固有資格
掃討作戦開始の合図より5分後。
「よお、両班長とも俺の声は聞こえるか?聞こえてたらお二人さん現在の報告よろしく。」
出雲が腕時計型モニターを見ながらヘッドレシーバー越しに布志名と宍道に合図を送る。
「こちら布志名、問題ない。」
「こっちも大丈夫っす。出雲くん。」
「オッケー。じゃあ二人ともその先はオペレーターの指示通り、説明したルートで慎重に進んでくれ。」
「『了解!』」
それを聞き出雲も自分の武器を確認したのち、A班、B班の後ろから進みだした。
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それから約10分後
G26地区付近 旧市街地 歓楽街
A班 布志名班は旧歓楽街をオペの指示通り進んでいた。
ハイブリッド残存予測エリアに入ったもののレーダーには一切反応がなく、ハイブリッドと一体も会う事はなくこういってはなんだかのんびりとしていた。
以前はにぎやかであったであろう街並みがそこら中にある看板から推測できるが、今はどれも明かりはついておらず人も見かけることはない。
「昔はここに凄く大勢の人が住んでたんですよね。津和野さん。」
八雲が不思議そうに崩れた街並みを見渡しながら、津和野に喋りかけた。
「そうだな。20年前はここを歩く人混みが煩わしかったのに、今じゃ誰もいない寂しくなったもんだ。昔を知る俺からしてみると信じれんよ。」
過去を知る40代の津和野がすこし懐かしそうに崩れ落ちた看板を触りながらあたりを見回す。
「僕なんか初めて閉鎖ゲート内に入りますよ。」
「八雲君は今日がゲートの中初めてかい?」
「はい、初めて入りました。こんなになってるんですね。」
「あぁ、今はこんなになっちまったが、またあの人混みだらけの街に俺たちがしなきゃな。」
「そうですね。俺たちで頑張りましょう。まずは今日のミッションを無事に遂行しましょう。」
話をしながら進んでいくと、掲示板に貼っていた地図に出雲が丸印をつけていた要注意エリア内に入るため、布志名はオペレーターに再度確認の連絡を入れた。
「布志名です。これよりハイブリッド予測エリアに入るのでオペレートお願いします。」
布志名がオペレーターに報告すると電話越しになにやらバタバタしているのが伝わってくる。そして、わたしわたしと遠くで聞こえた後回線が繋がった。
「お久しぶり布志名くーん。由里香です。元気でしたか?ここからは私が担当します。よろしくー。」
出雲の時とは声のトーン、喋り方があからさまに違う由里香は、相当布志名と喋るのが嬉しいのだろう。
「由里香ちゃんほんと久しぶり。今日はよろしく。」
「はー出雲君じゃないだけで幸せなのに、布志名君だと安心感も全然違う。今日は幸せだよー。」
「ははっ。それよりこの前は出雲がやらかしたみたいだね。」
「ほんっとあのバカは、あそこでバイブロなんか使う
本当に・・・」
出雲の悪口で盛り上がりながらもルート通りの道を進んでいく布志名達だったが、大きめのビルを通り過ぎた時有理香から通信が入る。
「ちょっと待って布志名くん。200メートル先の商業施設ビル内に多数の反応があるよ。えーと、数は20体くらい。反応からいうと多分鉄と鋼。なりかけはいないよ。」
布志名はそのオペに「了解」というと、八雲と津和野にその先のビルにハイブリッドが多数いることを指をさして教える。
その合図を受け八雲と津和野は武器を構える。八雲は長めの振動型電光ナイフを腰袋から取り出し、津和野は先端が電気を帯びている警棒のようなものを右手に取った。
布志名班はいつでも戦闘できるよう準備を整えると、商業施設内に布志名を先頭に入っていく。どこかひんやりした空気とともに錆びた鉄の匂いと腐食臭が漂う。
その刺激臭にも集中を途切れさせず、足元に散らばった腐った食料品や瓦礫を音を立てないよう乗り越えて進んでいった。
「その先壁の向こうに固まってるよ布志名くん。」
由里香からのオペを受け、柱に身を隠し壁の向こうを確認する布志名。
「視認できるだけで10体・・・確かに多いね。」
布志名はそう呟くとハイブリッドの動向を確認する。
ギリギリまで隠れながら進むとオペレーターの由里香に合図を送った。
「由里香ちゃん。数が多いから俺は固有資格を使うよ。」
「わかった布志名くん。ライセンスカードの読み込みお願い。」
由里香にそういわれると布志名は一枚のカードを取り出すと、携帯付属のスキャナーでそのカードを素早く読み込んだ。
『布志名 栞ライセンスカードの読み込み完了しました。固有資格で使用する個体特有特殊兵器の使用を許可します。』
「布志名君、こっちも承認したよ。」
「了解!」
由里香から許可が下りる。
同時に布志名は両腕についている機械のリストバンドを起動させる。緑色に点灯していくリストバンドは機械特有の音を静かに立てると、バチッ、バチっと細かく放電を開始した。
そして、布志名の両腕を起点に一気に電気の渦が出来上がりバチバチと瞬時に煌めいた。
布志名の固有資格
『ライトニングボルテックス』
「20年前に結びついたのが鉄と人間だけではないこと。エレクトリカの真髄、今からみせてやる。」
そう言うと布志名はハイブリッドに向かって歩み始めた。