バイブロハンマー
「しゅと君今どこにいるん?大丈夫なん?」
出雲のヘッドレシーバーから由里香の声が地下道に響き渡る。
「大丈夫だけど大丈夫じゃない。盛大にぶっ壊してしまいました。完全に始末書もんだわ、俺。」
出雲は頭をブルブルと横に降った後、瓦礫の中から出てくるとヘルメットの紐を取り埃のついた前髪やら顔をパンパンとはたく。
「あぁーあ、調子に乗りすぎたぁ。」
「〜〜たぁぁ。」
出雲の力無い声が地下道に響き渡る。
地下道なのに上を向くと青空が綺麗に見えるくらいの大穴が空いており、眩しい日差しがここ地下道まで入ってくるなぜこんなことになったかというと・・・
話は30分前に遡る。
いつも通りidカードをゲートに通す出雲。本日の担当はG3の30区部分のハイブリッドの殲滅であった。先般作業したエリアの近くであるため出雲に依頼が来ていたのである。
出雲は慣れた手つきで携帯をオペレーターモードに切り替え、本日のオペレーターに繋ぐ。
「はい、本日オペレーターを担当させていただく西尾・・『出雲でーす』ってまた、しゅと君かぁ・・・
はぁ、いつになったら布志名くんにあたってくれるんやろか。なんか私、しゅと君専門になってへん。」
由里香が不満そうに電話の向こうでブツブツ言っている。本心で嫌と言うわけではないのだろうが、由里香も出雲のオペが続きなにやら不満そうだ。そんな由里香を察してか出雲は含み笑いをすると吉報を知らせるかの如く得意げに喋りだした。
「そんなゆりちゃんに朗報です。来週は俺と布志名コンビでーす。布志名にオペ対応するよう伝えとくよ。」
「えっ!ほんまに⁈絶対やからね。」
「あぁ、絶対。絶対。」
出雲の言葉を聞いた由里香は今度は嬉しそうにはしゃいでいる。余程、布志名という人物に思い入れがあるようだ。
「それより、しゅと君今日のハイブリなんやけどね
反応が大きいんよ。鋼の心配もあるからそれなりの
武器準備しといてね。」
「鋼がこようが銀がこようが大丈夫でーす。出雲さんにまかせなさい。」
「すぐ調子にのるからまかせたくないでーす。」
由里香も出雲も機嫌良さげに他愛もない会話を続けている。出雲はこれから敵の真っ只中に行くのだがよほど余裕があるのか大声で喋っていた。
「それより、そこからまっすぐ行ったところ左前に病院があるやろ。その前の旧駅が今回の殲滅ミッションの場所やからね。今のところやっぱり大きい反応が1体だけやね。タイプは鋼と想定しといて。」
出雲は由里香からのタイプ鋼と言う指示を聞くとバックの中からゴソゴソと道具を出して、自分の左腕にオペ班から見えないように袋を被した状態でなにやら不審な動きをしている。
「鋼だったらぶち込むしかないでしょ。しょうがない、しょうがない。鋼だもん。」
なにやら出雲の不審な言動と動きに嫌な予感を感じた由里香は、まさかと思いながらも出雲に問いかけた。
「しゅとくん先に言っとくんやけど電気雷管と発破とか使ったら怒るからね。 そこの周りの建造物は比較的綺麗に残っているから、後はライフラインさえ持っていければね。そういうとこやから爆薬系は使わんといてね。絶対やからね!」
由里香に釘を刺されてしまった出雲だが、何やら薄ら笑いを浮かべながら使わない使わないと右手で合図する。
(まあ使うのは、久々のアレなんだけどね。)
「なんかいった?」
「いえ、何も。」
「くれぐれも慎重にね。うん、そのまままっすぐ20メートルあの右手側に見える道路標識らへんかな。」
由里香のオペを頼りにボヘーと歩いていた出雲だが、目標の目印の場所が近くなると流石に真剣な顔つきになり、ゆっくりと呼吸を整えると周囲を警戒し始めた。
目、耳、鼻、皮膚全ての感覚からハイブリッドのいる場所を感じ取るよう五感を研ぎ澄ます。
あたりが一瞬シーンとしたあと
「『右手前の瓦礫の向こう』」
出雲と由里香の声が重なる。
その指示した場所から大型のハイブリッドが姿を表す。
「でたな!くっついてるからやっぱり鋼だ。大きさは3体合体くらい。」
「気いつけや。なんやったら救援向かわすけどどうする?」
「いや、鋼なんかで救援はいらんよ。マグナム頼れる男にまかしとき!」
ハイブリッドは出雲を発見すると、雄叫びを上げ一気に距離を積めるよう体当たりをしてくる。でかい図体の割に俊敏な動きに見えるが、出雲は余裕な表情で身構えるとビルの壁面を蹴り空中に身体を投げ出した。
「ははっ、とれぇよ!」
パルクールのように空中でひらりと体をひねって攻撃をかわすと、すかさずハイブリッドの背中に電光ナイフをつき立てる。
そしてハイブリッドにザクッと深々と刺さったナイフを右手に力を入れバランスをとると、敵の肩の上にドスンっと自分の両足を着地させた。
「これだけじゃくたばらないお前にプレゼントフォーユー!!」
ハイブリッドの頭の上に左手を下にむけた態勢をとる出雲。そうすると左手を隠すように覆っていた袋が取れ、中から巨大な機械の腕が姿をあらわす。
「バイブロ?!!」
ユリカの驚愕の叫びより早く出雲はプシューと油圧が抜けるような音を立てる左手に右手を添えると、めいいっぱい押し込んだ。
「気づいた時にはもうおそい。バイブロハンマー!起動!!」
出雲の叫びと共に出雲の左腕が凄まじい衝撃波を放つ。
隕石でも落ちたかのようなドンっという衝撃を受けたハイブリッドの体はぶるっと一瞬震えたかと思うと、身体が曲がってはいけない方向にへし折れピシピシっという大きな音と共に体に亀裂が入り、空中に細かくなった破片がキラキラと舞いちる。
それでも止まらない衝撃は地面に突き抜けると大きなヒビを入れた。
そこまでは出雲の予想通りだったのだが、それと同時に周りの建造物にまでヒビが走りはじめ次々と振動でなぎ倒して行く。
「おう?おぁぁ」
出雲の周囲一帯が無残にもハイブリッドと共に崩れ去った。
「あぁぁあぁぁ‼︎しまったぁぁ!」
オペレーターごしに出雲の叫び声と凄まじい爆音が響き渡った。
そして冒頭の場面に戻るのである。
「なんでバイブロハンマーつこうたん?」
「アレ好きなんでたまにはって思って 、バイブロハンマーに気合いと夢を込めすぎました。キリッ」
「ほんまにふざけんなよ!壊すなっつうたよな‼︎」
「・・・はい」
「都市機能回復任務は違う子に任せるから、早く帰って始末書書いてな。」
「はい」
ブチ ツーツーツー
若干由里香に本気で怒られてへこむ出雲は服についた瓦礫の埃などを払い終えると本日は寂しそうにとぼとぼと会社に報告しに行くのであった。