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ダークウィッチファンタジー   作者: 新木一天
1章 グリモア
6/22

5話 協力関係

短いです

 その日の夕方。パレード襲撃事件も一応の収まりを見せて、町に再び平和が訪れた。人々は一種の戸惑いこそあれど、明日の神殿での儀式に立ち会うために早めに床につく。


 そんな中でロトは一人の少女と向かい合っていた。彼女はスウッと深く息を吸う。


「……これはいい茶だな。なんというか、深い香りがいい。どこの葉を使っているのだ?」


 教養が深そうな顔をして、彼女はロトに尋ねる。ロトとしてはなんとも答えにくいのだが答えてあげることにした。


「……カプチーノなんですけど」


「それはさておき、本題だ」


 顔つきを変える彼女。しかしよく見てみると耳が赤く染まっている。


 ロトは先ほどの騒動の際、不覚にもこの少女に背後を取られてしまいそのままこの店へと連れらてたのだった。


「私がここに君を連れてきた理由、わかるよな?」


「……さあ?」


 予想はできていたが、敢えて分からないような態度をとるロト。彼女はそれに対して特に何かを感じた様子もない。


「話を始める前に、いくつか確認したい。お前は私のことをきちんと理解している(、、、、、、、、、、)のか?」


 推し量るような彼女の声が痛かった。この口ぶりは知っている。魔女に、関わってしまった者の口ぶりだ。


「ええ、わかりますよ。君もでしょ? 君も魔女によって苦しめららたんですよね?」


「ふふ、やはりお前を見つけられてよかった。こちら側の人間だったとはな」


 そういうと彼女はスッと頭を下げて、


「まずは昨日の非礼を詫びる。申し訳なかった」


 そう言った。ロトは予想外の展開に目をパチクリさせたが、すぐに顔に微笑みをたたえて、


「いや、いいんですよ。どうやってこの人々の中から僕を見つけ出したのかは知りませんが、もし僕の正体を知れば攻撃しようと思うのは当然の事ですし」


 ジッと照れ笑いをするロトを見つめる少女。やがて彼女はやけにあっけらかんと言った。


「どうやったかわからんと言ったな。……見えるんだよ。私には見えるんだ、魔女のオーラが」


「魔女のオーラ?」


「いや、理解してもらおうとは思っちゃいない。こんな話荒唐無稽で私自身信じられていないからな。だが、私の言っていることは事実だ」


 ピンと空気が張った気がした。ロトの背筋も自然と伸びてくる。


「私のこの目な、魔女に以前潰されたんだ」


 壮絶なカミングアウトを息を吸うように軽々しく口にする。やはり魔女が関わっていたのか!


 憤りをあらわにしてはいけないと自制。しかし、そんな意図も見抜かれたのか、彼女はロトの方を見てクスクスと笑い始めた。


「クスクス……。ああ、すまない。嬉しくてな。魔女に目潰されなんて話したら、他のやつなら馬鹿にするなと一蹴するところだぞ」


「そりゃどうも。あいにく俺も魔女と関わってしまった口なんでね」


「それはさておきその口調をなんとかできないか? なんだか息が詰まりそうなんだ」


「あっ、そうで……、なのか? わかった。俺もなんとか勤めるよ」


 「結構だ」と愉快だと言わんばかりの恍惚な表情でこちらを見つめる彼女。誰にも信じてもらえない辛さを知っていたロトには、彼女の味わっている安心感がどれほどのものなのかが分かっていたロトにとっては微笑ましい限りである。


「さて、話を戻そうか。先に言った通り私は魔女のオーラが見える目を持っているんだ。やつに潰されたことによって覚醒したんだろう。そしてこの目でお前を見た」


 彼女はロトの目を覗き込む。


「驚いたよ。お前の纏う魔女のオーラは強すぎる。特に右腕のあたりなんかは堅調だ。私でなくとも思うだろうさ。魔女だと」


「堅実な判断だね」


「褒めてもらっちゃ困る。これは奴が私に押し付けた目の力であり、私の力では断じてないのだから」


 芯の通った真っ直ぐな目をしていた。ロトの嫌いな目の一種類である。


「ところで、本題はなに? まさかこの種明かしのためだけに連れ出したんではあるまいし」


「いやいやわからんぞ。存外そうであるかも知れない。そうである事とそうでない事は同じくらいの割合で存在するのだから」


 くだらない冗談を言う。随分と余裕がありそうだ。


 ヘラヘラと掴み所がない彼女を置いておいて、とりあえずどうやってここを抜け出そうかと言う算段を立てていた時、いつになく真剣な眼差しをした彼女はロトに言った。


「単刀直入に言う。私と手を組んではくれないか?」


「……は?」


「単刀直入に言おう。私と協力してあの神官を倒して欲しい」


「いや、言い換えても同じだから。君は何言っているんだい? なんであの神官を攻撃することになってるの?」


「あの赤い本を。お前は欲しているのだろう?」


 物事の核心をつくのが上手い女である。はじめに自分の手の内をある程度晒すことで、断りにくくもさせているのが怖いところだ。


「あの神官、今日こんなことがありながら明日の儀式の方も強行する気らしい。取るなら今だ。あいつはおかしな術を使う。私だけでは不可能と判断した」


「確かに俺はグリモアを狙っている。お前の標的があの神官になったのも、魔女のオーラとやらのせいだと考えれば妥当だと言えるだろう。だが、俺がお前と組むメリットが見当たらな——」


「魔女について」


 ロトの言葉を遮った彼女は満面の笑みでこちらを見た。


「有益な情報を持っている。お前が知らないような情報だ。さらにこちらには目がある。ある程度奴の足取りも捕めるだろう」


「…………」


「…………」


 三分。彼女の真意を伺うには十分すぎる時間だった。


「……何か、計画はあるの?」


 ぱあっと少女の顔が明るくなる。ロトは目を伏せたが、手を握って飛び跳ねられた。「ありがとう」と連呼する彼女の姿が人目について恥ずかしい。


 ロトは結局折れたのだ。逃げたのかも知れない。


 こうしてロトと少女の一時的な協力関係が結ばれた。

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