はじまり
ヘルメット 緩みなし、ヨシ!
作業着 袖ボタン、ヨシ!
安全帯 伸縮胴綱、ヨシ!
武器はドライバーにモンキーにスパナと電工ナイフ
あとラチェもあるか。
道具を確認した男は防壁で囲まれた機械仕掛けの大きな門扉の前まで来ると、カードリーダーに自分の胸ポケットから取り出したカードを差し込む。
ザッザッ カシャ ピー
『ロックを解除しました。id番号13-333-ss978。出雲 儚 さま確認しました。』
自動アナウンスが流れ、男の名前とID番号を通達する。
『本日の担当エリアはG3-29区ハイブリッドの殲滅及びG3-29区の都市機能1パーセントの回復をお願いします。』
「はいよ、今日も一日ご安全に。」
ボロボロになった街並み、今じゃ20年前の姿をここから思い起こす方が難しいだろう。
崩れたビル。
途中で切れた電線。
へし折れた電柱。
以前ここに1000万人も本当に住んでいたのだろうか? 疑問さえ浮かんでくる。今じゃ廃墟 ゴーストタウンだ。
そんな街中を歩く一人の男。
先ほどG地区のゲートのロックを解除した、左のもみ上げを長く伸ばした変な髪型の中肉中背の男。
名前を出雲とかいて、しゅっと。
珍しい苗字の男 23歳
「あぁ今日も一人作業かよ?布志名の野郎手伝いに来るとか言っといて結局俺一人かよ!」
生憎独り言を大声で叫んでみても人一人出てこない。出雲の声はむなしくこだまするだけであった。
ぴっぴぴぴ
突如胸ポケットの中の携帯電話が鳴り響く。
出雲は携帯をとりだして、慣れた手つきで通話ボタンを2回押してから長押しする。
『ハイブリッド残存地区内に入りました。これよりオペレーターモードに切り替えます。少々お待ちください』
自動アナウンスが流れ数秒経つと、機械ではなく人間の女性の声が聞こえてきた。
「はい、本日オペレーターを担当する。西尾由理香です。よろしくお願いします。」
「なんだ今日オペはゆりちゃんか。よろしく出雲でーす。」
「なんや、しゅと君か。じゃあ簡単に説明するな。そこにいるハイブリッドの数はおおよそ3体しゅと君の左前のビルやねハイブリッドの種類は多分ノーマル、鉄タイプやと思う。」
「これはバイブロチャンスか?」
「あかんよ、そのビルまで電気が来とるから、バイブロなんかぶち込んだら許さへんからね。ハイブリは多分ビル3階付近や。」
「はいはい、了解です。じゃあ今からビル入るからナビゲートよろしくお願いします。」
出雲は携帯をヘッドレシーバーに切り替えるとビルの入り口付近まできて、体に巻いていた胴綱がかけれそうな鉄筋にフックをかけその場からジャンプ。反対側の胴綱を強く引き反動を利用して一気に三階まで飛び移る。
そのままの体制で胴綱のフックを器用に外し、3階の窓から中に向けて飛び移った。
「右手前方に一体おるよ。気いつけや。」
由里香の指示に、出雲はニカっと微笑むと体を指示した方向にむける。そして安全帯に入れていたプラスとマイナスのドライバーをハイブリッドのいる方向にむかって投げつけた。
小型のバッテリーがついた両方のドライバーがコードでつながっており、投げつけたドライバーはハイブリッドの手前でバチバチとすごい音を立てる。そしてドライバー同士が重なり合った瞬間青白い強い光を発生し電気を帯びハイブリッドもろとも爆散した。
「アーク放電いたいじゃ済まないからね。まずは一匹やったよゆりちゃん。やっぱ使い慣れた武器は扱いやすいわ。」
「油断しいひん、そこさらに右手前方にあと2体。」
由里香からのオペがとぶ。
「わかってる、あとは電光ナイフの餌食にしてやる。」
出雲が腰につけていた電光ナイフを右手で掴むと、つかの部分のボタンを押す。
キィィィーンと高い音が鳴り響くと、出雲は2体のハイブリッドにナイフを向けてまっすぐ突っ込む。そして、空中でくるりと回転すると電光石火のナイフ捌きで対象を切り裂く。
ハイブリッドとナイフが重なり合いキィィィンとさらに甲高い音がなったかと思うと、ハイブリッド2体の体を真っ二つに切り裂いた。
「やっぱ振動型電光ナイフ最高だわ。はい殲滅ミッションは完了。ハイブリッドはやっぱり鉄タイプだったよ。でも、不思議だよな20年前なんで急に人間と鉄がくっついたんだろ。鉄と人間が結びつくと受信体をつくり人を襲ってくるか、俺もいつかあんなになるんかなぁ・・・。あっ、あとオペレーターモードから切り替えよろしく。」
「はい、お疲れ様独り言が多すぎるって布志名くんに文句言っとく。あとは、電気が地下から立ち上がってるから、一階までのルート確認してあがってもらっていいから。」
「はい、後は都市機能の回復に頑張ります。あっそうそうハイブリッド片付けたから都市回復工事の増援よろしくね。それでは。」
そういうと出雲は地下に向けて崩れた階段を降りて言った。