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マージナル・マン  作者: 長芦ゆう
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スクワット・マン

「スクワット十回で、百文字だ」


 全身白タイツのおっさんは、きょとんとした青年を前に、話し始めた。

 通常であれば、「不審者が出た!」と騒ぎになるところだが、この場合はそうでもなかった。

 おっさんの身長は、ちょうど青年の人差し指と同じくらいしかなかったのだ。


「ああ、急に出てきたものだから、びっくりさせてしまったかね。私は『スクワット・マン』だ。よろしく」

「あっ、はい。……えっ、あっ」


 青年は、当然のことながら、現状にふさわしい言葉を見つけるのに苦労していた。

 程なくして、青年は冒頭の言葉の意味を考えた。


「『スクワット十回で、百文字』というのは、その、もしかして、小説のことですか?」

「うむ。君が最近夢中になっている、あるいは夢中になりかけているという、その物書きに、少しルールを設けさせてもらうのさ」

「ルール……つまり、スクワット一回につき、十文字書けるというのですか」

「そうだ。日頃の運動不足を解消できて、いいだろう?」

「そんな!いくらなんでも、その割合レートはおかしくないですか?そんなんじゃ、二千文字書くだけで、二百回スクワットをしなくてはならない。いくらなんでも、荷が重いです!」

「ふむ、確かに、原稿用紙五枚を書き上げるたびに、君のスクワット回数の限界値を強いるというのは、いささかやり過ぎだったかもしれない」


 青年が連続して続けられるスクワットの回数は、二百回程度であった。


「それでは、こうしよう。『スクワット二十回で、四百文字』だ。要するに、当初の半分でいい」

「ああ、それなら――」


 青年は安堵しかけたが、「スクワットを黙々とやり続けるのは辛い」というビジョンが視えた。

 そこで、彼は提案する。


「スクワット・マン。あなたに言うのは、非常に申し訳ないのですが、なにも運動不足の解消というのは、スクワットだけではありません。腹筋や背筋、腕立て伏せといった運動もあります。スクワットの代わりに、そういった運動の回数をててもよろしいでしょうか」

「うむ。スクワット・マンとしては、スクワットを極めてほしいところだが、君の言い分には一理ある。致し方ないだろう。その三つを代用として認めよう。ただし、条件がある」


 スクワット・マンは、スクワットをしながら、話を続ける。


「それは、『バランス』だ。例えば君は、背筋の運動が比較的楽だと感じている、とする。そういったときに、全ての回数を背筋の運動に充てるのはナシだ。必ず、実施した運動の回数は、均一でなければならない。ただしこれには例外があって、スクワットだけは、他の運動よりも回数を上回ってよいのだ」

「なるほど、わかりました」


・・・


 デスクワークを終え、バスに乗って帰宅した青年は、今日も元気に物語を綴る。

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