ダウンザホールバイブレーション
出雲は大型のハイブリッドをビットで確認したのち、その方向に視線をむける。
「こっちには気づいてないな。」
そう言いある程度の距離を置くと視線はハイブリッドを捉えたまま地面に座り込んだ。
「さて、超速で仕上げるか。」
そういうと出雲は袋から工具と大型の筒状の物を取り出し右腕に装備し始める。
カチャカチャとラチェットを使いボルトを締めたり、装備の周りに部品をつけていった。
出来上がっていく筒状の物はブツブツした円形の先端を4個揃えたギアのような形状をしており、出雲がスイッチを握ると緩やかに回転し始める。
そして、ダイヤルの出力メモリをマックスに調整すると準備が整ったのか出雲は立ち上がりオペに話しかけた。
「はい、オペの熊本です。」
「出雲です。準備完了したんで行きますよ。」
「了解。出雲くんのことだから、てっきり『リンカー』からのロッズでもぶち込むかと思ってたけど、その様子だとダウンザかい?」
モニター越しに出雲の装備を見た熊本が出雲に尋ねる。
「正解、さすが熊さん。ロッズはねー・・・あれは広範囲に被害出るから、なりかけがどこにいるかわからない今の状況じゃ使えないっすよ・・・それに固有資格に頼りすぎるのもねー。アレは切り札だし。」
「そうだね・・・じゃあ、オペはこっちに任して
よろしく頼むよ出雲くん。」
「了解!」
ひときわでかい声を出すと自分の頬をパンっと叩いた後、出雲はハイブリッドの方に向かって走りだした。
そこら中に開いた穴でぐちゃぐちゃの足場にもかかわらず、伸縮胴綱のウインチも使いながらひょいひょいと乗り越えて重装備もものともせずハイブリッドとの距離を縮めていく。
「出雲君左前方距離20。接触するよ。」
「おっけー熊さん。ハイブリッドは視認してる。ぶちかましますよ!」
そういうとハイブリッドに向かいさらに低い姿勢をとり右腕に力を込め突撃する。
近くまで来るとハイブリッドの大きさが格段に違うことが改めてわかる。そのハイブリッドは出雲の2倍以上ある巨体を揺らし、ズシンズシンと歩みを進めていた。
「大分でっかいなコンボしがいがあるぜ。」
「出雲くん。こっちの判断で布志名くんには救援要請をかけたよ。」
「了解、布志名が来る前に片付きますけどね。」
ハイブリッドもようやく出雲の存在に気づくと、雄叫びをあげながら右腕を振り上げ叩きつけてくる。
出雲はそれを体を回転するように捻りを入れてかわすと、すかさずハイブリッドの懐に飛び込んだ。
そして、右腕につけたギザギザした先端の突起をハイブリッドの懐に密着させる。
「貫けダウンザ!!」
掛け声とともに出雲の右腕についた筒状の先端のギアのような5連の円形のギアがゆるやかな回転から徐々に出力を上げていく。
その刃は岩を削り潰すかの如くガッガッガッと細かな音をたて、スクリュー穿孔を繰り返すとハイブリッドの硬い表を砕くように食い込んでいく。
そして、エアーがプシューと音を立てて砕けた表皮を吹き飛ばすと、次の瞬間一気に振動しハイブリッドの体を貫き穴を開けた。
「うし!」
その胸に空いた大きな穴を一瞬ハイブリッドは確認すると、狂ったような雄叫びを上げ近くにいる出雲に両腕でつかみかかろうとする。
だが、出雲はそれより早くハイブリッドの体を蹴り、その反動で突き刺さった右腕を引き抜くと、さらに後ろに宙返りし間合いをとり攻撃をかわす。
「二撃目!」
出雲は両脚に力を込め前に飛び込むと、胸に開いた穴に左手を力任せに振り抜きハイブリッドを押し倒した。
そしてピタリとハイブリッドの体に引っ付けた左手がプシューと大きな油圧の抜ける音を立てた。
「バイブロハンマー起動!砕け散れ!」
掛け声とともに凄まじい衝撃波を左手が放つ。
地面は陥没し、亀裂を走らせるとバイブロハンマーの衝撃がハイブリッドを地面に叩きつける。
その衝撃にハイブリッドの体にできた穴からは亀裂が生じ、全身がピシピシッと音を立てて軋むとビシッとひときわ大きな亀裂が全身に走った。
出雲はすかさずハイブリットを地面に力一杯押し付けるとバイブロハンマーの二撃目を解き放った。
「いっけぇぇぇ!」
地面に無理やり押し付けられたハイブリッドは、出雲のトドメのくらうと、バラバラの破片となり砂ぼこりとともに砕け散った破片は出雲の周りにキラキラと舞い上がった。
出雲はそれを確認するとその場にゆっくりと立ち上がった。
「討伐完了。」
「さすがバイブロ使いは違うねー。余裕だね。」
「バイブロの扱いなら負けませんよ。俺は引き続きなりかけの捜索を行います。」
「了解。周囲には他にハイブリッドの反応はないよ、出雲くん。」
その言葉を聞くと出雲はビット3機を起動し地下への探索を再開する。
「まってろよ、すぐに俺が助けてやるからな。」