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エレクトリカ  作者: ハリマトモアキ
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アーマーパージ

「これからぁあ!本当の勝負、命の駆け引きだぁあ!」


 白石の一撃を頬に受け、吹き飛ばされた京終は、壁につかまりながら立ち上がるが、先ほどの重い一撃が体の自由を奪いフラフラと揺れ動いていた。

 

 実際京終の目に映る景色はグニャグニャと歪曲し、回転性の目眩にも似た症状を起こしていたが、執念、プライド、そして出雲に向ける執着心が京終の足を奮い立たせていた。


「ぅぜぇ!うぜぇ!ムカついてしょうがねー。なんなんだよ、お前たちは?!」


 京終は吐き捨てると、つかまっていた壁を離すと、ヨロヨロと白石の方向に歩みを進める。そんな京終に白石は追撃せずに、腕組みしたまま一喝するのだった。


 スーと息を大きく吸い込み、その爆発的な声量で白石は大声を上げた。


「お前がムカついてんのはぁ!弱いお前のせいだろうがぁ!違うか!ばてばてぃ」


「...クソがぁ、クソが、クソが、クソが!テメーらが俺に指図すんじゃねー!俺は出雲よりも上なんだよ!俺のヴェロシティは無敵なんだよ!」


 京終はギリギリと歯を噛み締め、体を震わせると、明確な敵意を目に灯らせ睨み付ける。


 その様子を何処かから見ていた出雲は、白石に無線を飛ばす。


「白石聞こえるか?お前のことだから、相手さんが回復するまで待ってやるんだろ?」


 出雲は白石に問いかける。

 

 その言葉に白石はウンと大きく頷くと、右拳を握りしめた。


 白石睦月のイメージと聞かれると、傍若無人という言葉がピッタリだろう。オペの言うことも全く気にせず、我を貫く姿。ついこの間の鉱石級オール戦でも見せた余裕ともとれる強い奴と戦うことを常に求める戦闘スタイル。なんどもその事で上から注意、警告をくらい、いつまで経っても、B級から抜け出せない男。


 だが


 白石は一度もハイブリッドには負けたことがない。傷を負っても最後には立ち上がって唸り声を上げるのは白石の方だった。


 あのエレクトリカ最強と呼ばれた木田にさえ向かっていき、ボコボコにされたが、その戦いの後の顔は晴れやかに笑っていた。


 自分より強い奴がいる。


 圧倒的なまでに強い奴がいる。


 だから、自分はまだ強くなれる。


 白石は京終との戦いでも、さらに強くなれることを体でわかっていた。


 だから、待つ。


 京終が回復するまで。


 より強い相手と万全に戦うために。


 それが自分を強くする事を信じているから。


 白石は右手の拳を空に向けると、また叫ぶのだった。


「当たり前だろぅが!さっきの一撃は俺が与えた一撃じゃねぇ!」


「まー、お前ならそう言うと思ってたよ。」


「だったらぁ!ここからは手だすなよぉ!俺が!強くなるための闘いなんだからなぁあ!!」


 姿は見えないが、出雲はこの時笑っていただろう。白石睦月と言う自分と似ているクソバカ野郎を見て。


「本当、お前こそクソ馬鹿野郎だよ。後は任せたからな。」


「当たり前だぁ!俺の勝利は揺るがなぁい!」


「はははっ、俺もお前が負けるとは思ってねーよ。じゃあな、俺は次に行くぜ。」


「応!!」


 出雲との無線が切れると、白石は徐に背負っているエクスカベーターを地面に下ろした。


 ズシンと地響きの音が鳴り、エクスカベーターが取り外されると、作業着と中に来ていたインナーを抜ぎ捨て、上半身裸になると、筋骨隆々どころではない、異常なまでに発達した筋肉が視線を集める。


「よいしょぉ!ついでに重石も外すぞぅお!」


そう言うと白石は両腕、両脚につけていた重石を両手で掴むと遠くに投げ捨てた。


 ズシンっと大きな音を立て白石のつけていた重石が地面に突き刺さる。


「体が軽すぎてぇ、空飛べるんじゃねーかぁ!!」


 白石はその場でピョンピョンと跳ね上がると、小刻みにリズムを整えていく。肌を出しより感じやすくなった皮膚感覚を存分に発揮しながら、京終に視線をあわした。


「エクスカベーター170Kg、両腕重石、30Kg、両脚重石、50Kg、計250Kg。人間が動ける重さじゃねーからな。」


「えぇ?!そんなに重いん、しゅと君?」


 出雲が告げる白石の重武装に、由里香は驚きを隠せなかった。エクスカベーターが重いことはわかっていた、分かっていたが、まさか重石も合わせ250Kgもあるとは想定していなかった。


 今までの白石の動きを見て、誰がこんなに重石をつけていたと気づくだろうか。常人より早く動いていたと言っても良いその野獣のような動き。そして、岩をも砕くエクスカベーターを振り回す様。


 出雲以外は知り得ていなかっただろう、その馬鹿げた力、怪力、暴力と言ってもいい、力戦奮闘ぶりに由里香も、えーと驚きの声しか上がらなかった。


 そして由里香は思う。


 なら、重石を全部外した今の状態は一体どれくらいの速さで動けるのだろうと疑問が浮かぶ。


 考える由里香に出雲は笑いながら無線を入れた。


「まあ、見てな。あいつの全力を。しかも、あいつエクスカベーター外した方が強いんだぜ、笑うだろ。」


「なんでなん?それやったらなんでエクスカベーター毎回背負っとるん?ただの重石やん?」


「かっこいいから、とか言ってたな。」


「かっこええ言うても、なんでなんとしか言葉でーへんわ。」


 若干ではなく、由里香は白石のめんどくさい自論に呆れることしかできなかった。


「まあ、枷と言うか一種の自己封印だよ。解き放ったらこんなに戦闘力上がるぞ的な。でも、アーマーパージしたゴリラなんか久々に見るな。」


「私、初めて見るかも。」


 由里香と出雲が無線で会話するなら、変わって実況席でも、吉隠がこの展開を熱く伝えていた。


「おぉっと、重い一撃をぶつけた白石隊員、更に重石を投げ捨てて、武器も脱ぎ捨てたー!!そっ、それにしても凄い筋肉ですねー、一体何やったらあんなになるんでしょーか。」


 興奮する吉隠にだが、左鎧と城ヶ崎の2人は淡々と答えるのだった。


「あぁい、ゴリラだからな。」


「ゴリラですわね。」


「えぇ、ゴリラですね。」


 会場のみんなが白石をゴリラと認定していた。それ程までに、人間とは思えない筋肉量と質、絞られて更に磨きのかかった身体は、光沢を浮かべると、一際輝いていた。


 一方フラフラになりながらも、一歩を進めていた京終も、地面が揺れ動く目眩が回復してきていた。右手の指の隙間に銃弾をセットするまでに回復すると、掌を白石に向けて突き出した。


「まさかお前程度にこの弾を使わなきゃいけねーとわな。屈辱だよ。」


「御託はいいぃ!!かかってぇ来いぃ!!」


「一撃で決めてやるよ!このエグザクトで!」


 京終がエグザクトと呼ぶ、その弾は一見普通のライフル弾のように見える。だが、京終の顔はこの弾を出した時から、不気味に微笑んでいた。何かがあると思わせるその顔に白石はより感覚を研ぎ澄ますのだった。


「ぶち撒けろ!アクセラレーション!」


 京終の掛け声に合わし、4発の弾丸が掌から一斉に飛び散る。正確に白石の急所を目掛けて音速を突き破り突き進む。


 早い段階で白石は弾道を見切り、最小限の足運びで弾を避けようとした。


 その時だった。


 空中で放った弾丸がいきなり白石に向かい曲がったのである、まるで白石を自動追尾しているように。


「終わりだ、カスが!」


 叫ぶ京終に、咄嗟ながらこの弾は普通の弾じゃないと感じた白石は瞬時に半身の姿勢になると体を大きく傾けた。


 そうすると放った弾も白石の動きに合わせ向きを変える。白石の皮膚にピリピリした感触がなくならない。


「だったらぁ!こいつでどうだぁあ!」


 白石は大きく動くと、そして追ってくる弾丸を、なんと左手で捕まえにかかったのである。


 弾丸を素手でキャッチ。


 漫画とかならよくある場面だが、生身の人間には難しい。と言うよりできないと言ったほうが良いだろう。軌道を武器で逸らすとかなら、まだわかるが。この男は左手で銃弾を捕まえようと、上から叩きつけるように動かしたのである。


 数秒の出来事だが、白石の信じられない動体視力と身体能力に、京終含め、観客も唖然とするしかなかった。


「なっ!!」


「うらぁああああぁ!!」


 雄叫びを上げる白石。

 だが、左手には銃弾が通過した跡がきっちり残っていた。銃弾を受け止めるまでには至っていないが、追ってくる弾丸は急所には1発も当たっていない。


 京終の隠し球を左手一本の犠牲で食い止めたのだった。


「まだ、銃弾は掴めねーな!左手がいてぇぞ!!」


「馬鹿だろあいつ。あの弾は、たしかexactoだったはず。弾丸自体にスラスターや制御機構を埋め込み、光センサーと連携させ、発射後に目標を追跡する弾、だったかな。」


「自動追尾弾ってことよな?」


「そう、最新型追尾弾の一種だよ。でも、よく初見なのに左手一本で食い止めたな。さすゴリだな。」


 出雲は知っていたように、京終の放った弾がどんなものか、由里香に説明していた。由里香もふんふんと頷くと、パソコンに聞いた内容を入力し、作戦を組み立てていた。


「白石くん。京終さんとの距離を縮めて。」


「だな。お前の間合いに入ってしまえ白石。一方的に攻撃されるぞ!」


「まかせろぉおあ!」


 大声を上げると白石は両足に力を込めた。

メキメキと脈動する、その筋肉が一気に地面まで伝わり解放されると、爆発的な推進力で踏み込んだ足場は陥没し、まるで弾丸のように真っ直ぐ駆け抜ける。


「なっ?!!」


 京終に声も上げさせず、目の前まで接近すると右拳での渾身の一撃を、左頬にお見舞いする。重石を下ろした白石のあまりの速さに京終の防御がまったくもって追いつかない。両腕を必死で減速壁でガードに回すがまったくもって白石の動きに対応できていなかった。


その強靭な、半ば攻撃を全て防ぐような大きな盾を持っていても、まったく意味がない程に、白石は野獣のような瞬発力で京終に一撃を喰らわしたのだった。そして、地面を転がる京終に再び言葉をかけた。


「たてぇぇ!まだまだ加減してやってんだぞ!」


「くっ、かは、くそがぁ!」


 蹲る京終だがそれでも立ち上がることを諦めない。ここで倒れれば、出雲どころか白石なんかに負けたことになる。S +がB-にいいようにやられ、最初の脱落者が、予期せぬ自分になってしまう。


(そんなの許せねぇ!許せるわけねぇ!こんなクソ雑魚に翻弄され、地を這いずる無様な俺なんかこれ以上見せられるか!)


「たちやがれぇぇえ!!俺がお前の弱点を教えてやるぅ!」


「クソがぁ、いい気になりやがって!」


 京終が喋り終わると同時に白石は右の拳をギュッと握力をフルにかけると握り込んだ。ギリギリと腕の筋肉がはちきれんばかりに膨張する。


「こいつが最後の一発だ。ばてばて。今から右手でお前を超本気でぇぶん殴る!当たればお前の負けだ!」


「こいよー!返り討ちにしてやるよ!!」


「いくぞぉ!!これがオレェの全力だーー!!」


 白石は大声をあげると、京終に向かい全身の筋肉を脈動させ、一直線に突っ込んでいっく。


 観客も司会も、全員がこの一撃に注目する結果を作り出していた。


 果たして最後に立っている勝者は。

読んでくれている方には感謝しかありません。ありがとうございます。

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