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ファルコンZ  作者: 大橋むつお
14/29

14:音楽革命

ファルコンZ 14

『音楽革命』             




☆……三丁目の星・2


「とりあえず、アメリカンポップスでいこうと思うの」


 ミナホが、そう言ったとき、陽子の方がピンときた。

「あー、コニーフランシスの『VACATION』とか!?」

「そうそう、アメリカでも流行りだしたばっかり。それを先取りして、まずブームを作るの」

 ミナコはハンベからロードして、すぐにアメリカンポップスを理解した。陽気でテンポが良くて、なによりハッピーになれそうなミュージックスタイルが気に入った。


 三丁目星の日本では、当時は歌とは、じっと立って、美しい歌声をみんなで静かに観賞するものだった。一方ではロカビリーが流行り、一部の若者には絶大な人気があったが、当時としては過激すぎるスタイルに、大方の大人は眉をひそめ、これにのめり込む若者は不良のように見られていた。

 そこで、少しお行儀がよく、普通の若者でもスッと入ってこれて、テレビを通してお茶の間に流れても違和感が少ないアメリカンポップスに的を絞ったのである。むろん考えたのはマーク船長。ミナホは、それをロード……するのでも、プログラムされたわけでもなく、共感してリードしているのである。


 陽子は、実家の蕎麦屋からやって来たままのセーラー服である。しかし、そのリズム感や音楽の感性の良さは顔に出ている。

 小顔で、目がパッチリとして、ポニーテールがよく似合っている。


「あなたは、本名の伊藤陽子、ニックネームはヨーコ。わたしとミナコは……ザ・チェリーズの双子デュオでいくわ」

 ミナホの言葉の十分後には、プロダクションのスタジオで選曲に入るという、ハイスピードな展開になった。


 その週末、土曜の昼下がり、新宿の駅前に中型のトレーラが荷台同士でドッキングした。


 トレーラーのドテッパラにはマークプロ、ステージキャラバンと電飾付きで書かれ、それがパカっと開くと、十メートルほどの間口のステージが出来上がった。

「なんだ、なんだ?」

 土曜を半ドンで終わった、学生やサラリーマンBG(当時はOLという呼称ではなかった)が、歩を緩め、やがて立ち止まり、ステージを取り囲んだ。

 トレーラーの中には、ステージのセットや照明、PAの機材が組み込まれていて、あっと言う間にライブの用意が調う。

 このトレーラーステージは二十一世紀に本格化したもので、この時代には存在しない。


 むろんマーク船長やバルスが、ジャンクから作り上げたものである。音響はトレーラー自体にパネルスピーカーが張られ、タイヤのホイールが重低音のウーハーになっている。

 LEDの照明に、ドライアイスがモクモク。エフェクトスモークにレーザーが幾筋も際だって、ペチコートたっぷりのストライプの衣装で、陽子が『VACATION』を歌い出す。

 二番になると、トレーラーから四メートルほどの花道が延び、陽子は花道を囲む観衆の中に入っていく。

 ステージには、ホログラムのバックダンサーが現れ、観客の度肝を抜く。

 陽子は、それに負けない歌唱力と、魅力で観客を引きつける。

 陽子の次は、ミナコとミナホのデュオ。陽子とは交互に歌って観客を飽きさせない。


 新宿の駅前は、またたくうちに一万人以上の観客で満たされる。一応警察には駅前の使用許可はとってあるが、急遽出動した交通整理の警官隊はいい顔をしない。

「それでは、みなさん、最後の曲です『ソレイユ・デ・トウキョウ』聞いてください」


 くだけたポップス系の曲で、歌詞とフリが覚えやすく、三番に入ったころには見よう見まねで、体を動かす子どもたちも出てきた。

「それじゃ、みなさん。次は渋谷に行きます。新宿にも、また参りますので、よろしく!」

 三人が手を振ると、満場の拍手。


 ステージは一分ほどで、元のトレーラーに戻って、渋谷を目指した。


「こんな興奮生まれて初めて。NHKの素人喉自慢の百倍楽しかった!」

 陽子は目を輝かせた。

「アイドルチップの力ってすごいわね!」

 ミナコも感心した。ミナコは古典芸能としてのポップスには強いが、自分が歌って、こんなに楽しいとは思わなかった。


 アイドルチップとは、昔は脳に埋め込んだアイドルスキルのチップだったが、今はハンベを通して、脳神経そのものを、アイドルに向いた因子に組み替える。


「ふん、こんなの地球でやったら、違法行為だぞ!」

 ポチが、不満げに言う。

「あら、ポチだって、違法ロイドのくせして」

「そういうコスモスだって!」


 その日は、そのあと、渋谷、池袋を回った。


 明くる日の新聞は、このトレーラーキャラバンのことで大きく紙面が割かれ、テレビやラジオでもニュースで取り上げられた。


 三丁目星の、音楽革命が始まった……。



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