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エレクトリカ  作者: ハリマトモアキ
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八色雷公

「勝たせてもらいますよ。忍海さん、蛇穴さん。」


 布志名はそう言うと、周囲を見渡し、雷を威嚇のように鳴らした。周辺を狂うように暴れる稲光はバリバリと空気を震撼させ、獲物を狙う矢の如く空間を切り裂いていく。まるでその雷は布志名の圧倒的なまでの力をあらわしているようだった。


 一方、布志名の攻撃を受け蹲る蛇穴は未だ何が起きたかわからない様子で、体についた雷紋をさすりながら思考していた。体を貫く痛みとも格闘しながら布志名に視線をあわすと、その圧倒的な力からくるプレッシャーを感じ取り、額からポタリと嫌な汗が流れた。


「っにが、どうなってやがる!」


 蛇穴の問いかけにたいして、ステルス迷彩のように姿を消していた忍海は、蛇穴の横に姿をいきなり現すと口を開く。


「最初は本気じゃなかったってことか...力をだせなかったのか、ださなかったのかわからないが...どちらにせよアレは想定外だ蛇穴。今まで以上に慎重にいくぞ。」


「っかりました。」


 忍海は冷静だった。圧倒的な力を見せつけられてもまだ、一瞬の隙があれば自分なら、布志名の喉笛をかき切ることができるという自信があった。


 忍海はいつでも冷静沈着に、訪れる機会を逃さず、猟犬のような眼差しは対峙したものに恐怖すら覚えさせずに息の根を止めてきた。


 忍海は再び固有資格『ドロフォノス』を使用し、空間に溶け込み、ステルス迷彩のようにレーダーからも、視覚からも姿を消すのだった。


「おおっと、これは、こっちでも波乱の展開でしょうか。少し映像を戻して見てみましょう。」


「そうですわね。それが良いと思いますわ。」


「あぁい、布志名さま、かっこいいー。」


 吉隠の合図でモニターの映像が数分前まで戻ると、大画面の一つが布志名と蛇穴が出会った瞬間を映し出した。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 忍海は開始そうそう、レーダー、カメラからも消えており、どこにいるかはわからないが、布志名は2人が近くにいる体で喋りかけた。


「蛇穴さん、忍海さん、俺が相手させてもらいます。」


「なっ?!っんで、ここにっ、ぉ前が、もういるんだよ!布志名!」


 驚く蛇穴だったが、それも仕方ないことであった。布志名は明らかに早く蛇穴達に接触しすぎているのである。蛇穴達が予想していたエリアより遥かに早く、2エリア先で戦おうとしていた蛇穴達からしたら、予想しなかったエリアでの遭遇となっていた。


 布志名の近くには移動するためのバイクなどもなく、何かの力を使ったと言うのはわかるが、一体人力でどれほどのスピードを出してきたのか、蛇穴は疑問だらけだったのである。


「っにしたか、しらねーが。ぉ前が負ける時間が早まっただけだぜ布志名!なぁ。」

 

 蛇穴は布志名を指差すと、軽く嘲笑って見せ、蛇の刺青を見せると中指を立てた。そんな態度の蛇穴に布志名はいつもの余裕を持ったイケメンスマイルを披露すると言葉を返すのだった


「今日勝つのは俺です。蛇穴さん。」


「ったら、ってみやがれ!布志名!!」


 声を荒げた蛇穴は腰につけていた、棒状のものを両手で取り出し、手元のスイッチを握り込む。そうすると、それはまるで液体でできた鞭のような形状に変形する。そして、それを空中でビュンビュン振り回すと、岩をも砕く水の飛沫が鞭から迸った。


「ってんだろうが、ぉれの武器は、水の鞭だぜ。この『ヒュドロス』を掻い潜れるなら、ってみやがれ!」


「やってみせますよ、蛇穴さん!」


 布志名は余裕のありそうな表情で呟くと、踏み締めていた大地を蹴り、蛇穴に向かい突撃した。


 蛇穴も布志名がこちらに向かってくるのを確認すると、ヒュドロスを構え、そして、一撃目を前に向けて解き放った。


 その鞭からは音速の壁を打ち破る音がし、超高速で放たれた鞭は、飛沫を周りに飛ばすと、周辺の地面を切り裂いた。布志名はその攻撃を大きく横に移動しかわすと、後ろにバックステップし、また距離を取る。


「おいおい、逃げてんじゃねーか、それじゃあ、ぉれに攻撃届かねーぞ!」


 蛇穴は2本の鞭をビュンビュンとしならせると、布志名との距離を詰めていく。蛇穴ももちろん布志名の能力を把握している。布志名はエレクトリカでも珍しい電気を空中に放電する攻撃を得意とする。電気系の能力持ちは結構いるが、布志名のように離れた相手に雷撃を飛ばし、放電する能力者はそうはいない。基本的には体に帯電させ相手を痺れさせるか、帯電させた電気信号を使い身体を強化するかだ。


 布志名は所謂、遠距離攻撃を得意としている。


 蛇穴もそこまでは熟知しており、布志名の雷撃に対する対策もディメンションの練習時に行なっていた。


 布志名も距離をとった先から、ライトニングボルテックスの一撃目を蛇穴に向けて解き放つ。バリバリと空気が震撼したのち、一筋の雷撃が蛇穴に向かい放たれた。


 蛇穴はそれを避けるでもなく、両方の鞭をしならせると、雷撃を切り裂くように地面に向かい叩きつけ、地面に鞭を突き刺した。


「こうやれば、ぉ前の雷撃も防げるんだよ!鞭の持ち手部分は絶縁体で覆ってあるしな。」


「なるほど、水鞭で地面に電撃を流しましたか。」


 布志名の雷撃を止めた直後、両者睨み合うなか、急に布志名の周りで何もないところに砂埃が微かに舞う。


 急に風が吹いたようなほんの微かな異変だが、布志名はそれに気づく。視界に捉えた風景にズレが生じていたのである。風景にムラがあると言えば良いか、何者かが透明になって、透過した景色を見せているというか、こんなことできるのは忍海さんしかいない。そう思った布志名は更に距離を取るよう一気に後ろにひいた。


 その選択は正しかった。


 そのズレからいきなり忍海は現れると振動ナイフで布志名の喉元の頸動脈を狙い切り裂きにかかったのである。


「くっ。」


「...次は決める。」


 布志名のバックステップが功を奏し、ナイフは寸前のところで、首の薄皮を裂いただけだった。


 少しでも遅く行動していたら、自分の喉元をかき切られていた。布志名の首筋にひやっとしたものを感じる。それと、同時に忍海の戦闘スタイルを思い出す。

 

 忍海は対人格闘のプロだと。


(そうだった。忍海さんは対ハイブリッドではなく、対人用のプロ。それにドロフォノスで姿が見えない。やっぱり厄介だな。...)


「布志名くん、残り3分だよ。」


 由里香が無線で布志名に何かのカウントを伝える。布志名はその言葉に、うんと頷くと了解と一言返す。


 その時、蛇穴と忍海の無線に神殿から通信が入る。


「大変です蛇穴さん、忍海さん。京終さんがっ!京終さんが負けました!」  


 1班のオペ、神殿が先ほど勝負が決まった京終の負けを2人に伝える。神殿の言い方からかなり焦っているのがわかる。


「っうそだろ...ばてさんが?!」


 蛇穴は勝負中であるが、その報せにかなり動揺してしまう。無線で聞いていた相手は白石、京終が万が一にも負けるわけないと思っていたからである。


「冷静さをかいたな蓮也...だから僕は、あれほど出雲に固執するなと言ったんだ。」


 忍海は冷静にその場で判断すると、何事もなかったかのように、目の前の戦闘に集中する。そして、いまだ動揺している蛇穴に忍海は通信を入れた。


「蛇穴聞こえるか?2人で速攻で片をつける。お前のヒュドロスで攻撃してすきをつくれ。その間に僕が殺る。」


「っかってますよ。忍海さん。でも、」


「蓮也は相手をみくびりすぎたんだ。戦闘中の指示は僕がする。」


「...わっ、っかりました。」


 蛇穴も落ち着きを少し取り戻すと、両手に力を込め鞭を構えた。そして、空中で縦横無尽に鞭をまわす。


「蛇穴、そのままヒュドロスで攻撃し続けろ。僕に当たるとかは気にするな。」


「っかってますよ。忍海さんなら当たらないこと。」


 蛇穴は忍海に笑い返す。


「いくぜぇ、布志名!」


 蛇穴が叫び、再び攻撃を開始しようとしたその時、布志名は由里香のオペに了解と呟くと、両手につけているバンド型アンプを取り外した。


 その行動に蛇穴は言葉を失う。


 バンド型アンプ、いわゆる増幅装置のような機能を持っており、言わば布志名の生命線。雷を増幅し放電を可能とする装置。


 それは布志名だけではなく、誰もが知っている事実。布志名はバンド型アンプで増幅した体内回路の電気を、放電し攻撃する。


 それが、ライトニングボルテックスと呼ばれる布志名のエレクトリカだ。


 その重要な役割をする機械を布志名は戦闘中に外したのだった。


 暴挙ともとれる、その行動。


 側から見たら何をやっているのか、全然理解できない行為。


 蛇穴の目からは勝負を捨てたようにも思えたが、布志名の目は自ら負けを選ぶような、力のない目ではなかった。


 むしろ、これからが本番だと言わんばかり、力強さを増していく。


「やっぱりみんな驚くよね。蛇穴さんなんか動き止まってるよ。」


 布志名は由里香からの通信を受け取ると、ふふっと微笑み、無線を返す。


「出雲とか以外知らないからね、この状態になるとどうなるか。」


「私も知った時、びっくりしたよ。」


「これからもっとびっくりさせてみせるよ。」


 布志名はそう言いスーと目を閉じると、力を捻り出すかのように、かっと目を見開いた。


 その瞬間、布志名の周りでバチバチと放電していた電気の渦が一瞬でピタッととまる。そして、あたりを静寂が包んだ後、布志名は口を開いた。


八色雷光やくさのいかづち、鳴雷、伏雷、解放!」


 布志名の発した言葉と同時に布志名の両足に凄まじい電気の渦が出来上がる。いつものライトニングボルテックスとは違う、自分の周りをバチバチと音を立てる雷は両足を起点に暴れ狂うように解き放たれ、両足は雷を纏う。髪の毛は逆立ち、いつもの布志名のライトニングボルテックスとは何かが違って見える。


 その様子に蛇穴が呆気に取られていた。なんで増幅装置を使わないで、あれ程の電撃を纏えるのか理解できないでいたのである。


 その一瞬の隙。


 蛇穴が見惚れた1秒にも満たない瞬間。


 蛇穴は布志名を見失う。


 岩の上にいた布志名が気がつくといない。


「蛇穴!後ろだ!!」


「えっ!!」


 忍海の通信で蛇穴が気付いた時には、布志名は蛇穴の懐まで潜り、右腕をみぞうちに伸ばしていた。あまりにも速すぎる時間を飛び越えてくるような速度に、蛇穴は驚愕の声すら出せずにいた。


「なっ!」


「土雷、解放!」


 布志名の右手がバチバチと音を立て雷を纏う。それと同時に、解放された右手の雷は蛇穴を貫くと後方数十メートル吹き飛ばし、青白い閃光が周囲に飛び散る。遅れてくる雷の爆音に布志名の異常なまでのスピードが浮き彫りになる。


「がっ!!」


 そのまま蛇穴は転がり続け、ようやく壁に激突して止まると、しばらく全身が感電したような痛みで身体を動かせないでいた。痺れるようなその痛みは、高負荷の電流を受けたかのような体全体が動かせなくなる痛みだった。


 だが、動けない蛇穴に布志名は追撃することなく、身体を慣らすかの如く、その場を軽くぴょんぴょんと跳ねる。そして、急にグルッと顔を後ろに向ける。


「今度は見えてますよ、忍海さん。」


「?!!」


 布志名が呟いた瞬間、忍海のナイフが空を切る。忍海もまた、布志名の追撃に合わせ、カウンターを狙っていたのだが、何故か布志名に察知され、攻撃は失敗に終わったのだった。


 先程までとは明らかに違う布志名の動きに忍海も流石に驚きを隠せなかった。


 布志名は、音もなく、姿も見せず、忍び寄る忍海の位置をまるで見えているかのように正確に把握したのだった。


 そんな状態の布志名に疑問を持った由里香が出雲に無線で話しかける。


「でも、布志名くん、なんで忍海さんの攻撃わかるようななったん?」


 由里香が呟くと、直ぐに出雲から元気の良い返答が返ってくる。


「「ロレンチーニ器官。」ですわ。」


 出雲と解説の城ヶ崎の声が重なる。


「布志名隊員は微弱な電流を感知する電気受容感覚を持っているんだと思いますわ。」


「電気受容?感覚?」


 吉隠は意味がわからない様子で、城ヶ崎の解説に頭を傾ける。


「あぁい、わかりやすく言えば自前のアクティブソナーみたいなもんだな。」


 城ヶ崎の言っていることを理解した左鎧はふふんと、ドヤ顔をすると、城ヶ崎の解説をわかりやすく例えた。


「あの状態の布志名は100万分の1ボルトという極小の電位差を感知できる。筋肉が発する微弱な電流を感知し、忍海さんが消えてようと反応できたってことだ。」


 解説の好きな出雲は由里香に自分のことのように嬉しそうに話す。


「ほんま、人の解説好きよな、しゅと君は。なんでも知っとるし。そんな、解説好きな、しゅとくんに聞きたいんやけど。」

 

「なんでバンド型アンプを外したのに、より威力の上がった放電ができるか...だろう?」


 由里香は出雲の問いにコクコクと頷く。


「アンプは布志名の雷を増幅する機能を持っている。だけど、あの増幅装置には、抑制機能も付いてんだよ。上がりすぎた電流を制御して安全に使うために、ようするにリミッターが取り付けられているんだよ。」


「リミッター?」


「電気のブレーカーみたいなもんだよ。電流が上がりすぎたら一旦落ちて、また、電気を増幅して、危なくなったら落ちて、それの繰り返し。」


「バンド型アンプを付けていたら本来の力を出せないってことやんな?」


「そう、実は布志名はアンプをつけていない方が強い。じゃあ、なぜアンプを付けてるかだろう?それは今の状態は明らかに強くなるけど、負荷がでかい分、時間制限があるんだよ。アンプ使って増幅した方が遥かに負荷が軽いし、使いすぎると俺のと一緒で副作用がでるからな。」


「ふむふむ、と言うことわやで...布志名くんはもう決めにかかったってことやんな。」


「正解、だからオペよろしく。」


 由里香と出雲の会話が終わる頃、蛇穴もようやく頭が回り出す。布志名の謎の行動は全くもって意味不明に思えたが、自分のやるべき事は最初から決まっていた。


 蛇穴はパーンと両頬を叩くと、ウシッと呟いた。


「んな状態になろうと、俺のやる事はひとつ!ぉ前をヒュドロスで切り刻むだけだ。」


 攻撃を受けたみぞうちの痛み。きっかり返してやると言わんばかりに蛇穴はヒュドロスをブンブン振りまわし始める。体は感電したせいで本調子ではないが、蛇穴はそれでも両腕に力を込め、鞭のつかを握りしめ叫んだ。


百本蛇ハンドレッドイーター!喰らいつけ!!」


 その声に呼応するよう、蛇穴の鞭は無数の鞭へと枝分かれしたようになると、周囲の地面を削り取る。


 土だろうが、アスファルトだろうが、コンクリだろうが、全てを抉り取るよう水鞭は全方位に解き放たれた。


 一方、布志名は離れた場所から両手を擦り合わせると、それが段々と形をなしていく。槍のような形状と言えば良いか、布志名に纏わりつく雷はバチバチと音を立て、鋭利な刃物のような切先を蛇穴に向けた。


「土雷、若雷、解放!」


 一際バチンっと大きな音が鳴った後、布志名は蛇穴を見ながら呟く。


「二色混合!」


 布志名は掛け声に合わせ、両手をぎゅっと握り込むと、両手の雷は混ざり合い、さらに大きく膨らみ、一際大きな音を立て空間を引き裂く。


 バチバチと帯電する、その一本の雷槍に布志名は渾身の力を込めた。


「次で決まりますわね、左鎧さん。」


「だな、布志名様は負けねーけどな。」


 城ヶ崎と左鎧が決着の予感を感じ取る。


「決めます。蛇穴さん!」


「ってみろ!布志名ぁあ!!」


 布志名は地面を蹴ると同時に蛇穴もヒュドロスを全方位に振り回した。


「おぉっと、両者睨み合いからの必殺の一撃にかけるか!蛇穴隊員の無数の水蛇が勝つか、布志名隊員の一本の雷槍が勝つか、さあ、勝つのはどっちだ?!」


 吉隠が叫ぶ中、皆もモニターに注目する。


 お互い矛対矛の対決。


 勝負が決まるのは一瞬。そんな予感を漂わせ両者は激突する。

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