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ファルコンZ  作者: 大橋むつお
4/29

4:なに赤い顔してんだ?

ファルコンZ・4 

《なに赤い顔してんだ?》  

        


 

 火星は近日点距離なので早く着くとは思っていたが、2時間で着いたのでびっくりした。

 並の反重力船なら5時間余り。そのつもりでミナコは、このファルコンZを探検しようと思っていた。


 この船は怪しい。


 船内いっぱいのガラクタ。400年前の軽自動車。誠実そうだが、なにか隠しているコスモスとバルス。ハンベ(ハンドベルト型情報端末)にポチから送られてきた膨大な情報。そして船長室で見つけたH系ガイノイド。


 ハンベは、ミナコが一番知りたがっている圧縮情報から解凍していく。


 なんと、最初に出てきたのは、例のH系ガイノイド。


 思わず顔が赤くなる。身長・体重・3サイズから始まり、マーク船長がセッティングした、その……H系のスペック。もういい……そう思うのだが、深層心理のところで知りたがっているのか、情報は具体的なイメージでミナコを刺激する。


「なに赤い顔してんだ?」


 コクピットの補助席から動けずにいるミナコを、船長が冷やかす。


「なんでも!」

「ポチ、大事なショーのオペレーターなんだ。イタズラはするなよ」

「ワン!」

「ち、都合が悪くなると犬になりやがる」


 最後にガイノイドの名前がミナホと分かって、むかついた。自分と一字違いの名前。そう言えばスペックの最初に出てきた身長・体重・3サイズはミナコのそれといっしょであった。合成骨格も95%ミナコと同じである。


 ミナコは決めた。このバイトのあいだ、船長の2メートル以内には近づかないでおこう!


「その心配ならいらん。おれはデジタルショーの間は、他の仕事をやってるから」

 まるで、自分の気持ちを見透かされたように言われ、ミナコは息が止まりそうになった。

「ボス、間もなく火星の周回軌道に入ります」

「もう、着いたの!?」

「こいつは並のジャンクシップとちゃうねん……そやけど、バルス。デリケートにチューンしすぎやな。大気圏突入時のショックが大きそうや!」

「その分、早く着きます」

「半周分早く着いたって仕方ないやろが!」

「先々のために、いろいろ試してるんです」

「嫌なこと思い出させてくれるやおまへんか……ミナコ、揺れるぞ。舌を噛むなよ!」

「……気絶してます、船長」


 気づくと、一番マシなキャビンに寝かされていた。


「ここは……」

「マースキャピタル宇宙港よ。よかった、宇宙酔いにもなっていないようね」

 コスモスが、ずっと付いていてくれたようだ。

「船長、ミナコちゃんが目覚めました……ええ、大丈夫です。いま船長が来るわ」

 ミナコは、目を三角にしてブランケットを目の下まで引き寄せた。

「嫌われたもんやな。ほなら、お互いさっさと仕事にかかろか。おれ、2メートル以内には近づけないんで。コスモス、あとはよろしく」


 船長は、コクピットに戻っていった。


「さあ、ミナコちゃん。わたしたちも行きましょうか」


 火星の地球化は、六分の仕上がりといったところである。


 地球並みの大気があるのは赤道から南北に20度ぐらいまで。海は数か所の凹部を利用して、やっと地中海程度の広さで、まだ大気循環させるほどの力は無い。水は地球からの輸入と、地中の岩石に含まれるものや、南北の極にある二酸化炭素の氷に水素を反応させ合成したものをパイプで赤道方面に送っている。ここ10年でやっと自給できる水が輸入を上回ろうとしている。 



 そんな火星の中心がマースキャピタルで、人口は1000万人ほどである。火星移住が始まって150年。ほんの5年前に地球から独立したばかりだ。


 その独立5周年行事の一つが、このデジタルアイドルショー……だということは、ファルコンZが飛び立つのを見送りながらコスモスが教えてくれた。


「え、そんなビッグイベントだったの!?」

「そうよ、それだけのギャラは、支度金名目で振り込んであるでしょ」

「え……3の下にゼロが……6個も付いてる!」

「じゃ、行きましょう。あと5時間でマースアリ-ナが、2万人の観客で一杯になるわ」


――こいつら、いったい……!?――


 喜びとも怒りともつかない感情で、体が震えるミナコであった。

 




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