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エレクトリカ  作者: ハリマトモアキ
36/44

ウィン オア ローズ

「うらあぁぁーー!!」


 その叫びに呼応する様、白石は全身の筋肉を脈動させる。そして、雄々しく雄叫びをあげながら京終にまっすぐ突っ込んだ。


 その消えているようにも見える瞬発力は、大地に足形のくぼみをつけると、一足一足が恐竜でも歩いたように大地を揺らす。


 一方立ち上がった京終は、片手にベアリング弾を直ぐ様握り込むと、白石を迎え撃つ。白石の馬鹿げたスピードに、両目、両耳、すべての感覚を研ぎ澄まし構えると、カウンターを狙っていた。


 白石のスピードなら当たれば自滅する。そして、少し揺さぶってやれば隙が生まれる。


 京終は瞬時に考えると、右手に握り込んだベアリングを前方広範囲に放った。


「ぶち撒けろ、ヴェロシティ!」


 散弾銃の弾のように広範囲に広がる弾。 オールレンジバレットが白石に襲いかかる。


「おぉっと!京終隊員の広範囲攻撃!白石隊員いったいどう対処するのか?」


 京終の取った策はベアリング弾で白石の動きを止めるか、わざと避けさせ、その隙をついてエグザクト弾でとどめを刺すと言う作戦だった。


 誰でもあのようなスピードで動けば、小回りは効かなくなる。避けれるものも避けれない。しかも自分が放った弾は広範囲に広がるベアリング弾、避ける事は不可能と京終は思っていた。


 いや、後から考えれば京終は自分で選択肢を狭めてしまっていた事に気付けなかった。


 この時に相手は白石と言うことに気が付かなければならなかった。


 この場面の白石ならやらない行動に。


「広範囲に広がるベアリング弾!これは避けれないぞ!白石隊員!いったいどうする?」


 吉隠が実況する中、白石に迫りくるベアリング弾、数10発。


 それに対し白石が取った行動。


 それは、避けるでもなく、ましてや、立ち止まるでもなく、大型の獣が見せるような飛び込む動きだった。


 皆がその行動に唖然とする中、出雲はニヤリと笑っていた。


 ベアリング弾が降り注ぐ中、白石は簡潔に言えば直進したのである。


 考える素振りも見せない、全く考えていないと言えるほど、進行方向を変えない。どころか、猪のように弾の雨の中を突進した。


 両腕で頭と急所をガードしているが、何発ものベアリング弾が、白石の肉に食い込む。食い込んでいるのだが内部までには硬い筋肉が邪魔をして、致命打にはならなかった。


「しゃらくせぇえ!!」


「なっ!!」


 まるで痛みを感じていないように、直進するのをやめない白石。ベアリング弾の雨を抜けると、両腕のガードを解き、更に低い前傾姿勢になると、京終の目の前まできて両足にめいいっぱい力を込めた。


「おわっ、痛そう。だが!とまらない!白石隊員!京終隊員に迫る!!また、剛腕パンチをくりだすのか?」


「大型の獣はショットガンでは倒せませんからね。ふふっ、ブラビッシモ。」


「あぁい、ゴリラも猛獣だかんな。くくっ。」


 城ヶ崎と左鐙が微笑む。


 白石=猛獣


 人間離れした筋肉もさることながら、闘争本能が白石は人間離れしている。例えるなら野生の猛獣、獲物を狩る行為を自然に体に染みつかせた狩人。


 白石は京終の眼前に近づくと、右手に力を込め、ギリギリと右腕の筋肉を更に膨張させた。止めと言っただけあり渾身の力を振り絞るかなような右腕は破裂しそうなくらい膨らんでいた。


 次の瞬間、誰もが白石の右ストレートが飛んでくると期待していた。


 しかし、渾身の力を振り絞る白石が次に見せた行動は、なんと左手に握り込んでいた細かな石を数発、京終に向けて広範囲に散らばる様に投げつけたのだった。


 フェイント、不意打ち、いろいろな言葉があるか、白石の真っ直ぐな姿勢には似つかわしく無い石礫による攻撃。


「っっち?!!」


 京終は、白石の放ったその石礫にを左手で作った減速壁を差し出し、防御の姿勢を取った。


 石はピタッと空調で静止したと思えば、自重により自由落下していく。


 それを見ていた出雲はナイスと呟いた後、微笑んだ。


「ほほう、白石め、ちゃんと俺の言うこと聞いてんじゃねーか。」


「あの小石投げのことやんな?」


「そうそう、小石を投げて京終の射程と盾の大きさを測ったんだよ。」


「なるほどなー。白石君にしては、珍しい行動やと思ったら、しゅと君の作戦やったか。」


「そうそう、盾の大きさを必ず測れってね。まあ、これでチェックメイトだ京終さん。」


 石礫により白石は京終の範囲を体ですぐさま覚えた。そして、京終の右側にぬるりと潜り込むと、右腕のパンチを地面すれすれから上空に向け解き放った。


「ぶっ飛びやがれぃえぇーーー!!」


 普通のものなら力の乗りそうに無い態勢からでも、白石は体を捻り、足に力を込めて地面の反動に使い、渾身の一撃を解き放った。


「なっ??!」


 京終は反射的に自分の両腕を白石の攻撃のガードにまわしてしまう。右手の加速と左手の減速が混じり合う空間ができてしまっていた。


 そのチャンスを白石は逃さなかった。


 出雲が言っていた穴。


 加速と減速が混じるところはベクトルはゼロになる。ようするに、バリアも何も無い空間を作ってしまうんだったと思い返す。


 できた空間、穴と言えば良いか、そこに白石は右腕のパンチを狙い澄まし滑りこました。


「あぁあああああ!!」


 白石のパンチが当たる寸前、京終が最後に見たものは、野獣の如き目を光らせた白石だった。唸りを上げ、猛獣のような牙を携え、京終の顎を下から右腕で打ち抜いた。その一撃で京終は空を舞う。


 やけに周りが静かだ。


 当たったパンチもスローモーションに見える。


 だが、次第に歯が噛み砕かれるような感触が京終に響く。


 この感触、例えるならまるで大型の重機と接触した様な感覚。


 抗えない力により京終は空中に舞い上がる。空中を舞いながら、京終は走馬灯の様な回想を見ていた。


(...俺は、俺は、負けたのか。こんなやつに。出雲と戦うはずが、こんなところでつまづいたのか?はっ、路傍の小石につまずくとはこの事だな。いや、白石をその程度と思っていた俺の責任か、ざまあねーな...だけどな!)


 ギリギリと歯を食い縛り、思いを巡らす京終の体はズシンと音をさせ、地面に仰向けに倒れ込んだ。そして、終わりを示す様、ピクピクと体を震えさせ痙攣していた。


「おぅお。番狂わせだ。白石隊員の渾身の一撃が京終隊員の意識を刈り取る。凄いパンチでしたね、しかし。」


「ブラヴィッシモ。いい攻撃でしたわ。京終隊員は片方で攻撃、もう片方で防御。一見するとバランスが良く見えますが、実際扱いは更に難しくなりますわ。いざと言う時、人間は反射的に動いてしまいますからね。」


「あぁい。利点もあれば、欠点もある。それに気づかなきゃいけない。そして、そこを狙われる事もよくよく体に染みつかせないといけないよな。あぁい。」


「そうですわね。小手先にとらわれすぎたのも敗因の一つでしょう。」


 実況席が白石勝利の解説で盛り上がる中、観客席からどよめきが聞こえる。左鐙もその声にモニターを見返す。どうせ、白石が何かしているのだろうと思っていたので、その光景に目を疑う。


 なんと、倒れ込んだ京終が立ち上がっていたのである。震える体を奮い立たせ、無様にも小鹿の様に立ち上がる。


「はけるわけにはいはねーんだよ、俺は!!」


 京終はろくに喋れない中、大声で叫ぶ。


 意地。ここまできたら意地である。

 

 負けるわけにはいかない。


 倒れるわけにはいかない。


 自分の中のプライドが、折れてはいけない何かが、ここで立ち上がらなければポッキリと折れてしまう。


「さあ、続きをやろーぜ、ゴリラ!!」


 京終はフラフラになりながらも、クイッと右手で手招きすると微笑んだ。


 そんな京終をみて白石はニカっと笑うと、腕組みをしながら喋りだす。


「俺のパンチを受けて、立ち上がるとは称賛に値するなぁ!!ばてばてぃ!!好きだぜ、そう言う意地っ張りなとこは。」


「はっ、ゴリラに好かれても嬉しくねーよ。」


 京終は、ぐらつきながらも前に進もうとするが、すでに体がそうさせてはくれなかった。


 回る景色。


 グラグラと揺れる足。


 頭の中もぐちゃぐちゃに歪んでいる様に見える。


 身体中が痛みを響かせる。


 そんな満身創痍な京終に、白石は武道の様な所作を見せ、身構えると大きく左足を踏み込んだ。ダンッと地面を蹴る音が響き、白石の体がピタッと止まる。


「とっておきを見せてやる。我流だがな!技ってやつだぁ!!」


「はっ、うぜーよ!とっととかかってきやがれ!」


「いくぜぇええーーー!!」


 白石は大声を出すと、地面を踏み抜いた。


 そして、京終が攻撃をする間もないほどの速度で、目の前に瞬時に行くと、左足のローキックを放つ。その素早いが単調な攻撃。一見簡単にガードできる様に見えたが、ローキックを放ったと思った白石の左足は急に軌道を変えると、京終の頭に吸い込まれる様に打ち抜いた。


「がっ?!!」


「我流、可変蹴り、2段落葉らくよう!!これで終いだぁ!!」


 白石が構えを解くと、京終の体はゆっくり前向きに地面に倒れ込んだ。今度こそ完全に意識を刈り取ったのである。京終の体は光に包まれると、次第に薄くなり消えていく。


「最後は、ナイスファイトだったぜぇ!!」


 白石は京終に手を差し出し、お辞儀した後、大きく息を吸い込むとカメラに向かって吠えたのだった。


「勝ったっぞぉお!!俺は強いぃい!!」


 体を動かし喜びを表現しているのか、勝利後のパフォーマンスか知らないが、白石は上半身裸で叫びまくっていた。


「白石君、分かっとると思うけど、まだ敵はおるからね。」


 白石の行動を見ていた、いや、監視していた由里香から無線が入る。


「やったぁあ!勝ったぁあ!これで、ランク昇格だぁああ!!ああああぁ!!」


「白石君...。」


「まあまあ、由里ちゃん。白石は気にせず喜ばせてやって、それより布志名の方を頼む!白石の回線は切ってもいいから。」


「ほな、ほんま切るで、しゅと君。」


「ああ、切っちゃって、切っちゃって。多分長い事叫ぶだろうから。」


「ブチっと、あー静かになったー。じゃあ、布志名君に集中するな。」


 一方この番狂わせに、会場も一際ヒートアップしていた。


 体術と筋力しか無い男が、速度を操るSランク隊員京終に勝ったのである。誰もが白石なんかに、京終が負けるわけないと思っていた。エリート対雑兵と言う下馬評も、結果を見れば覆されたのである。


「決着!決着ぅ!白石隊員の蹴りで、京終隊員まさかの脱落。初めの脱落者がリーダーと言うことになってしまいました。まさか、まさかの白石隊員大勝利です!」


「あぁい、白石隊員だが、体術だけは凄いからな。なんださっきの蹴りは?よく見えなかったが凄い角度と速さで曲がったぞ、あぁい。」


「可変蹴りですわね。蹴りの威力も落とさず、超スピードで変化をつけてきましたわね。初見だと避けられませんわ。ブラヴィッシモ。」


 白石を褒める解説席。それ程までにこの勝利はインパクトを与えていた。


「一方の京終隊員の方も、善戦してましたね。多種多様な技も見せてくれました。それでも白石隊員を止めれなかった京終隊員は悔しいでしょうね。」


「あぁい、いい教訓になったんじゃないか。」


「そうですわね。私としては、これがきっかけになり、変わってくれればと切に思いますわ。1班として、一言擁護させて貰えば京終隊員は弱くないですからね。」


 少し悲しそうな顔をした城ヶ崎は、木田から昔言われた一言を思い返していた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「華凛、京終のダメなところは自分を勘定に入れてないんだ。出雲もそうだが、京終はS級になったんだ、これからは自分を含めた周りの様子にも対応しなきゃならねー。自分が犠牲になっても良いなんて考え、俺から言わせれば2流もいいとこだ。S級って言うのは突起戦力だ。それがいなくなる事でどれほど被害が出るかわかってなきゃいけねー。」


「そうですわね。木田さんの言うよう、京終は甘いですわ。ですが、そこが良いところでもありますわ。」


 城ヶ崎の返答に木田はうーんと考えるそぶりを見せると、自分の髭をさすった。


「まあ、あいつは面倒見の良い、良いやつだからな。だからこそ、俺は厳しく言いたい。あいつの采配で仲間が死んだり、自分が傷ついたりさせたくねーからな。」


「ふふっ、分かってくれると良いですわね。」


「だな。立派なS級になって欲しいな。」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


(木田さん、京終は変わりましたわ。確かに変わったのですが、悪い方に傾きましたわ。今回の一戦で少しでも、昔の彼に戻ってくれることを私は期待しています。)


 城ヶ崎は目を閉じると、祈るように手と手を合わせたのだった。そんな城ヶ崎を見て、左鐙は口を開く。


「あぁい、だな。京終隊員は弱くない。むしろ、能力は強いと言って良い。これからを期待しているよ。あぁい。」


「城ヶ崎さん、左鐙さん解説ありがとうございます。初戦の決着はつきましたが、違うエリアでは布志名隊員と蛇穴隊員と忍海隊員が闘いを繰り広げているようです。カメラを切り替えてください。」


 吉隠の合図で大画面スクリーンが別エリア切り替わると、布志名の姿が映された。


 その映し出された布志名の体は雷を纏ったように、バチバチっと音を立て、髪の毛が逆立ち、いつもの布志名とは違って見える。


 そして、次に蹲る蛇穴の映像が映し出される。苦悶の表情を見せる蛇穴は、みぞうちのところを右手で抑えると、苦しそうに息をする。

みぞうちには雷紋のような跡がしっかりと残り、布志名にやられたのが一目瞭然だった。


「っそが、さっきまで、っちが押していたのに、なんなんだよ!!」


 蛇穴が文句を言うのもしょうがなかった。さっきまでは布志名は、防戦一方だった。相手の攻撃をいなすので精一杯だったのだ。


 だが、先ほど無線に了解と呟いた後、今の雷を纏った姿になったのである。そして、まるで別人のような動きになったのである。


「うちのボス、出雲から言われてるんで、勝たせてもらいますよ忍海さん、蛇穴さん。」


 布志名はそう呟くと、更にギアを上げ雷の出力をあげているように見えた。

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