6:400年の時空を超えて
ファルコンZ:6
『400年の時空を超えて』
定石通り『あ いたかった』から始まった。
しかし、メンバー登場の瞬間から違った。なんせ400年前のアイドルグループである。その全記録は観客のハンベ(ハンドベルト=腕時計型携帯端末)に取り込まれている。過去のライブやテレビの収録などの全てが出回っている。下手に加工しても、ファンはたちまち解析し「加工だ!」「ただのデジタルだ」と、騒ぎ出す。マースアリーナ2万の観客を納得させるのには、デジタルホログラムの再現だけでは済まない。
「あ、いたかった♪」
第一声から観客はどよめいた。登場から歌い出しまで、観客のハンベに記録されているどのメモリーとも一致しない。まさに400年前のアイドルグループが、初めて火星に来たら、こうなるだろうというリアクションであったし、パフォーマンスであった。
「400年の時空を超えて、やってきたわたしたちですが、こんな歓迎は予想していませんでした」
「おー!」という観客の反応。それに大きく頷きながら、MCのベシャリは続いた。
「今は、火星は独立しましたが、わたしたち、そしてファンの皆さんの心に国境はありません。それでは聞いてください『万年桜』」
静かな卒業ソングであるので、観客席は水を打ったように静かになった。
「桜の花の~♪」
アイドル達は前を向いているが、呼吸は観客のそれと完全にシンクロしていた。中には、もう泣き出す者も出始めた。
「ミナコちゃん、凄いですね……」
無口なバルスが、ブースの外で呟いた。
「船長の狙いは予想通りね」
コスモスが続く。
「こんなAKB、初めてだ……」
ポチまでも、大人しく聞き入っている。そして三十曲の予定にアンコールが二回入り、最後のMCのスピーチになった。
「みなさん、本当に、今日はありがとうございました。元々は地球の人口過剰の対策から、まあブッチャケ始まった火星移住。でも、皆さんは、けして地球を捨てたのではありません。うまく言えない、言えませんけど。みなさんのご先祖は、夢を持って150年前火星の地に降り立たれました。そして孫や、ひ孫や、その先に繋がるみなさんに夢を託されました。おめでとうございます。その甲斐あって、火星は独立五周年を迎えられました!」
盛大な拍手と、鼻をすする音がした。
「言っていいのかな……開場前に、みなさんの中で、ちょっとしたトラブルがありました。極地方の開拓団とキャピタルのファンの方の間で、ちょっと元気すぎるコミニケーションがありました。危うく大げんかになるとこでしたが、誰かが『みんなAKBのファンじゃないか!』そう叫んで収まったんだそうです。それ聞いて、わたしたち、とっても嬉しかったです。わたしたちを愛してくださる心が、みなさんを一つにしたんです。本当にありがとうございました!」
「そうだ、いいぞ!」
「火星は一つ!」
「住む場所は違っても、人類は一つだ!」
大拍手が起こり、いつしかMCのリーダーの提案で、国務長官の息子と極地開拓団の代表が舞台に上がりハグし合っていた。
「それじゃ、みなさん。いつの日か400年の時空を超えて、またお会いしましょう!!」
そして、ステージの奥に道が出来て、10メートルほどの、その道を通り、緩やかなスロープを上り、名残惜しそうに、手を振りながら、その先のプラットホームでメンバーがゆっくり遠ざかっていく……。
「お疲れさん。大したもんだ、これほどとは思わんかったで!」
いつの間にか戻ってきていた船長がミナコをねぎらった。バルスとコスモスも拍手し、ポチもそこら中を走り回って、喜んでいた。
「あ、ども。ちょっと地球に着くまで休ませてください。さすが、100人のアイドルのオペは……」
最後は、言葉にならなかった。バルスに抱っこされて、キャビンのベッドに優しく寝かされた。
「例のガジェットは……?」
コスモスの問いに、マークは黙って頷いた。
「……では、予定通りの進路に進みます」
ファルコンZは地球には向かわなかった……。




