10:墓標の群れ
ファルコンZ 10
『墓標の群れ』
☆……惜別の星 その一
「なんで、この星に寄らんとあかんのかね……」
「ファルコンZの意思です」
「クライアントの注文か?」
「区別がつきません。船長のチューンがデリケートなんで。それにしても、何もない星ですね」
コスモスが、珍しく機嫌が悪い。
「ここって、なんの星なんですか?」
タバコをふかしだした船長と、機嫌の悪いコスモスの代わりにバルスが言った。
「百年ほど前は、人類が到達できる、もっとも遠い星だったんだ。だから、ここから先に行く奴は命の保証がない。それでも宇宙の魅力に取り憑かれたやつらは、ここから旅立って、その大半は帰ってこなかった」
それで、この星は寂しいんだ。西部劇のゴ-ストタウンみたい。ミナコは、そう思った。
「取りあえず、宿へ行こか……」
「ここに泊まるの?」
「ああ、そういうシキタリでな……」
二階建ての酒場と宿を兼ねたような建物だった。
「おーい、だれか、おらへんか!」
「船長、そこのボードに……」
フロントのボードに色あせた紙が貼ってあった。
『下の畑にいます』
不思議なメモで、日本語にも英語にも中国語にも、ミナコには分からない言語にも見えた。まるで宇宙港のインフォメーションボードのようだったけど、なんの仕掛けもない。ただの日に焼けた紙きれだった。
「船長みたいな男は、他にもいるってことさ」
バルスは、そう言いながら出口に向かった。嫌がっている船長以下を促すように。
灌木の坂道を下ると、広い麦畑に出てきた。
弁髪の老人が、よちよちと蟹歩きをしていた。ミナコたちに気づくと、ウロンゲに見つめたが、何かに気づいたようで、パッと明るい表情になり「こっちへ来い」というサインをした。
「いやー、マークのボウズじゃねえか。その稼業でここに寄っちゃ、足がつくぜ」
「それがなあ……」
「今回は、正式なクライアントからの輸送業務なんです。これが依頼状です。ちゃんと連邦政府の認可が下りてます」
コスモスが、空中にバーチャルモニターを出して見せた。
「こんな畳みたいな大きさにせんでも見えるよ。コスモスは気を遣いすぎる」
「わたしのこと、分かるんですか!?」
「以前とはボディーが違うが、個性はコスモスだ。このボーズがイジリ倒しても、ワシには分かる。以前は、もっとコケティッシュなガイノイドだったが」
「このバルスとコスモスは化けもんや。このごろは自分で勝手にバージョンアップしよる。今はうるさいカミサンと、親類のオッサンみたいなもんや」
「いいトリオだ。しかし、この依頼状は正式だが、こんなクライアントは存在せんぞ」
「一部上場企業だぜ。運輸局の審査も通ってる」
「壮大なダミーだ。運輸局の審査を通ったってことは、地球規模のイカサマだ。マークほどのボウズが知らんわけじゃないだろう」
船長は苦笑いするだけだった。コスモスの機嫌はいつのまにか直っていた。
「そのお嬢ちゃんたちは? 一人はガイノイドのようだが」
「今度の積み荷の一つさ。もっとも届け先は、もっと先に行かなきゃ分からんが」
「ということは、輸送目的も分かってないな」
「ああ……」
ミナコは、その言葉に不安になった。
「ちょっと、ちゃんと約束通り帰してくれるんでしょうね!」
「そりゃあ間違いない。依頼状にもミナコは帰すように書かれてる」
「こういう書類は、読み方次第なんだが……まあ、マークの読みは間違いなかろう。大きなところではな。そうでなきゃ、ここに無事に立っているわけがないからな。まあ、つもる話は麦踏みをやりながらやろう。あの畑の端まで手伝ってくれ」
「ああ、いいよ」
畑は、歴史遺産の東京ドームの倍ほどあった。ミナコはゲンナリした。
オジイサンの名前が李赤ということは、そのあとの自己紹介で分かった。
で、「昔はなあ……」という枕詞が付く話を百ほど聞いて、やっと、麦畑の端まで来た。
そして、息を呑んだ。
町の下に麦畑、さらにその下に広がっていた。
一面、地平線までもあろうかという墓標の群れが……。




