうやら納得しているのはポチ一人だけだったようだ。


「そんな!家主の部屋をうばうなんていけません…」

「そうだぜ…さすがにそれは気が引ける。」

「それについノックに反応しちゃったらどうすれば…」


 そこはちゃんと反応しないでください…


 仕方がないのでお互い精霊を見える状態にしたまますごすことにして一緒の部屋で過ごすことに決まった。


「あ、そういえば主様。アストロン様を部屋を案内しました。」

「あ、来てたんだ。じゃあ顔出しておくね。」


 用事は終わったと判断したらしくルーナは再び窓から出て行った。


「…えーと後でルーナが食事持ってきてくれるはずだからこの部屋で休んでて。」

「はい、ありがとうございます。」


 ポチは部屋を出ると最後の空き部屋だった場所へ足を運んだ。ここしか空いてなかったのでアストロンはこの部屋にいるはずだ。


「はい、どうぞ?」


 ノックをするとすぐ返事が返ってきた声からするとアストロンで間違いなさそうだ。扉を開け中に入るとちょうど荷物の整頓をしていたとこのようだ。


「あ…えーとそういえば名前まだ聞いてなかったです。」


 すっかり忘れてたアストロンは名乗ったのにこちらは教えていなかった。


「えーと、この店の店長してるポチです。」

「ポチ…殿ですね。これからお世話になります。」


 頭を下げアストロンは笑顔を向けてくる。…うん、女の子にしか見えない。


「部屋以外は案内してもらった?」

「はい、精霊が案内してくれました。」


 精霊という言葉を言うときアストロンの顔が少し曇った気がするのだが気のせいだろうか?昨日も精霊がいることを知って驚いていたし、少し気にかけておいたほうがいいだろうか。


 部屋を見渡すとそれほど荷物が出ていないほとんどストレージの中ということだろう。


「荷物すくないんだね。」

「あ、はい。必要最低限しか持ち歩かないので。」


 なるほど…あ。そういえばシルメリアがここに来たころ渡しそびれた荷物まだ返してないや。この後にでも行ってくるか。


 軽く店のことを説明し、もうじき食事だから食堂に来るように言うと、次はシルメリアの部屋へポチは向かった。…といってもそれほど広い建物じゃないので少し歩くだけでもう部屋の前につく。扉の前でノックをして返事を待つ。


「いないのかな…?」


 もう一度だけノックしていなかったらまたにしようとしたとき、中から声がした。


「ふぁい…?」

「シルメリア今ちょっといいかな?」

「ん~…?うん、らいじょうぶ…」


 部屋に入る許可をもらえたので中へ入ると、疲れていたのか中途半端に服を脱ぎかけて寝ていたらしく、ぼんやりとした顔のシルメリアがベッドの上で座り込んでいた。


「………」

「んー…と何の用ですかぁ~?」


 回れ右をしてポチはすぐ部屋から出た。


 ……うん、またにしよう。


 シルメリアの部屋を出た後、ポチは一度倉庫へ在庫確認へと足を運んだ。ざっと見た感じ特に問題はなさそうだ。その後そのまま食堂へと足を向ける。中に入るとまだ全員はそろっていないようで、人数はまばらだった。すでにシルメリアはきていて椅子に腰掛けている。反応が普通のところを見るとさっきのことは夢か何かだと思っているようだ。


 それから全員がそろった後食事が始まり、各自風呂へ行ったり部屋へ戻ったりしている。どうやら今日も女の子達でそろってお風呂に行くようで、2階にいる人数がへる。このタイミングで部屋で待っている2人に食事を持っていくようにポチはルーナに頼んだ。


 少しだけ時間を空けてから部屋に戻ると2人は食事を終え、ぼんやりと座っていた。そんな様子を横目で眺めながらポチは机に向かった。そのポチの行動が気になったのか横からアンジュが覗き込んでくる。


「その本はなんですか?」

「ああ、これは錬金術で作れるものの材料などが書いてある本だよ。」


 手に持っている『錬金術師指南書』の開いてあるページをアンジュに見せる。


「材料の入手先が書かれてないあたりがちょっと不親切ですね。」

「そうかな?まあそこまで困らないけど。」


 ポチは再び本に視線を落とすと、現在作れるものや合成出来る物を確認していく。『調合3』で覚えたものの中にはどうやら合成できるものはないようだ。


 そういえばこの『爆弾S』まだ作ってないな…後で少し作っておくか。


 最近アイテムでモンスターを攻撃することをしていなかったポチはすっかり忘れていた。よく考えたらこのアイテム達は誰でも使えるのだから、爆弾とかも他の人でも使える可能性があることの確認をしていなかったことに。


 明日あたりフィリアにでも投げてもらおうかな。


 そんなことを考えながら次のことに目を留める。『調合4』で覚えるリストだ。



 名前:ハイポーション

 効果:体力を25%回復する。


 名前:麻痺消し薬

 効果:麻痺状態を解除する。


 名前:氷結瓶

 効果:投げると凍る。



 うん、ハイポーションと麻痺消し薬は使えそう。でも氷結瓶は凍らせるだけだったらあまり使い道がなさそうだ。作れるようになったら一応作ってはみるけど、ストレージの肥やしになりそうだな。


 材料の入手場所については近いうちにギルドで確認するとして、ポチは『爆弾S』をいくつか作ることにした。


「とりあえずこれだけあればいいかな…使わないかもだし。」


 『爆弾S』を作り終えたポチはその時になってようやく気がついた。さっきからアンジュが落ち着きがなく部屋をうろついている。


「どうしたの?」

「ああああのっ私どこで寝ればいいですか?」


 うん、忘れてたね…作る作業に集中しすぎた。


「そこのベッドつかっていいよ?」

「え…じゃああなたはどうするんですか?」

「んー…ソファーでも床でもどっか適当に?」

「いやいや…それなら私がそっちで寝るよ?」

「ちゃんと寝ないと休まらないよ?」

「あう…」


 それ以上何も言えないようでアンジュは黙ってしまった。


「一緒のベッドでいいんじゃねーか?」

「「えっ?」」

「アンジュはまだ子供だし、問題ないだろう?」

「うーん…アンジュがイヤじゃないならそれでもいいけど…」


 レムの提案にポチは頷く。アンジュのほうを見るとどうしたらいいのか視線を彷徨わせていて眺めていると子犬のようにも見えてくる。


「だ、大丈夫です!あの…寝言とか聞こえても笑わないでくださいね…?」


 だんだん犬属性の妹に見えてきて、ちょっとかわいいかもしれない。




▽▽▽▽▽




 ふにふに…ふにふに…

 

 なんか手に柔らかい感触がある。まだ少し重たい瞼をそっと開けるとポチの腕の中に白い羽の生えた女の子がいた。寝息が聞こえるところを見るとまだ寝ているみたいだ。手が触れているところを確認するとどうやら目の前にいるアンジュのお尻だったようだ。ポチは起こさないようにかつ、すばやく手をどけそっとベッドから降りる。


「無意識…だろうな?」


 すぐ傍で声がした。どうやらレムは起きているようだ。怒っているようで声もだけど顔も怖い。


「触ったのは無意識だよな?」

「当たり前じゃないか…とりあえず幼女趣味はないです…」

「じゃあ黙っておいてやる。次は…ないけどな?」


 あー心臓がバクバクいってる…レムこえーよ!


 レムとアンジュを部屋に残しポチは食堂の方へ向かう。どうやら今日は1番のりだったらしくまだ誰も来ていなかった。


 ちょっと来るの早かったかな…まあ『錬金術師指南書』でも読んで待っていよう。


 次にやってきたのはルーナだった。この家の精霊だけあってちゃんと朝から行動しているようだ。


「主様はやいですね~。今から作りますんでもうしばらくお待ちください~」


 厨房へとルーナが消えてからまもなくスフィアがやってきた。やはり宿屋行ってから来る分少し遅くなるようだ。


「おはよう。スフィアは宿の掃除してから来たの?」

「…今何かしたら怒られる。」


 あーそういえば修理の最終段階だっけ…それで追い出されたようなこと言ってたきがする。


「ルーナ手伝う…」


 スフィアも厨房へ行ってしまったので再びポチは1人になってしまった。それから少しするとアルタが食堂へやってきた。


「あらポチ早いのね。」

「おはよーアルタ。」

「ポチは今日もフィリアと採取かしら?」

「その予定だけど…ちょっと試したいことがあって、これがうまくいったらダンジョン1F固定で1人で狩れるようになるとおもうよ。」

「へ~でもそれだとレベルが上がらないよね?」


 ポチの正面に座ったアルタが地下1F固定ではレベルが上がらないんじゃないかと言う心配をしてきた。


「まあそうだろうね…たまに違うとこに連れて行けばいいんじゃないかな。」


 そんな話をしているといつの間にかみんなそろっていて食事が出来上がった。みんなといっても相変わらずエルザが起きてきていなくてアルタが起こしに行ったが…


 食事が終わり各自仕事の準備が始まるとほとんど人が家側にいなくなるので、この隙にアンジュとレムに食事をしてもらおうとポチは部屋へと足を運んだ。


「アンジュ、レム。ポチだけど。」


 軽くノックしてから声をかけ扉を開ける。いきなり開けると流石に心臓に悪いだろうという配慮だ。部屋に入ると窓から気持ちのよい風が入ってきていた。


「あれ…レム?アンジュ?」


 部屋には誰もいなかった。姿を消しているのかも知れないとあたりを見回すが、ポチにはよくわからない。


「主様…」


 食事を持ってくるはずのルーナが手ぶらでやってきた。


「つい先ほど2人は窓から出て行きましたよ?」

「え、そうなの?」

「はい、そこの机に置手紙がありますね。」


 たしかに机の上に手紙が乗っていた。その内容は寝る場所と食事のお礼が書かれただけの簡単なものだった。


「まあアンジュの魔力の回復だけだし、1日あれば回復するか…」


 開いている窓を方を見ながらポチは一言もらすと窓を閉め店へと足を運ぶことにした。

 今日からアストロンが店に立つ。ソーマさんとエレノア、それとシルメリアが教えながら仕事をやることになっている。


「そういえばアストロンは職業で商人は持ってる?」

「はい、ありますよー2番目ですけど~」


 どうやらポチと同じで商人は2番目らしい。これなら全然問題なくポチの変わりに店の開け閉めが出来る。


「おはようございます!」


 従業員用の出入り口からフィリアが元気よく現れた。やる気十分だ。


「店長!今日の私の仕事はなんでありますかっ!」


 うん…キャラ変わりすぎじゃないかな。まあ最初は遠慮してたのかな…?子供は元気なほうがいいね!


「そろそろ時間かな…フィリア今日も一緒にダンジョンいくよ。」

「は~いっ」


 店を『開店』させてからポチとフィリアはダンジョンへと向かった。


 

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