リルカ
その奇抜な衣装の女は、出雲の方を半身で首だけ振り向くと、出雲に向けて日傘のようなものの先端を向け不気味に微笑む。
「腐れハイブリッドに、腐れエレクトリカ、まとめてあの世に送ってやんよ。」
女はそうヘラヘラしながら言い放つと日傘のようなものの手元のつかのレバーを引いた。
ブルルッと手に持っているものが振動し、ブーンとひときわ高い音が鳴ったあと、ドッドッドとエンジンがかかるような音があたりに鳴り響く。
「おいおい、物騒なもんもってんなぁ。ただの日傘ではないとは思ってたが、リコイルスターター付のトリガーエンジンブレードかよ。いい趣味してるが旧世代の遺物だぞ。」
「ハッ、よくわかってじゃねーか、腐れのくせに。」
「確かにいい趣味してるが、今の時代はバイブロだクソ女!」
「はっはー、うぜぇー、死ねよ腐れエレクトリカ。」
女は言葉を放つと同時に右手に持っているエンジンブレードの先端から弾丸を出雲に向けて射出する。
射出された弾丸は回転し出雲の顔めがけて飛んでくるが、出雲も薄暗い中それに反応すると、左手のバイブロハンマーの金属部分で飛び出した弾丸をはじき受け止める。
キーンと金属と金属がぶつかった音がし、弾丸は地面へと落下する。それを合図に出雲はそのまま女に向かって低い姿勢で突進していく。
「はっはぁ、腐れのくせにやるじゃんお前。カスには変わりねーけどな。」
女はそう言い放ちググっと身を縮めると、エンジンブレードのカモフラージュだったパラソルだった部分を引き抜くと歪に回転するブレードが現れる。
不規則に回転する刀身は妙な音をたて空気を切り裂いていく。
そして抜刀したと同時に恐ろしい速さで出雲との距離を縮めると出雲に向かって一閃する。
「はっ、死ねよ腐れ!」
ブーンと空中を切る音。
女の一閃を間一髪で体をひねりかわすと、すかさず2撃目を放とうとする女にバイブロハンマーのチャック部分を使い女の武器を固定する。
ギャギャギャっと金属が無理やりこすれるような音がし、こすれあった金属は周囲に火花をまき散らす。
「てめぇ『レネゲイズ』か?」
「はっはぁ、私はリルカだ。リルカ・アルデだ。死ぬ前に覚えたか? 」
「質問の答えになってねーぞ、クソ女。」
喋り終わると同時にリルカはブレードを一瞬手離し、横に一回転するとそのままの反動で出雲に向けて回し蹴りを放つ。
出雲もリルカの蹴りを右手でうけとめるが、常人とは思えない力に跳ね飛ばされてしまう。
(なんつう力だよ、こいつ本当に女かよ。)
地面を数回バウンドし転がる出雲にリルカはすかさず追い討ちをかける。地面のブレードを拾うと、そのままの勢いで倒れている出雲に向かって突進する。
「死ねよ!腐れエレクトリカ!」
リルカがエンジンブレードを出雲に向けて、上から振り下ろそうとした瞬間だった。
バチバチッ
リルカに向かい光速の雷が、出雲の後ろから襲いかかる。
「?!!」
バチバチっと電気の渦がリルカの手前で光り、空気が爆ぜる音とともに、閃光がリルカに直撃する。
「があぁぁ!!」
リルカは予想外の雷の直撃を受け、悲鳴をあげると動きを止め、その雷の発生先に首をブルブルと降った後目を向けた。
「クソがぁ!いってぇーな。誰だテメェ?!」
リルカの視線の先には、電気を纏い放電する布志名の姿があった。布志名はリルカを警戒したまま出雲に駆け寄る。
「大丈夫か?出雲。」
「正直助かった、サンキュー布志名。あの女、多分レネゲイズだ。」
そういうと振動型電光ナイフを腰袋から取り出し右手に持つと再び戦闘態勢に入る出雲。
布志名もそれを確認すると、改めて体に電気を纏った。
雷の直撃を受けたリルカだったが、片膝をついた状態から立ち上がると、ビキビキっと血管を浮かし、体についた雷紋を右手で触る。
「がぁぁ!クソが!」
次の瞬間ドス黒い何かがリルカを包む。
リルカの瞳がよりギラギラと殺意を放ち、野生の獣ばりの獲物を漠然と殺す意思がビリビリと空気を歪める。
浮き出た血管。
瞳孔の開いた眼。
体の筋肉は脈動し、ギリギリと歯を鳴らす。
「やってやんよ!腐れエレクトリカあぁ!」
リルカはポケットの中から何かを取り出すと、それを口の中に入れ飲み込もとする。その、カプセルのようなものをリルカが口に含んだ瞬間だった。
突如、リルカの携帯が鳴り響く。
殺意を撒き散らすリルカだったが、携帯を取り出し画面を見るとチッと舌打ちすると、飲み込もうとしたカプセルを吐き出した。
「クソが!ここでかよ!」
リルカはエンジンブレードを地面に叩きつける。
「撤収しろだとよ。はっ、命拾いしたな、腐れ供。今回は、ひいてやんが次は殺すからな。腐れエレクトリカぁ!」
そう言い放つと、地下に開いた地上への穴へと、人間とは思えない跳躍力でジャンプしたリルカは2人の視界から姿を消した。
リルカがいなくなったあとその場に倒れこむ出雲。地面に仰向けになったまま布志名に喋りかける。
「ったく、なんだったんだよあいつ。布志名のビリビリ食らった直後なのに、本当に人間かよあいつ?」
「確かに加減はしたが、動けるほどには加減してないんだけどな。お前が言う通りレネゲイズで間違い無いんだろう。」
「だよな、さすがに疲れたわ俺。」
「お疲れさん。でもお前の仕事まだ残ってんだろう?」
「まあな。」
リルカがいなくやり、静けさの戻った薄暗い地下。出雲はヨッと立ち上がると、なりかけの少女にかけより話しかけようとする。
少女は一瞬ビクッとしたものの、近づいてくる出雲に頭を下げると、小さい声で喋り出した。
「ゴメンナサイ逃げたりして、アイツラにミンナ殺されたから・・・。」
謝る少女に出雲は片膝を地面につき、少女と目線を合わすと、少女を抱きしめた。
「怖かったよな。でも、もう大丈夫。俺たちは君を助けてやれるから、安心してくれ。」
そう言い少女の頭をポンポンと叩くと、持っていた救急箱からアンプルを取り出す。
「ちょっと、チクっとするけど我慢しなよ。」
「うん。」
出雲はアンプルを注射器にセットすると、少女の腕に慣れた様子で刺した。
「これで大丈夫。直ぐに医療班がくるから、地上まで一緒に行こうか。」
「うん。」
少女からは先ほどまでの警戒の眼差しも消え、10代らしい可愛らしい笑みを出雲に向けていた。そんな少女に出雲はとびきりの笑顔を返すと手を差し伸べる。
「いままで1人で良く頑張ったね。」
そういうと手を繋ぎ地上に向けて歩いて行く2人だった。