ミーティング 1
「今月まだこんなに仕事残ってんのかよ。」
出雲は自分の机の上に山積みになった資料を読みながら、あーでもないこーでもないと独り言をブツブツと呟やいている。
机の上はまさにカオスといっていいほど散らかっており、あちこちに資料やらどっかから外してきたであろう機材が乱雑に積み上がっていた。
崩れないのが不思議なその山はずっと現場にいたのが一目見ただけでわかる状況を作り出していた。
「あー報告書まとまんねー!始末書終わらねー・・・もう無理!!」
出雲は自席から立ち上がるといきなり大声を出し自分の事務仕事が終わっていないことをアピールする。
「出雲くん今日10時からG3地区の対策会議あるから
現場行ったらダメですよ。」
「えー北条さん、今日だったっけ会議あるの。」
黒髪ぱっつんメガネ美女の北条が席を離れタバコを吸いに行こうとする出雲に一声かける。そして出雲の机の上の資料をぐいっと横にどけ、入れてきたコーヒーを横に置いてくれた。
「今日ですよ。これ飲んで頑張ってください。」
「えー。一服させてよ北条さーん。」
「ダメです。出雲くんは一服が長いんですよ。」
「一本だけだからー。ねっ。」
出雲の必死なお願いにも関わらず、北条は出雲のタバコを取り上げると、眼鏡をクイッと人差し指で持ち上げきらりとメガネを光らせた。
「ダメったらダメです。前から会議だって通達してるのに資料作らないからこーなるんですよ。」
「えー、だって現場超絶忙しいんだもん。本当は今日も行きたいくらいなのに・・・。」
「ダメです。G地区今度大きい現場みたいじゃないですか。協力会社さんも来られますから、今日は現場行くのナシです。」
出雲は北条に説得され嫌々ながら自席のパソコンに戻るが、置いてあるマウスをグリグリと回し、資料を作る気があるようには到底思えない態度であーあー唸っている。
北条はそんな出雲を若干冷めた目で見ながらも、はい頑張って励まし続けていた。
「あー資料作るのめんどくせぇー・・・10時まであと15分しかないし・・・もう、どうせ今回宍道班だし適当でいーよもう。」
「ダメです。事前の準備、説明がいかに重要か出雲くんならわかりますよね。言ってしまえば協力会社の人の命あずかるんですよ!」
「わかってるよ北条さん。それより北条さん、ずっと俺の横で監視するつもり?」
「えぇ。出来上がるまでずっと見てます。」
「勘弁してよー。逃げないから。」
出雲は北条の監視に観念したのか、パソコン前で文句を垂れながら会議資料を即席で作り上げていく。
出雲はやると決めたら早いのだがやる気が出ないといつもこんな調子でグダグタと時間を浪費しがちなのである。
それを知っている北条は出雲を逃げださないよう、やる気を出させるようあれやこれやと冷静に対処していた。
「こんなんでいいでしょうか北条先生。」
出雲はやっと出来上がった資料をパソコンに映すと、モニターをグイッと北条に向けた。
北条はその資料をふむふむと確認すると、出雲に向けて笑顔を見せた。
「やればできるじゃないですか。なのにやらないからこんな風になるんですよ出雲くん。資料の内容も上手くまとめてくれていますし、この対策部分の絵も混ぜた説明いい感じです。すごいすごい。」
「ありがとございまーす。あと冒頭のハイブリッドの説明は昔の資料使うから大丈夫でしょ。」
「ええ、問題ないと思います。」
北条からOKの出た資料をプリンターで印刷するとホッチキスで止めてくれるようお願いする。その資料を北条は高速で整えまとめていった。
「そろそろ時間ですね。隣の部屋のプロジェクター用意してきます。」
「はーい・・・よろしく。」
精魂使い果たした出雲の力無い声がフロアに響いた。